『沈黙の金曜日』はリスナーを引きずり込むブラックホールラジオ

2023.8.4
沈黙の金曜日

写真提供=エフエム富士(FM FUJI)

文=かんそう 編集=鈴木 梢


「沈金(チンキン)」という言葉を知っているだろうか。これは、アルコ&ピースと乃木坂46の弓木奈於が出演しているラジオ番組『沈黙の金曜日』(エフエム富士で毎週金曜日21時〜23時に放送中)の略称だ。今ラジオ界で『沈金』が熱い。

番組の形式は、ひと言でいえばフリースタイル。唯一、22時~22時半ごろまでゲストを迎えてトークを行う「ゲストコーナー」と、番組終盤に「天気予報」があるだけで、それ以外は「決まった流れ」がほぼ存在しない。

最近の時事や流行などを交えながらトークをし、そこから広がった話題をもとにリスナーからの送られてくるリアクションメールでさらに話を広げていくというフリースタイル形式の番組なのだが、何も決まっていないゆるさと、芸人ふたり、アイドルひとりが織りなす雰囲気がとても独特で、芸人ラジオとアイドルラジオのちょうど中間のような不思議な空間が形成されているのだ。

アシスタントを自由に暴れさせるアルコ&ピース

そんな『沈金』の最大の魅力は「アシスタントやゲストの“素すぎる”声」これに尽きる。そして、それを可能にしているのがアルコ&ピースの圧倒的な「パーソナリティ能力」にほかならない。

アルコ&ピースが表紙『クイック・ジャパン』vol.161
アルコ&ピースが表紙『クイック・ジャパン』vol.161

天性の無邪気さと軽さで出演者の緊張感をするすると解きほぐす(樋口日奈関連では熱量が上がる)酒井健太と、常にドッシリと構えてすべてのトークを受け止めつつ、絶妙なタイミングで「平子の世界」に引きずり込む(齋藤飛鳥関連では熱量が上がる)平子祐希。ある意味で究極の「アメとムチ」ともいえるふたりの対象的なコミュニケーション方法によって「アルピーにしか見せない姿」をさらけ出していく。代表的な例を挙げると、何度もゲスト出演している宮瀬玲奈(アイドルグループ・22/7の元メンバー)のかわいらしい声を活かした食のASMR「あむあむ」はここでしか聴くことができなかった。

また、『沈金』におけるアルコ&ピースの基本的なスタンスは「アシスタントに自由に暴れさせること」を貫いており、担当するアシスタントによって色が異なるのも大きな特徴だ。番組アシスタントは女優の市道真央から始まり、元乃木坂46の永島聖羅、中田花奈から(乃木坂46からの卒業を機に交代)現在の弓木奈於へとつづくのだが、交代のたびに「まったく違う番組に変化する」と言っても過言ではない。

たとえば2代目アシスタントの永島聖羅(元・乃木坂46)は、年上の兄がいる影響か歴代アシスタントの中でもアルピーと趣味嗜好が近く、B’zやミスチルなど世代外の「おじさん的」な話題にも軽々と乗っかっていくなど最もファミリー感」のある放送でリスナーを楽しませていた。

沈黙の金曜日
写真中央が2代目アシスタントの永島聖羅(画像:FM FUJI『沈黙の金曜日』公式ツイッターより)

対して3代目アシスタントの中田花奈(元・乃木坂46)は、本人が生粋のラジオリスナーということもあり最も「深夜ラジオ的」で、無造作に送られてくるメールやアルピーの放つ際どいネタにも真正面から対応するストロングスタイルを見せていた。特に2020年5月22日放送で自宅からリモート出演した際は、なんと「風呂に浸かりながら出演する」という乃木坂46らしからぬ大胆な行動を見せ、この回は「伝説の風呂リモート回」としてリスナーの間では語り草となっている。

沈黙の金曜日
写真中央が3代目アシスタントの中田花奈(画像:FM FUJI『沈黙の金曜日』公式ツイッターより)

現アシスタント、弓木奈於の魅力

そしてそのあとを継いだのが、4代目アシスタントの弓木奈於(乃木坂46)だ。

写真中央が4代目アシスタントの弓木奈於(画像:FM FUJI『沈黙の金曜日』公式ツイッターより)
写真中央が4代目アシスタントの弓木奈於(画像:FM FUJI『沈黙の金曜日』公式ツイッターより)

彼女がアシスタントに就任した初回の放送を聴いたときの衝撃は、あの滝沢カレンを初めて見たときに感じたものとまったく同じだった。一聴では何を言っているのかわからない、しかしわかるとどんどんおもしろくなっていく、ダ・ヴィンチ・コードを解読しているかのような言語感覚はまさにカオスで(酒井健太いわく『テネット』)、何を言うかわからないヒリヒリ感は「これぞ生放送ラジオ」を体現する数少ない存在になっている。

それだけでなく、どんなトーク展開からでも話題に乗っていける引き出しの多さや、ムチャな歌や演技のミニコントを振られても、我々が想像する何倍ものクオリティでアンサーするなど、その「アドリブ力」の高さは恐ろしいものがある。さらにゲストコーナーではゲストがリリースする曲のMVや音源を必ずチェックし、それまでのやりとりはなんだったのかと思うほど的確に感想を伝えるなど、アシスタントとしての仕事はきっちりとこなす。そのポテンシャルは就任から2年が経った現在でもまったく底が知れない。

当初こそ、あまりにも様変わりした番組に戸惑いを隠せなかったのだが、最近では3人の歯車がおもしろいくらいに噛み合っており、見事に「『沈金』を聴かなければ落ち着かない身体」になってしまった。リラックスして収録ができるようになってからはアルピーに対して「重い彼女感」を出すなど回を重ねるごとに魅力が増していく弓木奈於と、そんな弓木のキャラクターを完全に理解したアルコ&ピースが生み出す摩訶不思議な世界は、ほかでは味わうことができない。

誰にでもおすすめできる番組ではないが、誰もが引きずり込まれる可能性のあるブラックホールのようなラジオ『沈黙の金曜日』。ぜひ一度、未知の体験を味わってほしい。

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かんそう

1989年生まれ。ブログ「kansou」でお笑い、音楽、ドラマなど様々な「感想」を書いている。

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