障がい者はテレビで笑いを取れるのか…濱田祐太郎「少なくとも自分はできると証明できた」

2024.9.13

濱田祐太郎(左)と仲良しの先輩である藤崎マーケット・トキ(右)/ABCテレビ『濱田祐太郎のブラリモウドク』より

文=斎藤 岬 編集=金子 昂


2024年6月〜7月、大阪・ABCテレビである番組が放送された。『濱田祐太郎のブラリモウドク』。『R-1ぐらんぷり2018』王者の濱田祐太郎による街ブラ番組だ。

“盲目のピン芸人“である濱田が大阪のあちこちを歩いて毒舌を吐く初回放送は、「この街、点字ブロックが一個もない。おしゃれなだけの街!」という、彼にしか吐けない毒から幕を開けた。芸歴11年目の濱田にとって、テレビにおける初冠レギュラーとなったこの番組は「少なくとも濱田祐太郎は(テレビでお笑いが)できることを証明できたはずだ」と確信を得る機会になったという。

濱田が感じた手ごたえとはどんなものだったのか。今後、自分がテレビで求められるお笑いとは何か。新たな挑戦を終えた濱田に、話を聞いた。

濱田祐太郎
濱田祐太郎(はまだ・ゆうたろう)
1989年9月8日生まれ、兵庫県神戸市出身。『R-1ぐらんぷり2018』にて優勝。 現在は吉本興業所属のお笑い芸人として、舞台を中心にテレビ、ラジオなど多方面に活躍

見えないのにスタッフがカンペを出していた

シンプルに「やったー!」でしたね。喜びが100%でした。

ディレクターさんが僕のYouTubeとかを観てくれてて、毒のあるコメントがおもしろいと思ってくれたらしいんです。それで「毒舌と街ブラロケを組み合わせて何か企画ができないか」と社内で提案してくれたそうで、ああいう形になりました。

そんなに細かいすり合わせはあんまりなかったですね。ロケの前に1回打ち合わせさせてもらったとき、ディレクターの方がいろいろアイディアを用意してくれてて「NGはありますか」って確認があったくらいです。

実際に放送されたところでいうと立ち飲み屋で常連客と絡むとか体を動かすとか、そういうのをやりたいと言われたんで「全然いいですよ」と。「スカイダイビングしながらカップラーメン食え」とか言われたら無理ですけど、別にそんな無茶なものもなかったんでね。

『濱田祐太郎のブラリモウドク』(ABCテレビ)より
『濱田祐太郎のブラリモウドク』(ABCテレビ)より

ロケの面では特になかったです。スタッフさんの中ではいろいろ気遣いや配慮があったと思うんですけど、やってる僕自身からしたら「もっとこうしたほうがいいのに」って思うところはなくて。

初回収録の冒頭で俺が「濱田祐太郎のブラリモウドク!」ってタイトルコールするとき、スタッフさんがそのカンペを出してくれてたのはめっちゃうれしかったです。俺は見えてないんで出てようが出てまいが関係ないんですけど、トキさん(藤崎マーケット)がそれを拾ってくれて笑いになって。スタッフさんもそれをわかった上でカンペを出してくれてたんでしょうね。

お笑いをやろうとしてくれているのが伝わって、「ボケていいんだ」って思えたし、「こっちも頑張らなあかんな」って気合いが入りました。

『濱田祐太郎のブラリモウドク』(ABCテレビ)より
『濱田祐太郎のブラリモウドク』(ABCテレビ)より

「どんどん毒づいてもらって大丈夫です」って言われてたんですけど、頭の片隅に「これ、テレビで放送されるんやな」というのがあったんで、だいぶビビって抑えちゃったところがありましたね。『ブラリモウドク』は解説放送とTVer用のおまけの音声配信があったんで、それを収録するときに放送前のVTRを全部確認させてもらってて、観てて「ここはもうちょっと言っとけたな」とかめちゃくちゃ思いました。

そうなんですよ。でも街に毒づいて街から文句言われたらめちゃめちゃめんどくさいじゃないですか。

そのぐらいのことをもっと言えたらよかったですねぇ。

「濱田祐太郎ならできる」と証明できた

それはやっぱり、『水曜日のダウンタウン』(TBS)に日本吃音協会から苦情が入ったような、そういうリスクじゃないですかね。それと、目が見えない人に限らず障害のある人という、今まで自分たちがやってこなかった分野の出演者を受け入れるのが面倒くさいというのはシンプルにあるんじゃないですか。ひとつ新しいことに取り組まなきゃいけなくなるところはありますから。

これはもう、積み重ねですよね。舞台に立ってネタやってお客さんが笑ってくれて「自分のネタはお客さんに笑ってもらえるぐらいのものにはなってるんやな」ってところから始まって、賞レースの決勝残った、『R‐1』優勝した、そのレベルのネタができてる、じゃあネタは多分「おもしろい」で間違いないやろう……っていうのが自信になって。

そこから先でネタ以外はどうなんやってなったら、数は少ないですけどバラエティに呼ばれたときも「おもしろい」という反応が多くて、ここでもいけるんやな、と。

さらに今年は『あれみた?』(MBS)の密着企画や『ブラリモウドク』があって、「濱田祐太郎」をメインに据えたらどういうリアクションが返ってくるんやろう? と思っていたら、また「おもしろい」と言ってもらえた。これは自信を持っていいんじゃないかなと思いましたね。

スタッフの方がどう捉えてるかはわからないですけど、『あれみた?』にしろ『ブラリモウドク』にしろほかの番組にしろ、濱田祐太郎自身がストレートに楽しんでるときがいちばん評判がいいなと感じますね。その中で出てくるちょっとした悪口なんかがギャップがあっておもしろがってもらえてるのかなと思います。

今まで自分が出た番組に関してはあんまりそういうのはないですね。ガヤとかも全然できるな、って。テレビじゃないですけど、NGK(なんばグランド花月)で山里(亮太)さんがMCの『伝説のひな壇3』というライブに出させてもらったんですよ。あとで山里さんが『不毛な議論』(TBSラジオ)で僕の名前を出してしゃべってくれるぐらい褒めてくれて。

『濱田祐太郎のブラリモウドク』(ABCテレビ)より
『濱田祐太郎のブラリモウドク』(ABCテレビ)より

やっぱりひな壇はやれる余地があるなと思ってます。それに今回『ブラリモウドク』を経験して、ロケもどんどんやれるはずだと思いました。もっと出たいですね。

見えてるほうと見えてないほう、どっちでいったらいいんやろ?

誰やったかなぁ……あぁ、笑い飯の哲夫さんかもしれないですね。『R-1ぐらんぷり』優勝した後に哲夫さんがご飯誘ってくれて何人かで夜中まで飲んで、「ひとりだと危ないから」ってわざわざ家まで送ってくれたんですよ。

僕がそのとき建物の最上階に住んでたんで、部屋入ったら窓から夜景が見えるから「めっちゃ綺麗なとこ住んでるやんけ。お前、見えてるやろ!」ってなって。そこからかもしれません。

デビューしたてのころは「見えてない」イジリはありましたけど、「見えてる」イジりは全然なかったですね。

「見えてるやろ」はさすがになかったかな。盲学校に行ってたころ、たまたま見えてるっぽい出来事があったときに「いや、見えてるのかと思ったわ」ぐらいのやりとりはしてたと思いますけど、笑いに向かっていくようなものはなかったです。

どっちかに分かれてるならどっちでもいいんですけど、ごちゃまぜになってることがあって、そういうときはちょっと返しに困りますね。

たとえば舞台に芸人何組かで出たときに、芸人Aが「見えてるやろ」ってイジりたくてエピソードをしゃべってて、芸人Bは「見えてないからこういうことがあった」ってエピソードを話すと、俺は見えてるほうと見えてないほう、どっちでいったらいいんやろ? ってなるんですよね。

ただ、見えてないイジリにしろ見えてるイジリにしろ、ひとつひとつのエピソード自体がけっこう強ければ俺はただただ「そんなことないわ」とか「いやいや、そういうこともあるでしょう」ぐらいのことを言うんで、混ざってないときは全然楽です(笑)。

見えてる人も見えてない人もネタにしたい

『濱田祐太郎のブラリモウドク』(ABCテレビ)より
『濱田祐太郎のブラリモウドク』(ABCテレビ)より

やってる本人の人間性なりネタの切り口なり、その人の味が出ている漫談はすごいおもしろいと思います。その内容が本当の話だろうが作った話だろうが、そこは関係ないのかなと。

僕の場合は目が見えてないっていうのがどうしてもくっついてくるんですけど、劇場に来るお客さんは大半の方が目が見えてるじゃないですか。目が見えてないということがどういうことか、想像するのがちょっと難しい部分があるやろうから、なるべく伝わりやすい言葉を選ぶようにしてます。そういう、できるだけたくさんの人にわかりやすいネタが自分らしいものかなとは思います。

全員を笑わせられたら理想的だとは思うんですけど、そもそも障がい者ってだけで毛嫌いする人間も世の中にはいるんで、全員から好かれるタイプではないなと思ってるんですよ。来てくれたお客さんの7〜8割ぐらいが笑ってくれるようなネタをやり続けよう、って意識がありますね。

あー、どうなんやろう……そういう環境でネタをやったことがないからわかんないですけど、逆にそっちのほうでスベったらちょっとショックですね(笑)。「俺、目の見えてるお客さんには受け入れられてるけど、目の見えてないお客さんに受け入れられないんや」って。

ほんまですね。今までなかったです。今ちょっと振り返ってみて、自分でも「あれ?」って思いました。機会があったらやってみたいですね。

それでいうと、目の見えないお客さんだけの前でやったことはないんですけど、福祉関係の団体のイベントでネタをやる営業はちょくちょく行くことがあって。車椅子に乗られてる方がいたり、耳の聞こえない方がいて手話通訳の方が俺のネタを通訳してくれたり、目の見えない人も何人かいたりという状況でやったことはあるんですよ。

そういうところでは「目が見えない」ってネタはあんまりやらないです。時事ネタも好きなんで、そっちをやってみて普通にウケるかどうか試したくて。

いや、ウケるはウケるんですけど、まぁその……国枝慎吾さんとか乙武(洋匡)さんをいじったときほどはウケないですね。

ウケますねぇ。全然正反対のふたりですけど、どの方向にしても突き抜けすぎると嫌われるんやな、って思いました。

劇場でやってるネタに関しては言われないですけど、YouTubeラジオとかでは言いたい放題言ってるんで、そっちにはありますね。盲導犬をいじったときは目の見えない方からアンチコメントが来ましたよ。

俺はそうですね。そういう方にとっては信頼できる家族でありパートナーなんでしょうけど、俺は獣に命は預けたくない(笑)。立ち位置的になるべくどっちの意見もわかるような状態でいたいなと思ってるんですよ。目の見えない人の一方的な意見だけ聞いててもなんかなぁ、と思うんで。見えてる人も見えてない人もどっちもイジってネタにしたいですね。

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斎藤 岬

(さいとう・みさき)編集者・ライター。1986年神奈川県生まれ。編集担当書籍に「別冊サイゾー『想像以上のマネーとパワーと愛と夢で幸福になる、拳突き上げて声高らかに叫べHiGH&LOWへの愛と情熱、そしてHIROさんの本気(マジ)を本気で考察する本』」(サイゾー)など。「芸人芸人芸人」「月刊芸..

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