『死ぬまで落ち着かない』鶴見済が社交不安障害に悩む人に伝えたい“時間が経てば変わっていく”こと

2026.5.31
『死ぬまで落ち着かない』鶴見済が社交不安障害に悩む人に伝えたい“時間が経てば変わっていく”こと

文=折田侑駿 編集=森田真規


100万部のベストセラーで生きづらさを抱えた多くの人に読まれた『完全自殺マニュアル』の著者である鶴見済が、その人生を賭して書いた一冊『死ぬまで落ち着かない 六十年生きてみてわかった人生のこと』。

Quick Japanでは、発売直後の2026年2月にYouTubeにて鶴見へのインタビューを実施していた。ここでは、そのテキスト版を前後編でお届けする。

後編では、刊行から30年以上経った今伝えたい『完全自殺マニュアル』の真意、こだわりを手放すことを推奨する理由、社交不安障害の人に伝えたいことなどについて話してもらった。

60代になったからこそわかったこと、「言わなきゃしょうがない」と考えているという“弱さ”を開示することについて話してもらった。

鶴見済『死ぬまで落ち着かない』

※本記事には、自殺や希死念慮に関する記述が含まれますが、それらを推奨する意図はありません。現在、つらさや生きづらさ、悩みを抱えている方は、専門の相談窓口などにご相談ください
・厚生労働省「相談先一覧|自殺対策」
・厚生労働省「まもろうよ こころ」

「自殺」という選択肢を持ったまま、生き延びる

鶴見済といえば、『完全自殺マニュアル』の著者として広く知られている。それくらい、本書は多くの人に読まれている。だが同時にタイトルばかりがひとり歩きし、真意とは異なる受け取られ方をしていたりもする。刊行から30年以上の時を経て、新刊『死ぬまで落ち着かない 六十年生きてみてわかった人生のこと』を上梓した現在の鶴見は、このことをどう捉えているのだろうか。

鶴見 本書の真意は、“まえがき”にも”あとがき”にも書いています。端的にいえば、いざとなったら自ら命を断つ手段だってあるんだから、これをお守りのようなものとして、楽に生きていきましょうというのが『完全自殺マニュアル』の趣旨。

こうしてインタビューの機会があるたびに言ってきたし、自分としては精いっぱいそのことを訴えてきたつもりです。なのでこの趣旨や真意を本当にわかっていない人というのは、あんまりいないんじゃないかと思っているんです。

鶴見済『完全自殺マニュアル』(太田出版/1993年)
鶴見済『完全自殺マニュアル』(太田出版/1993年)

鶴見 そうなんです。今回の『死ぬまで落ち着かない』では、哲学者のエミール・シオランの存在と思想に言及しました。彼のマネをしているんじゃないかと思われても仕方ないくらい、考えがよく似ているんですよ。要は、“自殺”という選択肢を常に持ちつつ、それを先送りにしながらどうにか生きていくと。

鶴見 はい、初めてです。書いてみてもいいかなと思ったし、自分の本の読者の方の中には、彼の考え方や生き方が好きな人が多いだろうなと思ったので。人生というものの負の面を見つめた、実にいい哲学者です。『死ぬまで落ち着かない』では彼の考えを紹介しつつ、『完全自殺マニュアル』の真意について改めて書きました。

鶴見 少なくとも今よりはずっと、みんな自殺について語っていたと思います。よく話題に挙げられていましたしね。そもそも自殺を分析している本は、どんな本でも危ないものに見えると思いますよ。自分は法医学の観点を参考にしたのですが、自殺に関する図解などを出すだけで、危ないものに見える。人が死んだときの姿の描写だって入ってきますから。

鶴見 『死ぬまで落ち着かない』は3章構成で、3分の1は“死”について書いています。自分の死生観ですね。自身のこれまでについて書いているものなので、さすがに書かないわけにはいかないなと。でも今の社会って、死について考えさせてはくれないものになっている気がします。

鶴見 たとえば、自身の終末期医療について将来的にどうするか、若いうちから考えたっていいと思うんです。どんな選択肢があるのかを知っておくのは、すごく大切なことだと思います。でも、なかなか情報に出会えないし、生きることを考えようよという空気もある。特に日本はそうだと思います。

こだわりを手放し、死ぬまで落ち着かないために

このインタビューの前編(「『完全自殺マニュアル』の著者・鶴見済が今、目指す“中高年のエンパワメント”」)で言及しているように、今の社会において「中高年」の人々は、ある種の理想像を強いられている。「死ぬまで落ち着かなくていい」というのが本書の主張であり、死ぬまで落ち着かないために、あえてこだわりを手放すことを鶴見は提唱している。そうすることで新しい何かと出会うのだ。

鶴見 “ですます調”で書いたのはこれが初めてで、これまではずっと一人称を“自分”としていました。

鶴見 とにかく新鮮な気持ちになれましたよ。文章を書く上で一人称を“自分”にしていたのは、これが一番しっくりくるから。だからずっと“自分”でした。でも今回は内容的に“ですます調”を選んでみたので、ここに“自分”はしっくりこない。それで“私”にしてみたのですが、日常生活を送る上での一人称は“俺”ですし、文章を書く際に“私”を使ったことはなかったので、すごく違和感がありました。

でも、この違和感よりも新鮮さのほうが上回ったんです。これまでの自分の本にはない感じが出せたし、この本に合うベストなものを選べた気がしています。

鶴見 強いこだわりを手放していこうというのも本書のテーマのひとつなので、まさに自ら体現するかたちになりました。人生はある時期まで来ると、自分の好みというのが明確になってきますよね。聴く音楽はもちろん、行きつけの飲食店なんかもそう。それが悪いことだとは思わないし、そう簡単に手放してしまうのがいいことだとは限らない。

でも特定の何かに固執していると、新しい何かとは出会えません。自分自身の「飽きた」という感覚を大切に、これまで触れてこなかったものに触れてみる。それもこの本の中で提唱していることなんです。

鶴見 “ですます調”だと文体が柔らかくなるし、優しくなりますよね。大事なことは繰り返したりしながら、丁寧に書いていきました。やっぱり、思いきって変えてみるのはいいことですね。

鶴見 自分と同じような中高年の人はもちろん、若い方にも手に取ってほしいですね。社交不安障害の人には特に。自分も若いころは、こんなものは治らないと思っていたし、就活の面接なんて一生受からないんじゃないかと思っていました。

でも、時間が経てば治ってきます。すごく軽くなる。そういった経験や実感についても書いてあります。いずれ軽くなるということが、今、悩んでいる人に伝わったらいいですね。ちょっとはこの本が力になると思います。

鶴見 中高年の人たちだって、落ち着かなくていい。ディズニーランドに行きたければ行けばいいし、若い人たちに混じってスイーツバイキングの列に並んだっていい。「中高年らしく」とか、「イタい」とか、そういうのはもうやめようと。声を大にして言いたいですね。

鶴見 上の世代の人間って、単純にポストが上の人たちが多いじゃないですか。だから若い方たちからすると、つい警戒してしまうということもあると思います。ここですべての中高年を肯定するわけではないのですが、「老害」と言われている人たちって、実際にどれくらいいるんですかね。

年長者たちにはリーダー的なポジションに立っている人もいますが、そんな人は少数で、多くは若い人に対して弱気になっていたりするのが現実ですよ。だから優しくしてやってください。「中高年」とひとくくりにされないよう、そのイメージをひっくり返していきたいですね。

鶴見済

鶴見 済
(つるみ・わたる)1964年、東京都生まれ。東京大学文学部社会学科卒。つながりづくりの場「不適応者の居場所」を主宰。主な著書に『人間関係を半分降りる 気楽なつながりの作り方』(筑摩書房)、『0円で生きる 小さくても豊かな経済の作り方』(新潮社)などがある

鶴見済『死ぬまで落ち着かない 六十年生きてみてわかった人生のこと』

鶴見済『死ぬまで落ち着かない』(太田出版/2026年)

著者:鶴見済
発売日:2026年1月23日
ページ数:224ページ
判型:四六判
発行:太田出版

鶴見済『死ぬまで落ち着かない』

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折田侑駿

(おりた・ゆうしゅん)文筆家。1990年生まれ。主な守備範囲は、映画、演劇、俳優、文学、服飾、酒場など。映画の劇場パンフレットなどに多数寄稿。映画トーク番組『活弁シネマ倶楽部』ではMCを務めている。