サトミツこと佐藤満春。オードリーと共に歩み、日向坂46に号泣する男の、意外な野望とは?

2020.6.6

憧れだった『オールナイトニッポン』の現場へ

そして2009年の10月、オードリーの冠ラジオ番組『オードリーのオールナイトニッポン』の放送がスタートするに当たって、サトミツは若林に「現場を見せてもらえないか」と申し出た。もともと生粋のラジオっ子だった彼は、「ニッポン放送に行ってみたい」という思いだけで、ふたりに付き添うことになる。憧れの『オールナイトニッポン』の現場には、彼がずっと聴いていた『Oh!デカナイト』を手がけたラジオの巨匠・藤井青銅もいた。

「そこで青銅さんにいろいろと相談しているうちに、『じゃあ、作家見習いってことで毎週来ちゃえば』と言ってもらって。ただ好きで現場を見に行っただけなのに、肩書きもいただいて。そのまま会議にも参加するようになりました」

作家の仕事は彼にとって、バラエティのひな壇に座っているよりもずっと、しっくりくる居場所だった。『オードリーのオールナイトニッポン』を皮切りに、サトミツはテレビ番組や舞台などでも少しずつ構成作家として仕事の幅を広げていく。しかし、当然ながら裏方の世界にも、その道ひと筋の放送作家やディレクターなど才気あふれるスタッフがそろっている。ネタを磨いて評価されてきた芸人とはいえ、すぐに作家として活躍できるほど甘い世界ではなかった。

『オードリーのオールナイトニッポン』生放送中の様子(番組公式ツイッターより)

「最初のころはめちゃくちゃ挫折もありましたね。やっぱりどこに行ってもアウェーでしたし、『芸人もやって作家もやって、結局何がしたいの?』って思う人もいたでしょうし。すでに活躍している裏方の先輩方はスターばかりで、その中で結果を出さなきゃいけないっていうのは、芸人の世界と一緒です。まわりの作家さんたちのポテンシャルとか行動力とか、すべてに圧倒されていました」

しかし、ようやくつかんだ「作家」というポジション。簡単に手放せるわけがなかった。

「でも、苦労だとは思わなかったんです。最初は誰も話を聞いてくれませんでしたけど、アイデア勝負だから少しでも結果が出せれば、企画も通るようになって。プレゼンをしたり企画を台本に落とし込むのって、おもしろいと思っていることを言語化する作業で、僕にはそれが向いていたのかもしれません」

『たりないふたり』の会議でつかんだ手応え

芸人兼構成作家という異色のキャリアがスタートして数年が経ったころ、サトミツに転機が訪れる。それは、若林が南海キャンディーズ山里亮太と組んだユニットライブ『たりないふたり』の会議に参加したときのことだった。

「これも最初は仕事として呼ばれたわけではなくて、ただ『おもしろそうだから現場を見せてほしい』ってお願いしたんです。『たりないふたり』立ち上げ当時は、日テレのディレクターの安島隆さんと、若林くんと山里さん3人だけのミニマムなチームで、僕は4人目の参加者としてお邪魔するようになりました。今はまた状況が違いますが、当時はふたりの抱えている闇を吐露するかけ合いの漫才をしていて、会議でも思いついたことをガーっとしゃべるんですよ。ふたりとも天才なんで、それがもう、漫才みたいになっていたんです」

ふたりが無意識に漫才を繰り広げるなか、サトミツは誰に頼まれたわけでもなく、そのセリフをノートパソコンに打ち込んでいた。そして会議終了後、さっきまで熱弁を繰り広げていた山里と若林が「あれ、何しゃべったっけ?」と言ったタイミングで、彼はセリフをワードに打ち直した原稿を印刷してふたりに差し出した。

「あのチームで僕が最大限できることは、ふたりの会話を文字に残しておくことだったんです。全然クリエイティブなことじゃないかもしれないけど、ふたりが喜んでくれたことで、自分が少しでもチームに貢献できたんだとやりがいを感じましたね。あそこで『やってよかったな』と思えたのが、作家の仕事の原体験かもしれないです」

このことを経て、サトミツはチームでの居場所を見つけ、山里はのちにイベントで「とにかく人の話をまとめるのがうまい!」と絶賛するほど、彼に信頼を寄せることになる。

自分が目立たなくても、おもしろいことに携わりたい

斬新なアイデアやクリエイティブな企画で結果を残すのが、放送作家という仕事の花形かもしれない。しかし、彼は「自分がその現場にいること」の意味を考え、どんな形でも番組作りに貢献することにやりがいを見出していた。そして「自分が目立たなくても、おもしろいことに携わりたい」という若手時代からの一貫した思いが、結果的に作家としてのキャリアを広げていくことになった。

「作家としていろんな現場に呼んでもらえるようになってからも、自分がそこにいる意味を考えていますね。それは、たとえば芸人としての視点かもしれないし、自分の持っている情報を伝えることかもしれないけど、仮に雑用が必要であれば、雑用をすればいい。もちろん作家なので企画や台本で結果を出すべきタイミングもありますけど、『自分は作家だから』みたいに変な自我を出さないようにしています。どんな番組も舞台も、自分のアイデアだけで何かが形になるわけではないですし、チームプレーだと思っているので」

サトミツは自身の仕事について、「センスが評価されて現場に呼ばれているわけではない」と語る。それは半分は謙遜で、半分は本当なのかもしれない。ただ「必要とされていることをなんでもやる」という彼の姿勢が、芸能界の並みいる天才たちから信頼されてきたのも事実だろう。

作家としてのこれまでの歩みを振り返りながら、彼は「自分がこのアイデアを出したからおもしろくなった、みたいなことを言わない人生でいたいんですよ」と照れくさそうに言った。

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