100万部のベストセラーで生きづらさを抱えた多くの人に読まれた『完全自殺マニュアル』の著者である鶴見済が、その人生を賭して書いた一冊『死ぬまで落ち着かない 六十年生きてみてわかった人生のこと』。
Quick Japanでは、発売直後の2026年2月にYouTubeにて鶴見へのインタビューを実施していた。ここでは、そのテキスト版を前後編でお届けする。
前編では、60代になったからこそわかったこと、「言わなきゃしょうがない」と考えているという“弱さ”を開示することなどについて話してもらった。
60年生きてみてわかった、「一巻の終わり」はほとんど来ない
デビュー作『完全自殺マニュアル』から30年以上の時を経て、60代に入った鶴見済は、「60年間も生きてきたからこそ言えることがある」という実感を持った。そうして生まれたのが『死ぬまで落ち着かない 六十年生きてみてわかった人生のこと』だ。
「一巻の終わりだ」と思ったことも、長い目で見れば大したことはないこと。この“長い目で見る”ことの必要性を若い読者に伝え、さらには自身と同じ中高年をエンパワメントしようという想いが本書には込められている。
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──まずは本書を書くに至った経緯からお聞かせいただけますか。
鶴見 60歳を迎えたというのが大きいですね。ふと自分の人生を振り返ってみたときに、こうして60年間も生きてきたからこそ言えることがあるだろうと思ったんです。たとえば、若いころは特に、何かを決めるのにものすごく迷ったり、悩んだりするものですよね。ひとつの選択と決断によって、そのあとのすべてが決まってしまうような気になったりする。でも長い目で見ると、全然そんなことはないんですよ。
──“長い目で見る”ことの必要性は、『死ぬまで落ち着かない』のひとつの核になっていますね。
鶴見 そうなんです。間違った選択をしてしまったとき、「一巻の終わりだ」と思ったことは、たしかにあります。でもそれから5年後にどうなっているかというと、すっかり忘れてしまっていたりするんですよね。これは60年くらい生きてきて、ようやくわかったこと。「一巻の終わりだ」と思い悩むことは、誰にだってある。でも、そのうちのほとんどは大したことはない。このことを伝えたいと思ったんです。
──中高年の方々をエンパワメントしたい想いもあった、と本書には記されています。
鶴見 マイノリティの人々をエンパワメントしようとする動きって、世界的なひとつの潮流ですよね。人種的マイノリティもそうですし、セクシャルマイノリティもそう。これらの当事者である著名人がカミングアウトすることによって、より広く認知されるし、同じくマイノリティ当事者である人々が声を上げやすくなる。どんな体型だっていいじゃないかという、ボディポジティブもそうですね。エンタテインメントやスポーツなど各界のスターが口を開き、一般大衆の中にもこれに続く人々がいる。
──いろんな例が挙げられますね。
鶴見 じゃあ、そのような今の社会において、自分にできることはないのか。自分は精神病を抱えるマイノリティであり、中高年というマイノリティでもあります。だったら自分と同じような人々をエンパワメントできないだろうか。そう考えた。
「エイジポジティブ」とかって、調べてみたらまだかなり少ないんですよ。郷ひろみさんや小泉今日子さんがご自身の年齢を前に出しているのは、エイジポジティブ・ムーブメントのひとつだといえるかもしれませんけどね。実際のところ、俺も今まで年齢を隠していました。黙っていれば実年齢より若く見られることもあるし、言わなかったんです。でも、言ってみたらどうだろうと思って。
──60歳になったのを機に、鶴見さんの中で変化が生まれたと。
鶴見 やっぱり、自分に弱者性があるときとかって、その内面を隠して難を逃れようという思考に陥りがちです。でも思いきって言ってみることで、ほんの少しだけ世の中が変化するかもしれない。自分と同じような中高年の方が、ちょっとだけ前向きになれるかもしれない。60歳になってみて、そういうのをやってみたくなったんです。この年齢になってわかったのは、若いころと落ち着かなさが全然変わらないということ。まったく落ち着かないということです。
──本書のタイトルにもなっている、現在の鶴見さんの実感ですね。
鶴見 60歳くらいの人間って、すごく落ち着いているイメージがあるじゃないですか。“不動”みたいな。でもいざ自分が当事者になってみると、まったくそんなことはないとわかった。若いころと変わらず、あたふたし、うろたえている状態なんです。しかもこれは俺だけじゃないですよ。けれども年長者というのは、余裕のある態度で若者たちにアドバイスをするというような、ある種の理想像を強いられています。
──まさに、そのようなイメージをこれまでずっと抱いてきました。
鶴見 ですよね。俺はこれが我慢できない。内面は不安でいっぱいなのに、まるで平気なふりをしなければならないのって、本当に苦しいことですよ。鬱なのに元気なふりをするのと同じ。だからこの本を書くことで、「中高年エンパワメント」というムーブメントを起こせないかと思ったわけです。『死ぬまで落ち着かない』というタイトルは、「死ぬまで落ち着かなくていい」という意味です。
落ち着かなくていい──弱さを隠さないという選択
本書は著者である鶴見自身の半生を振り返り、“自分史”を綴ったものでもある。だからもちろん、彼個人の非常にパーソナルな話であふれている。自身の内面を不特定多数の他者に対して開示していくのは、とても大変な行為だ。けれども今の鶴見は、「言わなきゃしょうがない」と考えているのだという。
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──本書の執筆の道のりはどのようなものでしたか?
鶴見 まず自分の日記を読み返してみて、長い目で見ると印象が変わることとして何があるか、探していきました。さっきお話しした選択と決断のこともそうですね。大きな選択をしたあと、実際に自分がどうなったか。いろいろと拾い上げていきました。
日記には、短期的に見た自己評価が記されています。でも長期的に見てみれば、この自己評価というものも変わってくる。自分のデコボコな人生を嫌うことって、長い目で見ればそうできるものではないと思うんです。
──本の中では、日本列島の形を例にされていますね。
鶴見 変わった形じゃないですか、日本列島って。でも、なんだか親しみを感じますよね。出っ張っていたり、へこんでいたり。人生はこれに似ている。俯瞰的に見たときの自分の人生の出っ張りやへこみって、なかなか嫌いにはなれないですよ。
──まだまだ一時の感情に囚われがちなので、読んでいてハッとさせられました。
鶴見 もちろん、短期的な問題も馬鹿にはできませんよ。そこに向き合っているうちは苦しいんですから。
──自身の弱さを打ち明けていくのは、大変な行為だと思います。鶴見さんとしてはどうなのでしょうか。
鶴見 自分より下の世代の方々が、自身の状態や内面についてストレートに発信されている。これに勇気づけられています。今振り返ってみると自分は、『完全自殺マニュアル』からずっと、“生きづらさ”について書いてきました。大学に入学したころくらいから精神科に通うようになり、やむにやまれずこのことについて書いてきました。このテーマでずっと書いていこうとしたわけではなく、気がつけばどの本もこれがテーマになっていたんです。

──テーマとして掲げていたわけではないんですね。
鶴見 そうなんです。90年代って、自分が心の病であることとか、どんな薬を飲んでいるのかを打ち明けるときには、もう本当に清水の舞台から飛び降りるような覚悟が必要でした。でも近年は誰もが気軽に言えるようになってきましたよね。これはすごくいいことだなって。
自分はこれを90年代からちょこちょこやってきたわけですが、打ち明けたからといって劇的に何かが変わったり、スッキリしたりするわけじゃありません。けれども開示することで、少なくとも周囲は変わる。それが世の中が変わることにつながるんじゃないかと思うんです。
──個人の自己開示が、社会の変革につながることだってあるかもしれないと。
鶴見 今は「言わなきゃしょうがない」くらいの気持ちでいますよ。著名人のカミングアウトがそうですが、これがやがて大きなムーブメントにつながるかもしれない。自分の心の状態を恥ずかしいことだとして隠している限り、世の中は変わりません。
こちらの気持ちを他人が汲み取ってムーブメントを起こしてくれるだなんて、絶対にあり得ませんよ。この世の中はそんなに優しくない。だから言うしかないかなと。社交不安障害を中心とした不安障害が、長い目で見たときにどのようにして治っていったのか。それもこの『死ぬまで落ち着かない』には書いてあります。

鶴見 済
(つるみ・わたる)1964年、東京都生まれ。東京大学文学部社会学科卒。つながりづくりの場「不適応者の居場所」を主宰。主な著書に『人間関係を半分降りる 気楽なつながりの作り方』(筑摩書房)、『0円で生きる 小さくても豊かな経済の作り方』(新潮社)などがある
鶴見済『死ぬまで落ち着かない 六十年生きてみてわかった人生のこと』

著者:鶴見済
発売日:2026年1月23日
ページ数:224ページ
判型:四六判
発行:太田出版
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