「子どもを持たない」と決めた私たちを苦しめる“規範”とは? 『今世は母になりません』月岡ツキと考える

2026.9.29

文=ねむみえり 撮影=大嶋千尋 編集=高橋千里


私は「子どもを持たない人生」を歩んでいこう。そう決めたとしても、パートナーとの話し合いや、子持ちの友達との距離感など、悩みは尽きない。

9月9日に『今世は母になりません』(太田出版)を刊行した、月岡ツキ。同書には、子どもを持たない既婚女性11人それぞれの思いが実録されている。

月岡ツキ『今世は母になりません』(太田出版)
月岡ツキ『今世は母になりません』(太田出版)

今回は、インタビュアーである筆者のもとに寄せられた、子どもがいない当事者が抱えている悩みを、著者と一緒に考えていく。

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結婚して子どもを産むのが「真っ当」だと思っていた

Q.いわゆる「ママタレント」はテレビやSNSでたくさん目にするけれど、自分より年上で子どもがいない女性芸能人や職場の先輩はあまりいないように感じます。ロールモデルが見つからず、不安です(35歳・女性)

──“ロールモデル”に関するお悩みですが、月岡さんはロールモデルにしている人はいますか?

月岡 今は生き方がかなり細分化しているので、「この人のこの部分をまねしたいな」など、いろんな人のいいとこ取りをしています。

ただ、子どもを持たないことに不安が強かった時期は、「子どもがいない 芸能人」と検索して、「この人たちも子どもがいないし、大丈夫か」と思ったりしたこともありました。

最近は、あまり子どもがいるかどうかで人のことを見なくなりました。それでも身近な人が子どもを持つと聞くと、「おお!」という反応にはなりますね。

月岡ツキ
月岡ツキ(つきおか・つき)1993年生まれ。コラムニストとしてエッセイやインタビュー執筆などを行う。働き方・地方移住などのテーマのほか、子どもを持たない選択についても当事者として発信。『NHKニュース』内のドキュメンタリー、ABEMA『わたしとニュース』等に出演。著書に『産む気もないのに生理かよ!』(飛鳥新社)『傷つきながら泳いでく』(朝日新聞出版)。Podcast『となりの芝生はソーブルー』『月岡ツキの月面通信』配信中

──その「おお!」というのは、どういう感覚なのでしょうか?

月岡 自分とは違う道に行っちゃったな、みたいな、ちょっと寂しい気持ちですね。

でも、報告を聞いたときはそう思うけど、その人が人間としてガラッと変わってしまうわけではないじゃないですか。だから、そういうことにも慣れていくものなのかなと思います。

──私もInstagramで友達が子どもの写真を載せているのを見たりすると、「違う道に行ったな」と思ったりします。「じゃあ私も」と焦ることはないんですが、自分に年齢相応の何かが欠けてるんじゃないか?というモヤモヤを感じることはあるんです。

月岡 私もそういう時期がありました。きっと、自分の中にインストールされている“社会の規範”が「お前はそのままでいいのか?」って投げかけてきてるんですよ。なので、まずは自分の中にそういう規範があることに気づくことが第一歩なのかなと思います。

月岡ツキ

──月岡さんは、いつ自分の中に“規範”がインストールされていることに気がつきましたか?

月岡 前著『産む気もないのに生理かよ!』を書いたときですかね。最初は、誰かに「子どもを持ったほうがいいよ」とか言われることを圧だと感じているのかなと思っていたんです。

でも実際は、自分が内面化している“社会の目”が自分を責めていることに気づいて。それで楽になった部分はあります。

──月岡さんが内面化していた“社会の目”はどういうものだったんでしょうか?

月岡 結婚して子どもを産む、みたいな生き方が「真っ当」だと思っていたんですよね。

でも、たとえば自分の大事な友達が結婚して子どもを持たずに生きていたとしても、「全然それでいいじゃん、生きたいように生きなよ」と言うと思うんですよ。その言葉を、自分にもかけてあげればいいんですよね。

パートナーと「人生の最優先事項」を開示し合う

Q.子どもがほしい夫の希望を汲んで妊活を始めましたが、なかなかうまくいきません。私自身はそこまで子どもが欲しいわけではなかったので、無理に続けるのもしんどいです。このままでいいのでしょうか?(30歳・女性)

──こういった女性に対して、月岡さんはどんな言葉をかけてあげたいですか?

月岡 私は大前提として、子どもを産む側である女性が、産むか・産まないかを決めてほしいと思っています。ただ、自分の決断によって、夫の人生を左右してしまうという重さもあるから、難しいですよね。

月岡ツキ

『今世は母になりません』の中にも、親に気に入られるような人と結婚して子どもを持とうとしたけど、どちらもうまくいかなかった方が出てきます。

でもその方は、別の人と再婚をして、子どもがいない生活をエンジョイしているんですよ。それは、結婚して子どもを持とうと試みた経験がないとわからなかったことなのかなと思います。

そうやって、やってみたけど少し違ったなと後悔する権利もあるんじゃないかな。なので、自分がやりたいならやる、やりたくないからやらない、でいいと思うんです。

──今お話を聞いていて、パートナーと本音で話し合いができたら、少し楽になるのかなと思いました。

月岡 そうですね、何が人生において大事なのかって人によるじゃないですか。ふたりで生きていく上で最も優先したいことがなんなのか、お互いに開示してみるのは大事なのかなと思います。

たとえば「幸せな家庭を築きたい」と言われたら、「“幸せ”とはどういう状態のことで、何が満たされていたら“幸せ”なのか」を聞いてみるのもいいかもしれません。

それで、自分とは少し違うかもとか、ここは一致してるかも、ということがわかると思うんですよね。

月岡ツキ

──思い描いている家庭像も人それぞれですよね。

月岡 どんな家庭像を想像しているのか、夫婦でも違ったりすると思います。最終的に子どもを持つのか持たないのかを決められる状態になるまで、お互いの気持ちを開示し合うことはとても重要な気がしますね。

──今まであまりパートナーと話し合いをしたことがない人が、いきなり子どもの話をするのは難しそうです。

月岡 子どもについて話し合うのはすごく難しいし、そもそも話し合いって訓練がいるので、日頃から話し合いに慣れていたほうがいいですね。

たとえば、同じ映画を観て感想をしゃべり合うとか、「もし高校生に戻るなら、入りたい部活は何?」みたいな雑談から始めるといいと思います。

そうやって自分の気持ちを話すことに慣れていると、「子どもがいたらどんな生活かな」とか「いなかったらどんな生活になるんだろう」みたいなことを話すハードルがすごく下がると思いますね。

卑屈になると、相手と自分に線を引いてしまうことも

Q.子育てをがんばっている友達の悩みを聞くと、自分の悩みなんてちっぽけに思えてしまい、何も相談できなくなってしまいます。子どもがいる女友達と、どのように付き合っていくのがいいのでしょう?(36歳・女性)

──これは私も同意した悩みです。

月岡 子育てしている友達に対して、「自分はひとりで気楽なはずなのに、悩んでてすいません」みたいに思ってしまうということですよね。私もそういう気持ちになったことはあります。

でも、私はあんまり卑屈にならないほうがいいと思っているんです。卑屈になることで、「私とあなたは別ですよね」って自分で線を引いてしまうことにもなるので。

私は子どもがいる友達と『となりの芝生はソーブルー』というPodcastをやっているんですが、その子が「育児がやばい、つらい」とよく言っているんですよ。でも、それを聞いて自分の話はできないなとか一切思わなくて。

その友達とよくしゃべっていると、子どもがいようがいまいが、どっちもそれぞれが選んだ人生で、大変なこともあるし、楽しいこともあるということがわかるんですよね。

月岡ツキ

──友達とも“雑談”が大事になってくるんですね。

月岡 そうそう。私とその友達がおしゃべりを続けられているのは、「Podcastを収録する」という枠組みがあり、そのための話題も用意されている。それに、オンラインで収録をしているので、時間の制約もそんなに受けにくい、というのはあると思います。

おしゃべりを続けることが、お互いにとって心の栄養になっているので、雑談って大事だなと実感するんですよ。だから、みんなPodcastをやったらいいんじゃないかな(笑)。

以前、子どもがいる別の友達と久々に会ってたくさんしゃべったんですが、きっかけは、その子が私のPodcastを聴いてくれたことなんですよ。

それって、私が先にPodcastで気持ちを開示していたから、実現したことなんですよね。なので、自分の内面をどこかに吐露するのもいいかもしれないです。

──たしかに、何かSNSを更新していたら話しかけられやすいかもしれないですね。

月岡 そうそう。たとえばInstagramのストーリーズを見て“いいね”を押すのも、「応援してるよ」みたいな気持ちがあったりするじゃないですか。

だから、気心の知れた友達限定で、自分の気持ちを少しだけ吐露してみたりすると、思わぬところから連絡が来たりするかもしれない。

自己完結せずに、育児中の友達に悩みを相談してみると、思わぬところで共感されたりして、「自分の悩みって、子どもがいる・いないは関係ないんだな」ってことにも気づいたりすると思うんです。

まずはリアルで人としゃべることが大事で、そのきっかけを作るためにうまくSNSを使うのはいいと思います。

大事なのは、いろんな人の生き方に触れること

Q.私が「子どもを持たない」と表明すると、相手を傷つけてしまうのではと怖くなることがあります。そもそも「子どもを持たない」という選択肢があること自体が贅沢かもと思ってしまうのですが、気にしすぎでしょうか……?(34歳・女性)

──最後は私の悩みです。子どもを持つかどうかという話になったとき、「私は子どもを持たないって決めている」と表明したら、思わぬ誰かを傷つけてしまうんじゃないかという怖さがあって。「子どもを持たない」という選択肢があることがそもそも贅沢なんじゃないか?と。

月岡 産める人は産んだほうがいい、みたいに思っているんですかね?

月岡ツキ

──他人の選択に対してはまったくそう思わないんですが、自分に対してだけはそう思いますね。たとえば、もしも子宮の病気が理由で子どもを産みたいのに産めない人がいたら、自分の子宮をあげられたらいいのに、と思うんです。

月岡 気持ちとしてはわかりますが、「自分がどう生きるか」と「相手がどう生きるか」はまったく別で、コントロールしようがないことですよね。「役に立たなきゃいけない」みたいな生産性の呪いみたいなものもある気がします。

たとえば、大事な友達が「子どもを持たない」と話してくれたとき、「産めるなら産んだほうがいいのに」とは思わないわけじゃないですか。

──思わないですね。

月岡 自分に対してだけ異様に厳しくしちゃう状態って、ひとりで自分の規範の中でグルグル考えて自罰的になってしまっている状態だと思うんです。

そういうときに救いになるのは、いろんな人の生き方に触れることなんじゃないかと考えていて。それで、さっき話したような、自分が過去にインストールした“規範”から出られたりすることもあるかもしれない。

『今世は母になりません』には、そういった“規範”に苦しんできたけど、そこから解放されて、前向きに生きている方の話もたくさん収録しています。

──たしかに『今世は母になりません』と出会うことで、社会的な規範や常識みたいなものから脱せる人は多そうですね。私も読ませていただいて、これまでモヤモヤしていたところから少し抜けられた気がします。

月岡 本を読んで、人と話すことで「それもありなんだ」と思えますよね。それで私自身も心がかなり健康になったという意識もあります。

SNSだけではどうしても表面的な属性を見てしまうようになるので、心を許せる相手とリアルな場で少しずつ対話していけたらいいですよね。

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月岡ツキ『今世は母になりません』(太田出版)
月岡ツキ『今世は母になりません』(太田出版)

月岡ツキが、子どもを持たないことを選択した既婚女性たちへ匿名インタビューを実施。顔出しでは言えないような本音まで徹底的に深掘るノンフィクション。WEBでインタビューを掲載した10名に加え、書籍限定で「女性パートナーと暮らす人生」を選んだもう1名のインタビューも収録。

さらに書籍限定の特別対談として、連続テレビ小説『虎に翼』(NHK)などの脚本を手がける吉田恵里香が登場。「子どもを持つ・持たない」を入口に、私たちはどのように自分らしい生き方を選べるのか──。吉田恵里香と著者の月岡ツキが率直に語り合う、貴重なコンテンツとなっている。

『今世は母になりません 子どもを持たない私たちの本音と幸せ』
定価:1,980円(税込)
発売日:2026年9月9日(水)

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ねむみえり

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ねむみえり

1992年生まれ、東京出身。フリーランスのライターとして働きながら、現代詩の創作も行っている。本、舞台、お笑い、ラジオが特に好き。