好井まさおのポッドキャスト番組『今なに』に感じる泥臭さと執念、ラジオ好きを唸らせる魅力

2023.8.19
好井まさお

写真提供=TBSラジオ

文=かんそう 編集=鈴木 梢


きしたかの、パンプキンポテトフライ、好井まさお、カラタチ、金の国という5組の芸人が1年間、月曜〜金曜まで曜日ごとにポッドキャスト番組を担当し、最も人気のある1番組だけがTBSラジオの地上波枠を勝ち取ることができるシリーズ企画『N93』が2023年4月にスタートした。

若手芸人にとって千載一遇のビッグチャンスであると同時に、「ポイント(※)が最下位の番組は半年で終了」という、血も涙もないストロングスタイルの恐ろしい企画だ。

※各番組のポッドキャストやYouTubeの再生数、9月13日(水)に行われるイベントグッズの販売数、はたまたスポンサー獲得までを独自にポイント化し、毎月番組内で発表している

その中でも『好井まさおの「今、何してる?」』(以下、『今なに』)が、異質な存在感を放っている。番組全体の雰囲気やトーク、コーナー企画、そして好井まさおというひとりの男の魅力を、ブロガーのかんそうが語る。

「今、何してる?」というタイトルの理由、感じられる泥臭さと執念

好井まさお
好井まさお

好井まさおはもともとお笑いコンビ・井下好井として活動し、2022年にコンビを解散したあとはピン芸人、俳優、YouTuberとしての仕事も精力的に行っている男だ。

『人志松本のすべらない話』(フジテレビ)に出演した際には「自分の結婚式と志村けんの単独ライブが被った」という話で初出場でMVS(Most Valuable すべらない話)を獲得するなど、誰もが認めるしゃべりの猛者。

そんな好井が持つ、起承転結を構成するうまさ、人が心地いいと感じる絶妙な声のトーンと抑揚のつけ方、物事を少し斜めから見る発想力、それらを『今なに』でも存分に味わうことができる。

https://www.youtube.com/watch?v=lb9ZZ4spqts

初回から完全にフルスロットルで、伊集院光の「帝王」、山里亮太の「ボス」の呼称にならい、好井は「僕のことはラジオプリンスと呼んでほしい」と豪語する。ミュージカル界のプリンス・山崎育三郎、歌舞伎界のプリンス・尾上右近、演歌界のプリンス・山内惠介につづき、ラジオ界のプリンスがTBSラジオに爆誕した。

番組タイトルの「今、何してる?」は、リスペクトしていない先輩芸人からの「今、何してる?」という連絡がとてつもなく嫌だ、という思いからつけられているらしく、タイトルづけからも番組に対してどれだけ好井の気合いが入っているかがわかるだろう。

#3では、同じ『N93』で番組を持っている芸人たちに「どう思われようが、どんな手を使ってもスポンサーつけて番組をつづける」と宣戦布告する。この泥臭さと執念こそ『今なに』の魅力のひとつだと思った。

鬼のストイックさを感じるコーナー企画、臨場感あふれる子育てトーク

泥臭さと執念は、異常なまでに笑いに貪欲なコーナー企画からも感じられる。

たとえば、トーク条件が書かれた紙をボックスから引いて即興トークをする「条件トーカー」では、わかりやすい条件は用意されておらず、「これもう時効だよなぁと思う話をせよ」「官能小説で使われそうなフレーズを織り交ぜながら話せ」といった、かなり負荷のかかる条件がスタッフやリスナーによって毎回用意される。

「絞り出し大喜利」は、ひとつのお題に対してリスナーに5つで1セットの答えを絞り出させ、その数が多かったり少なかったりするとそのリスナーは出禁になる。どの企画も、まるで『テニスの王子様』の選手が手足にパワーアンクルを巻いたまま試合をするような鬼のストイックさ。本人だけでなくスタッフからも「おもしろい番組を作りたい」という情熱がほとばしっている。

そんな好井まさおの「真骨頂」ともいえるのが、双子の父親としての育児トークだ。時にほっこりとした、そして時に悲哀に満ちた話を聴くと、好井がどれだけ子供のことを大切に想い、どれだけ頭を悩ませながら日々を過ごしているのかがひしひしと伝わってくる。

好井まさお
好井まさお

「ひとりの人間」として子供に真摯に向き合う様は、ただおもしろいだけでなく、筆者がこれから未来を生きる上での確かな指針となるような気さえしている。中でも#11の、娘たちと『セーラームーン』の映画を観に行った話は、破天荒な娘たちに振り回される父親の悲喜こもごもをとんでもない臨場感で話していて、筆者には子供がいないにもかかわらず、まるで自分が悪戦苦闘したかのように錯覚してしまった。

お笑いやラジオを愛する人々に聴いてもらいたいゲスト回

そして『今なに』を語る上で絶対に無視することができないのが、パンサー向井慧を迎えた#13。同期ならではの頭と頭をぶつけるインファイトのようなトークは本当に最高だった。

#13 パンサー向井×好井まさお「ラジオフェアリー・ラジオプリンス対談」【好井まさおの「今、何してる?」】

『むかいの喋り方』(CBCラジオ)で同じようにひとりでラジオパーソナリティを務めている向井だからこそ言える『今なに』評と、過酷な環境に身を置き悩みもがきながらもラジオの最適解を探しつづける好井の葛藤は、まさにドキュメンタリー。『今なに』、『むかしゃべ』のリスナーだけでなく、すべてのラジオを愛する人間に聴いてもらいたい回だと思った。

#17では、先輩芸人である囲碁将棋がゲストに登場し、堅い話ほぼなしのお笑い純度100%カオスラジオを繰り広げていた。「往年のギャグを正式に発音する」というくだりは、近い将来確実にお笑いの定番となるに違いない。「できれば永遠にしゃべっていてほしい」。そう思えるほどに幸せな1時間だった。

冒頭にも述べたように、5組のうち1組の番組が9月末で終了を迎えてしまう。それはこの『今なに』も例外ではない。しかし、どのような結果になろうとも「民」として、最後までプリンスの行く末を見届けたい。

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かんそう

1989年生まれ。ブログ「kansou」でお笑い、音楽、ドラマなど様々な「感想」を書いている。

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