再び劇場で集まれる日のために、希望のある作品を
劇作家としての苦悩は想像に余りあるだろう。それでもなお、彼女はその制限の中で「どんなおもしろいことができるのか」と前向きに思考しつづけている。相手と直接会えないからこそ、新しいコミュニケーションの手法が生まれるかもしれない。今まで予想できなかったテクノロジーが誕生するかもしれない―――。時折、笑いを交えながら話す彼女の口ぶりは、そんな未来を楽しみにしているようだった。
「オンラインで誰かと食事しながら、『ひと口ちょうだい』って味をテレポートできたらいいですよね。もう実際にそういう技術を研究してる会社もあるらしいですよ。“SUSHI TELEPORTATION”(寿司テレポーテーション)っていうらしいんですけど……すごいですよね(笑)」
できないことがあるからこそ、既存の枠に囚われないアイデアや技術が生まれる。それは時間を巻き戻したり、時空を飛び越えたり、現実では起こり得ないことを舞台の上で表現してきた根本の作劇にも通じるものがある。
「私自身、日常生活では問題ないんですけど、ちょっと足が悪いんです。普段から役者を演出するときも、自分ではできない動きを言葉にして伝えるっていうことをしてるので、それに近いのかもしれないですよね。“できたらいいな”シリーズというか……。そういうことも、最近になって気づきました」
リモート版で書き換えた、ラストのセリフ
いつか劇場が再開したら、彼女はどんな作品を書くのだろうか。取材の最後にそれとなく質問をぶつけると、こんな答えが返ってきた。
「個人的には希望があるものを書いていきたいなって。すごくみんな精神的にも疲れてると思うので、最初にみんなが劇場に集まれることになったときは、『本当によかったね』って手放しで笑ったり喜んだりできるような作品にしたいんです」
公演が打てない状況下で、現状を少しでも前向きに捉えながら、誰よりも彼女自身が劇場に再び集まることができる日を望んでいる。ひとりの観客として、希望を絶やさずにその日を待ちつづけたいと思う。やっぱり生の舞台が観たい。誰かと感想を語り合いたい。
リモート芝居版の『あの子と旅行行きたくない。』は最後、「もう〜、テレビ電話ってストレス!」というセリフで終わる。実は今回のリクリエイションに当たって、彼女は物語の結末を書き換えていた。
「2014年に上演したとき、最後のシーンは『パスポートの期限が切れてて旅行に行けない』っていうオチだったんです。だけど、今そんなの観たくないじゃないですか(笑)。だから最後、やっとみんなで旅行に行けるオチにしました。やっと直接、みんなが会えて、『テレビ電話じゃなくなってよかったね』って」
超、リモートねもしゅー「あの子と旅行行きたくない。」
作・演出:根本宗子
キャスト:根本宗子、椙山さと美、安川まり、ゆっきゅん
劇中楽曲:小春(チャラン・ポ・ランタン)
販売価格:1000円(レンタル30日観放題)
本編尺:40分程度
販売サイト: Filmuy(フィルムィー)
▶︎【総力特集】アフターコロナ
『QJWeb』では、カルチャーのためにできることを考え、取材をし、必要な情報を伝えるため、「アフターコロナ:新型コロナウイルス感染拡大以降の世界を生きる」という特集を組み、関連記事を公開しています。