位置ゲーにRPG要素は必要か。『テクテクライフ』の戦い。開発者・麻野一哉に事情を聞いた

2020.8.19
テクテクライフサムネ

文=北村ヂン 編集=アライユキコ 


『Ingress』や『ポケモンGO』などの位置情報を利用したゲームが話題を集めるなか、2018年11月に配信スタートした純国産の位置情報ゲーム『テクテクテクテク』。
ユニークなモンスターが続々登場するRPG要素に加え、現実の街を歩き回って街区(道に囲まれた一区画。『テクテク』では街区単位で塗っていく)を塗りつぶしていくという独特なシステムが話題に。伊集院光が自身のラジオ番組『伊集院光 深夜の馬鹿力』でたびたびプレイ状況をレポートするなど、一部で熱狂的に支持された。

しかし、課金をしなくてもじゅうぶんに楽しめるシステムがあだとなり、2019年6月にサービスが終了することに。その際、「いつか復活させる」とのメッセージが出されたものの、この手の業界ではお約束のようなもの。本当に復活すると信じていた人は少ないのではないだろうか。
ところが今年6月に、続編となる『テクテクライフ』が発表され、クローズドベータテストも実施。2020年内の配信スタートが予定されているという。

地区ごとに100%をめざす(c)テクテクライフ 画面は開発中のものです
地区ごとに100%を目指す(C)テクテクライフ 画面は開発中のものです


前作にあった戦闘やRPG要素がバッサリとカットされ、「地図を塗りつぶす」ことに特化したシステムとなった『テクテクライフ』。ファンとしては待望の復活だが、果たしてそれだけでゲームとして成立しているのか……!?

……ということで『テクテクライフ』ゲームデザイナーであり、過去には『弟切草』『かまいたちの夜』『トルネコの大冒険』『風来のシレン』など数々の名作ゲームを作った麻野一哉と、彼の盟友で『ぷよぷよ』『バロック』をはじめ、最近では『はぁって言うゲーム』『はっきよいゲーム』などのアナログゲームも手がけている米光一成に、蘇った『テクテクライフ』についてぶっちゃけトークしてもらった。

麻野一哉と米光一成
麻野一哉(左)米光一成(右)

コンセプトは「歩く『ドラクエ』」だった

米光 前作『テクテクテクテク』はけっこうやってたんだけど、「戦闘いらねぇ〜!」と思ってた派。麻野くんがずっと地図を塗ってたのを知ってたんで、本当はそっち(地図塗り)をやりたいんだろうなって。

──地図を塗ってた?

麻野 そもそもが20代で東京に出てきたとき、「せっかく来たんだから東京都すべてに行き尽くしたい」という欲望があったんですよ。

麻野一哉の塗った地図
麻野一哉の実際に塗った地図帳

──普通は「全部の駅に行こう」くらいの感じじゃないですか?

麻野 それだと駅周辺だけだから、とてもじゃないけど行き尽くしたことにならないと。かといって実際に行った半径何メートルを塗るとかも難しいんで……ゲームシステムがわからなかったんですよね。それでずっと放置してたんだけど、『Ingress』が出てきたときに、「ポータル」っていう、各地の有名なお地蔵さんとかお寺とか看板とか壁画とか……主要なポイントが設定されていたんですよ。

じゃあ、そこに行ったら地図を塗りつぶすことにしようって。これで悲願の東京塗りつぶし生活ができるぞと。そのころ、米光さんに地図を見せたら「バカじゃないの」って言われたけど(笑)。

米光 そうそう、それを知ってたから「ああーっ、これがやりたかったんだな」と思って。でも「戦闘がついてて邪魔だな」と。地図を塗る過程で、ちょっとフレーバー的に戦闘があるのかと思ったら、ある意味、戦闘が軸に見える作りだったでしょ?

麻野 田村くん(『テクテクライフ』プロデューサー・田村寛人)と位置情報を利用したゲームを作ろうってなったときに『Ingress』は当時流行ってたけど、ちょっと一般性がないかなって思ったのね。あれはハードSF寄りだから。田村くんはもっとメジャーな感じのものがやりたいって言うから、「じゃあ手っ取り早いのは歩く『ドラクエ』みたいなイメージだよね」って。

もちろん『ドラクエ』をそのまま引っ張ってはこれないので、僕らのほうでRPGを新しく作って、それと位置情報ゲームを組み合わせようというのがそもそもの発端だったの。だから当時はタイトルも仮で『アースクエスト』って呼んでたから。

田村寛人
『テクテクライフ』プロデューサー・田村寛人(たむら・ひろと)

──ああ、RPGっていうほうが先だったんですね。そこに地図塗りを入れた理由は?

麻野 位置情報ゲームを作るために出資者を募っていたら『ポケモンGO』が出て大ヒットしたんですよ。それでドワンゴの川上(量生)さんに呼び出されて「うちが全部出資するから」って。

最初のコンセプトが「歩く『ドラクエ』」だったので、川上さんも当時のスタッフもみんな「RPGを作る」っていう頭があったと思うんですよね。僕もそれは全然いいんだけど、なんとか地図を塗る機能を入れられないかと……。ずっと『Ingress』をやりながら手作業で地図を塗ってたんで、それをアプリ内で完結したいと強く思ってたんです。

まわりのほとんどの人たちは「そんな機能、別に要らない」って言ってたけど、「麻野がそこまで言うんだったら入れてやろうか」という感じでしたね。

麻野一哉
麻野一哉(あさの・かずや)。ゲーム作家。1963年尼崎市生まれ。チュンソフトで『ドラゴンクエストIV』『ドラゴンクエストV』『弟切草』『トルネコの大冒険』『かまいたちの夜』『街』。以後フリーランスで『銃声とダイヤモンド』『仮面の勇者』『テクテクテクテク』

ゲームをやらない母親が『テクテク』だけはやってくれた!

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北村ヂン

(きたむら・ぢん)1975年群馬県生まれ。各種面白記事でインターネットのみなさんのご機嫌を伺うライター&イラストレーター。藤子・F・不二雄先生に憧れ過ぎています。

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