一生営業をやるために、一度M-1で結果を
大宮で営業スキルを磨きつづけたすゑひろがりず。そんななかで、南條はまだ野望を捨てていなかった。というよりはむしろ、劇場や営業の道を一生歩みつづけるために、一度は諦めた漫才に、再び正面から取り組まなければならないと考え始めていた。

三島 こういう芸風ですし、ちっちゃい営業なら大宮に限らずわりと多いほうだったんですよ、売れてないわりには。人気者と抱き合わせで呼んでもらって、前座でやらせてもらってた。僕はそれでまあ満足してました。「バイトだけ辞められたらな、あと10万なんやけどなあ」くらいの感じで。
南條 三島はあんまり欲がないタイプなんでね。そういう僕ものんびりしてて、「とにかく毎月20万円をずっともらえるようにがんばろう」くらいの感じではあったんです。
三島 けど南條があるとき、「前座じゃなくてメインで呼ばれな、一生やっていくにはキツい」と。
南條 2019年の春くらいかな、前説の合間の楽屋で、単独ライブをやるかどうかで揉めたんですよ。三島は「もう新ネタとかはええんちゃう?」って。「単独ライブやってもお客さんなんか入れへん。だったら新ネタ作るよりも営業に備えておめでた芸を作るほうがいい」って言い出した。
三島 ほんまに人気がなかったんで。
南條 単独ライブもチケット売るのにずっと苦労してたのは事実で。それもわかるけど、僕は「営業で一生食っていくなら1回でいいからハネておきたい」って伝えたんです。一発顔を売って、「待ってました!」って言ってもらえたほうが絶対にやりやすいじゃないですか。だからそのために、「今年はちょっとM-1をがんばらしてほしい」と。
——そこでグッとモードが変わった?
南條 そうですね……。あと、昨年三島が結婚したのはでかかったかもしれないですね。おそらく「マジで稼がなあかん、ぐずぐずしてたら捨てられる」って思ったんじゃないですか。僕は三島がそこで変わった気がしますけどねえ。
三島 単純に結婚して運気が上がったんじゃないかなあ。

結局必要なのは個性だった
——M-1に向けて、どんなふうにネタを変えていったんですか?
三島 すごく細かい話なんですけど、それまでは舞台上で素に戻ることがなかったんですよ。ショートコントを何個かくっつけて漫才ですと言うてた。
南條 あそびの部分がまったくなくて、ずっと100パー伝統芸能キャラでやってたんです。
三島 そこに、ふたりの間のちょっとしたやりとりとか、アドリブを入れられるようなところを作って。
南條 まさに漫才ですよね。会話の部分。
三島 もちろん和風、伝統芸能風という持ち味は大事にしつつ、結局やっぱ個性がないと……。キャラでいいんなら、本物の狂言師の人に台本渡してやってもらうのが一番おもしろいってことになりますから。ちょうどその少し前くらいから、ライブの、ネタじゃない部分で「俺ってこんなとこでウケるんや」というのがだんだんわかってきたんですよね。和の感じじゃないところでウケた瞬間を見つけて、自分のニン(人柄)に気づき始めた。
南條 そう思うとやっぱり、大宮がでかいなあ。
三島 大宮の劇場に出始めて、最初の1年くらいは僕ら浮いてたんですよ。先輩方もどう触っていいのかわからない感じだった。で、まず僕が鬼のようにイジられはじめたんです。
南條 わかりやすいんでね。
三島 それがひとしきり終わったと思ったら、もう今は(南條を見る)。
南條 僕なんて、自分のことイジる側やと思ってたのに、もうめちゃくちゃですよ。
三島 南條って、変なところで言葉を挟んだりとかするんです。そんなちっさいところに目つけられて。普通だったら、最初にイジるのは僕らの和風のとこじゃないですか。大宮の人たちって、そこはすっ飛ばすんです。
南條 「和風のとこイジるのは表でやってくれ、俺らが裏でしがみたいのはお前らの人間性なんや」っていう。そこでめちゃくちゃ叩き上げられた感覚はあります。
三島 パッケージじゃないところ、芯の部分の見せたくないところを引っ張り出されて、そこで笑いを取るっていう。
南條 でもそれって意外と、笑いの真理かもしれなくて。台本じゃないとこの、「人のおもろさ」というか。
三島 おかげで、メンタルが強くなりました。ちょっとのことじゃ、もうなんとも思わない。
南條 三島に関しては特に、大宮でいい説明書がどんどんでき上がっていった感じがします。
三島 営業で鍛えられて、劇場に帰ったらイジられて……。ちょうど今テレビで僕がイジられはじめてるんで、もしかしたらこの先、大宮のときと同じように南條の番が来るんかもしれん。わからん、大宮はかなり特殊だから、ほかでは通用しないかもしれないですけど(笑)。

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