社会を経験してこなかった人間が、ついに服屋で店員と世間話ができた<三遊間さくらいのしゃべり足りない心域>

三遊間さくらい

その言葉数の多さから“多弁師”と呼ばれるお笑い芸人・三遊間さくらいが、ラジオやライブで話すほどではないけど、誰かに聞いてほしい心の内や日常の中での発見を書き留める連載「しゃべり足りない心域(こころいき)」。

第1回第2回と自分が苦手なコミュニケーションについて分析し、その解決策について向き合ってきたさくらい。今回は、ついに自分の領域ではない場所での他人との会話に挑戦。そこで得た手応えを語る。

男女でいることのちゃんとしてる人感

三遊間のさくらいです。

このコラムが続いていくかはわかりませんがいったんラストの3回目が来てしまいました。ここまで2回読んでくださった方ありがとうございます。初めて文章を書く仕事をさせてもらったんですけど、テーマ選びにはかなり気を遣いました。でも書き出したらけっこう楽しくて、没入してしまって顔上げたらもうこんな時間経ってんのかって感覚が久しぶりにありました。中学のときに友達の家で『プロ野球スピリッツ』をやりまくってたとき以来かもしれません笑。ほんまに楽しかったです。本題に入ります。

仲いい後輩でミステリーハンターの芝というやつがいます。まず、芝の説明をしておきます。芝というのはミステリーハンターという男女コンビを組んでいる3年後輩の女性芸人です。元大阪桐蔭の女子サッカー部のゴールキーパーで、女性初ハンチングと髭とコーヒーが似合うやつです。『三遊間さくらい被害者の会』(僕に被害を受けたという後輩たちがその話をして僕を更生させようとする、2025年、FANY ID会員の投票によるすべてのライブの中で「一番おもしろかったライブ」で3位にランクインした)というライブでは、「私はさくらいさんを虐げてきた女性ではありません」(虐げられてないねん)と「私の彼氏マジかっけーから」(嘘つけ!)というパンチラインで、会場の女性を爆笑ではなく熱狂の渦に巻き込み、ジャンヌダルクの生まれ変わりみたいな顔をしていた頭のおかしい(相当褒めてます)やつです。

実はついに、このコラムで考えていたコミュニケーションについての大きな成長が垣間見えた瞬間がありました。

こないだ芝と古着屋がめっちゃあるエリアに服を見に行きました。やっぱり男女でいる人間の醸し出す、“ちゃんとしてる人感”ってすごいんですね。

僕ひとりで店に行くと、この男は大丈夫なやつなのか?もしかしたらまともな人間ではないのでは?ちゃんと社会活動を営めてるのか?とか、情報が少ないぶん、どう見られているかわかりません。これが男友達とふたりとかでいると、最低限同性の友達はいるんだというふうに見られます。しかし、この男ふたり組が安心していいふたり組かはわかりません。「こいつらはこいつらしか友達のおらんふたり組」、「学校におった変なやつについていくもっと変なやつ」という構図のふたり組か、と思われても不思議ではありません。

ただ男女ふたり組。しかも芝は僕にめちゃくちゃ体育会系仕込みの敬語で話しかけてきます。どれだけ僕と芝の組み合わせが男女としての総合力が低い(芝すまんな)とはいえ、この感じが醸し出す、お互い「異性ともちゃんとコミュニケーションが取れて、服を見に来る人間」だという安心感ったらないです。何が言いたいかというと店員にめっちゃしゃべりかけられるんです。

正直、服屋の店員さんとかとしゃべるのあんまり好きじゃないんですよ。好きじゃないというか、「ファッション」っていう自分があまり得意ではないって自覚してるものを、得意としている人間としゃべるんってすごく疲れます。僕が服屋に行くのは、デブがジムに行く恥ずかしさに似てると思います。しかもこの場合、僕はトレーナーに聞いてガンガンやらしてもらいます!というような前向きなデブではありません。友達にこっそり器具の使い方を教えてもらって、隠れてひとりでトレーニングしたい、うしろ向きなデブです。かといってしゃべりかけてこられるのをフル無視するわけにもいかないです。

店員としゃべってみたら…

1個目の店でいかにも、みたいな男の店員に「ここは“Y2K”のものめっちゃ置いててー」って言われて、まず「Y2K」って何? 「YDK」やったら俺わかるけど。やればできる子。明光義塾。学校の前で配ってた明光義塾のキャラクターが都道府県の名産の格好してる絵が描かれた下敷きめっちゃ使ってたわーとか思ってたら、「でも僕ヘルプなんでY2Kあんまわからないんですよ」って言い出しました。

いや絶対あかんやん。逆にか? 逆に潔よさで俺の心つかもうとしてんのか? しかもたたみかけてきます。「だからこのパンツも穿き方わかんないんですよ」と、自分の店の商品を見せながら言ってきます。お前ヘルプやからって他人の店でやりたい放題か、ってかパンツの穿き方わからんって2本の足をその筒に通すだけなんちゃいますのとか思いながら、頼む!芝!こいつの相手してくれ!って思ったらあいつは一瞥(いちべつ)もくれることなく、せっせと服を探しています。

そしたら次は「今の時間帯近くの古着屋まだ開いてなくて暇で。アプリですごくマンガばっかり読んでるんですよ」って言ってきました。よし、こいつ無視しよ。知らん。なんでこいつとしゃべらなかあかんねん。女性ならまだしもこいつ男やん。わけわからんこと言ってくる男としゃべって何になんねん。

しかし、僕はこのコラムを思い出しました。前回はもっと外に出たほうがいいというテーマで、その前はコミュニケーションがテーマ。てことはいっそのこと、出先のここでしゃべってみたほうがいいんじゃないか。ということで服のことはわからないんでマンガのことを聞いてみるかと思い、「そんだけマンガ読んでて一番好きなのはなんなんですか?」と聞いてみました。

「(グラップラー)刃牙ですねー。なんかハラハラしないマンガが好きなんですよ」
「刃牙ってハラハラしないんすか。バトルマンガでしょ」
「でも刃牙ってもうおもしろって感じなんですよね、やりすぎて」
「ほな、そんだけアプリでマンガ読んでて、一番おもろいマンガなんなんすか」
「〇〇とか〇〇とかおもしろいっすねー」(ちょっと何言ってたか忘れました笑)
「それ日常系のマンガっすよね、日常系と刃牙好きってかなり珍しないですか」

そっからもちょっと会話が続きました。

あれ? 意外とコミュニケーション取れてないか? 特におもろいことはどっちも言ってないけど、わりとスムーズに会話が続いた気がするぞ。そんなことを思いながら店を出ました。

次の店に入ると、芝が壁につってある服を見せてほしいと店員さんに話しかけてました。そしたら若い女性の店員さんがすごくきれいな形の細長い木の棒を持ってきてその服を取り、その棒を持ったまま芝に営業トークを仕掛け始めます。一応、僕も一緒にいるんで軽く3人で話す感じになりました。

マジで驚いたんですけどまあまあうまいことしゃべれてます。うわ、わりとしゃべれてるんちゃうかと思い、そこで僕はこの人どうにか一回、笑わされへんかと思い始めます。で近くで会話の隙間をうかがってると、なんか今このタイミングやったらいけるんちゃうかってのと、このタイミングでは絶対何言っても笑わんな、みたいなんがなんとなく見える気がしました。

ん? なんかここのタイミングいけるんちゃうか?と思って「その棒、僕が小学生やったら絶対離さないっすわ」って言うとその人が笑いました。

エグい。舞台じゃなくて、野良で笑かしたぞ。おおー。その流れのまま「絶対なんの魔法も出ないってわかってても試しに一回振ってしまいますね」って言ったらもう一回、その人笑いました。完全に偉業を成し遂げました。エグいわ。いやいや俺ここまでできたんかい。引くわ自分のこのすごさに。

気づかず身になっていたコミュニケーション能力

僕は芸人になってからも、ずっと実家にいました。しかもネタを書くための時間を捻出するために、バイトをしませんでした。今までのお年玉を子供らしからぬペースで銀行に放り込んでおり、それを切り崩していたのです。若手芸人でバイトをしてないって異常事態です。ネタを書くためにバイトはしないってのは本当ですが、もう一方で「学生」という守られた立場から逸脱し、「売れてない芸人」という人権なしの人間になって、人とコミュニケーションを取る勇気が僕にはありませんでした。

おそらく僕がバイトをしていたら、バイト先の中でも自分が一番おもしろいと思うも、世間からはおもしろいという評価はもらえず、傷つきたくないからエグいぐらい「近づいてくるな」というオーラを出していたはずです。毎日心が疲弊するのは目に見えていました。

僕はほんまにお金がいるときは、家の手伝いをしていました。換気扇の掃除、ガレージを高圧洗浄機でピカピカにする、母親に正しいスクワットのフォームを教えるなどです。今考えると、とんでもない20代です。だから僕は学校を除くと、社会は漫才劇場しか知りません。マジで人生経験不足です。

僕は服屋で、自分が芸人と認識されている場以外で久しぶりに人とコミュニケーションを取りました。このやりとりに関して、なぜうまくいったんかなと考えたんですけど、やっぱり漫才劇場のおかげかなという感じです。漫才劇場で先輩や仲間と過ごしていくなかで、あのときとは格段に違うコミュニケーション能力を身につけていました。僕より遥かに人と話すのがうまい人たちとずーっと過ごしていくなかで、自分もおそらく鍛えられていました。なんか初心者やけど中学から野球を始めようと思って、野球部に入ったら、たまたまそこがめっちゃ強豪校やって、そこでプレーしてるうちにほかの中学の少年野球経験者に近づいてきた、という感覚です。

記念すべきピッチャーゴロをここに

そして、よし!このことを3回目のコラムに書こうと思いました。

でも、僕の中でひとつの疑問が思い浮かびます。いや、こんな大成功を収めたことを書いて誰がおもしろいと思うんだろ。人の大成功って僕は笑えません。正直自慢やん。僕、自慢って行為が一番悪やと思ってるんですよ。

これは書くのやめたほうがいいかもな。できないほうがおもしろいやん。本気でそう思いました。でもコラムは何かを書かなくてはいけません。

そこでたまたま東京の劇場出番が一緒になった、ソマオ・ミートボールさんに相談することにしました。ソマオさんには大阪時代とてもお世話になり、すごく僕のことをおもしろがってくれた、おもしろくて大好きな先輩です。この人は答えを出してくれるかも知れないと思い、「こんなことがあり、僕は若い女性の店員さんを笑かしました、そんな大成功体験をコラムなんかに書いていいものですか」と、「普通に自慢じゃないですか」と聞きました。

するとソマオさんは爆笑して、「どこが自慢やねん笑、誰がそれをすごいと思うねん笑、みんなが無限にやってることを2回やっただけやん笑」と言ってきました。体操服を着た坊主大爆笑。悔しい。

実家で暮らしてたとき、僕の母親は「あんたがソマオさんじゃなくてよかったわ、あんた漫才師やからスーツを洗うとき仕事してるなって思うけど、ソマオさんやったらまだ私体操服洗わなあかんの? ほんで名前のとこも薄なってたらペンで書き足して、何してんのってなるとこやったわ」と言ってました。そんな人に笑われた。クソ。

それと同時にカルチャーショックでした。僕はものすごいことをしたと思っていたのに、とんだ勘違い野郎でした。この話を本気で誇らしげに語り、本当に世の中に出していいものか? 自慢なのではないか?と真剣に悩んでた自分がフラッシュバックされ、死ぬほど恥ずかしくなって、ソマオさんにそう言われた僕も爆笑してしまいました。

ただ次の日、ちょっとだけムカついてきました。いや、みんな当たり前にやってることができただけかもしれんけど、赤ちゃんが初めて歩いたときはみんな興奮するんちゃうんかい! ほな、お前ら自分の赤ちゃんが歩き出してもみんなしてるからすごいことちゃうねん!ってツッコめよ!という、わがままな自分もいました。

しかし、これは月面着陸したアームストロングの名言の逆、「人類にとっては小さな一歩だが、僕というひとりの人間にとっては大きな飛躍である」。ホームランを打つ選手もまずヒットから。いやこれはピッチャーゴロか。しかし、バットにボールは当たりました。

ということで記念すべき僕のピッチャーゴロをここに記しておきます。

 

マネージャーさん経由でこのコラムが続くことを聞きました。どうやら2回目のアクセス数が1回目のアクセス数を上回ったらしいです。だいたい、初回が一番アクセスされて、そこからなだらかに落ち着いていくというのが普通らしいんですが、僕のコラムはレアケースで2回目のほうが伸びたらしいです。その功績を認められて継続ということらしいです。みなさんありがとうございます。普通の人が無限にやってないレアなパターンです。僕だけがアクセス数で、初回より2回目を伸ばしました。まっすぐ自慢です。

それでは4回目でお会いしましょう。さようなら。

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三遊間さくらい

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さくらい(三遊間)

1996年5月25日生まれ、滋賀県出身。お笑いコンビ・三遊間のツッコミ担当。レギュラー番組に『三遊間のほそ犬スピリッツ』(MBSラジオPodcast)。