100万部のベストセラーで生きづらさを抱えた多くの人に読まれた『完全自殺マニュアル』の著者である鶴見済が、その人生を賭して書いた一冊『死ぬまで落ち着かない 六十年生きてみてわかった人生のこと』。
Quick Japanでは、発売直後の2026年2月にYouTubeにて鶴見へのインタビューを実施していた。ここでは、そのテキスト版を前後編でお届けする。
後編では、刊行から30年以上経った今伝えたい『完全自殺マニュアル』の真意、こだわりを手放すことを推奨する理由、社交不安障害の人に伝えたいことなどについて話してもらった。
60代になったからこそわかったこと、「言わなきゃしょうがない」と考えているという“弱さ”を開示することについて話してもらった。
※本記事には、自殺や希死念慮に関する記述が含まれますが、それらを推奨する意図はありません。現在、つらさや生きづらさ、悩みを抱えている方は、専門の相談窓口などにご相談ください
・厚生労働省「相談先一覧|自殺対策」
・厚生労働省「まもろうよ こころ」
「自殺」という選択肢を持ったまま、生き延びる
鶴見済といえば、『完全自殺マニュアル』の著者として広く知られている。それくらい、本書は多くの人に読まれている。だが同時にタイトルばかりがひとり歩きし、真意とは異なる受け取られ方をしていたりもする。刊行から30年以上の時を経て、新刊『死ぬまで落ち着かない 六十年生きてみてわかった人生のこと』を上梓した現在の鶴見は、このことをどう捉えているのだろうか。
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──鶴見さんのデビュー作『完全自殺マニュアル』は多くの読者から支持されている一方で、タイトルばかりがひとり歩きしてしまっている印象もあります。鶴見さんご自身としてはどう考えていますか?
鶴見 本書の真意は、“まえがき”にも”あとがき”にも書いています。端的にいえば、いざとなったら自ら命を断つ手段だってあるんだから、これをお守りのようなものとして、楽に生きていきましょうというのが『完全自殺マニュアル』の趣旨。
こうしてインタビューの機会があるたびに言ってきたし、自分としては精いっぱいそのことを訴えてきたつもりです。なのでこの趣旨や真意を本当にわかっていない人というのは、あんまりいないんじゃないかと思っているんです。

──こうして今もまた、語ってらっしゃるわけですしね。
鶴見 そうなんです。今回の『死ぬまで落ち着かない』では、哲学者のエミール・シオランの存在と思想に言及しました。彼のマネをしているんじゃないかと思われても仕方ないくらい、考えがよく似ているんですよ。要は、“自殺”という選択肢を常に持ちつつ、それを先送りにしながらどうにか生きていくと。
──シオランについて書かれたのは初めてですか?
鶴見 はい、初めてです。書いてみてもいいかなと思ったし、自分の本の読者の方の中には、彼の考え方や生き方が好きな人が多いだろうなと思ったので。人生というものの負の面を見つめた、実にいい哲学者です。『死ぬまで落ち着かない』では彼の考えを紹介しつつ、『完全自殺マニュアル』の真意について改めて書きました。
──現在と30年前だと、時代や社会のムードがまったく違うのだろうと思います。『完全自殺マニュアル』はあの当時、どのように受け止められていると感じていましたか?
鶴見 少なくとも今よりはずっと、みんな自殺について語っていたと思います。よく話題に挙げられていましたしね。そもそも自殺を分析している本は、どんな本でも危ないものに見えると思いますよ。自分は法医学の観点を参考にしたのですが、自殺に関する図解などを出すだけで、危ないものに見える。人が死んだときの姿の描写だって入ってきますから。
──“人間はいつ死ぬかわからない”という言説はよく耳にしますが、この人生がいつまで続くのかわからない恐怖を感じている人もいると思います。そんな人々にとって『完全自殺マニュアル』は、ある種の勇気を与えて気持ちを楽にさせるものであり、その延長線上に『死ぬまで落ち着かない』があると感じました。
鶴見 『死ぬまで落ち着かない』は3章構成で、3分の1は“死”について書いています。自分の死生観ですね。自身のこれまでについて書いているものなので、さすがに書かないわけにはいかないなと。でも今の社会って、死について考えさせてはくれないものになっている気がします。
──どういうことでしょうか。
鶴見 たとえば、自身の終末期医療について将来的にどうするか、若いうちから考えたっていいと思うんです。どんな選択肢があるのかを知っておくのは、すごく大切なことだと思います。でも、なかなか情報に出会えないし、生きることを考えようよという空気もある。特に日本はそうだと思います。
こだわりを手放し、死ぬまで落ち着かないために
このインタビューの前編(「『完全自殺マニュアル』の著者・鶴見済が今、目指す“中高年のエンパワメント”」)で言及しているように、今の社会において「中高年」の人々は、ある種の理想像を強いられている。「死ぬまで落ち着かなくていい」というのが本書の主張であり、死ぬまで落ち着かないために、あえてこだわりを手放すことを鶴見は提唱している。そうすることで新しい何かと出会うのだ。
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──本書の大きな特徴として、“ですます調”であることと、一人称が“私”であることが挙げられますよね。
鶴見 “ですます調”で書いたのはこれが初めてで、これまではずっと一人称を“自分”としていました。
──“あとがき”でも触れてらっしゃいますが、これまでけっしてやらなかったことをあえてやってみるという本書の主張を、これは実践するものでもあると。何か発見はありましたか?
鶴見 とにかく新鮮な気持ちになれましたよ。文章を書く上で一人称を“自分”にしていたのは、これが一番しっくりくるから。だからずっと“自分”でした。でも今回は内容的に“ですます調”を選んでみたので、ここに“自分”はしっくりこない。それで“私”にしてみたのですが、日常生活を送る上での一人称は“俺”ですし、文章を書く際に“私”を使ったことはなかったので、すごく違和感がありました。
でも、この違和感よりも新鮮さのほうが上回ったんです。これまでの自分の本にはない感じが出せたし、この本に合うベストなものを選べた気がしています。
──同じく物書きである人間からすると、なじみのある一人称からの変更って、非常に大胆なアクションだと思います。
鶴見 強いこだわりを手放していこうというのも本書のテーマのひとつなので、まさに自ら体現するかたちになりました。人生はある時期まで来ると、自分の好みというのが明確になってきますよね。聴く音楽はもちろん、行きつけの飲食店なんかもそう。それが悪いことだとは思わないし、そう簡単に手放してしまうのがいいことだとは限らない。
でも特定の何かに固執していると、新しい何かとは出会えません。自分自身の「飽きた」という感覚を大切に、これまで触れてこなかったものに触れてみる。それもこの本の中で提唱していることなんです。
──鶴見さんが語りかけてくるような読書体験というか、書き手の体温が感じられました。
鶴見 “ですます調”だと文体が柔らかくなるし、優しくなりますよね。大事なことは繰り返したりしながら、丁寧に書いていきました。やっぱり、思いきって変えてみるのはいいことですね。
──本書をどういった方々に読んでほしいと考えていますか?
鶴見 自分と同じような中高年の人はもちろん、若い方にも手に取ってほしいですね。社交不安障害の人には特に。自分も若いころは、こんなものは治らないと思っていたし、就活の面接なんて一生受からないんじゃないかと思っていました。
でも、時間が経てば治ってきます。すごく軽くなる。そういった経験や実感についても書いてあります。いずれ軽くなるということが、今、悩んでいる人に伝わったらいいですね。ちょっとはこの本が力になると思います。
──今の鶴見さんの考えに触れることで、肩の力が抜ける人はたくさんいると思います。
鶴見 中高年の人たちだって、落ち着かなくていい。ディズニーランドに行きたければ行けばいいし、若い人たちに混じってスイーツバイキングの列に並んだっていい。「中高年らしく」とか、「イタい」とか、そういうのはもうやめようと。声を大にして言いたいですね。
──社会が作り上げた中高年のイメージに囚われていましたが、これも本書を読んで変わったことです。
鶴見 上の世代の人間って、単純にポストが上の人たちが多いじゃないですか。だから若い方たちからすると、つい警戒してしまうということもあると思います。ここですべての中高年を肯定するわけではないのですが、「老害」と言われている人たちって、実際にどれくらいいるんですかね。
年長者たちにはリーダー的なポジションに立っている人もいますが、そんな人は少数で、多くは若い人に対して弱気になっていたりするのが現実ですよ。だから優しくしてやってください。「中高年」とひとくくりにされないよう、そのイメージをひっくり返していきたいですね。

鶴見 済
(つるみ・わたる)1964年、東京都生まれ。東京大学文学部社会学科卒。つながりづくりの場「不適応者の居場所」を主宰。主な著書に『人間関係を半分降りる 気楽なつながりの作り方』(筑摩書房)、『0円で生きる 小さくても豊かな経済の作り方』(新潮社)などがある
鶴見済『死ぬまで落ち着かない 六十年生きてみてわかった人生のこと』

著者:鶴見済
発売日:2026年1月23日
ページ数:224ページ
判型:四六判
発行:太田出版
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