演歌は古い、という考えこそが古い。新たな解釈で紡がれた都はるみの9曲

2020.2.22

トップ画像=『都はるみを好きになった人 〜tribute to HARUMI MIYAKO〜』ジャケット
文=タナカヒロシ 編集=田島太陽


演歌を大胆なアレンジで再解釈

都はるみのトリビュート・アルバム『都はるみを好きになった人 〜tribute to HARUMI MIYAKO〜』が、彼女の72歳の誕生日である2020年2月22日にリリースされた。1964年に16歳でデビューした都はるみは、同年にリリースされた「アンコ椿は恋の花」を皮切りに、これまで6曲ものミリオンヒットを輩出。36歳で引退(5年後に復帰)した際には、最後の舞台となった紅白歌合戦で史上初のアンコールが行なわれるなど、数々の伝説を築き上げてきた大歌手だ。

都はるみ
都はるみ

都はるみは演歌のイメージが強いが、意外なアーティストたちが参加している本作を聴くと、もしかして今までの演歌は発展途上だったのではないかと感じられる。まずは収録曲を見てほしい。

M1. UA「北の宿から」(1975年)
M2. 一青窈「好きになった人」(1968年)
M3. 怒髪天「涙の連絡船」(1965年)
M4. ミッツ・マングローブ「花の乱」(1994年)
M5. 民謡クルセイダーズ feat. 浜野謙太「アラ見てたのね」(1966年)
M6. 畠山美由紀「大阪しぐれ」(1980年)
M7. 水谷千重子&Chage「浪花恋しぐれ」(1983年)
M8. 高橋洋子「アンコ椿は恋の花」(1964年)
M9. 大竹しのぶ「千年の古都」(1990年)
※()はオリジナル発売年

音楽ラヴァーであれば名前を見ただけでワクワクするラインアップだろうが、水谷千重子以外は演歌を主戦場としているアーティストではなく、その水谷も芸人・友近という別の顔がある。つまり本作は、演歌好き以外にも届けることに重きが置かれている。

都はるみ自身も演歌だけを歌ってきたわけではなく、特に引退から復帰して以降は筒美京平、宇崎竜童、織田哲郎などポップスのヒットメーカーたちからも楽曲提供を受けている。しかし本作に収録されているのは、復帰後にリリースされた「花の乱」と「千年の古都」以外、非常に演歌感の強い原曲だ。

それを演歌畑ではないアーティストたちがカバーしているだけに、各曲とも大胆なアプローチ。たとえば怒髪天はヘヴィメタル、畠山美由紀はレゲエ/ダブを土台にしたアレンジをしており、サウンドは一般的にイメージされる演歌とかけ離れている。だがどんなアレンジが施されていても、聴いてみれば確かに演歌である。それも各アーティストの個性が存分に発揮され、独自の解釈で紡がれた極上の演歌になっている。

UA
UA
怒髪天
怒髪天

何をもって「演歌」とされるのか

演歌であるかどうかは、「ヨナ抜き音階」と呼ばれる第4音(ファ)と第7音(シ)を抜いた音階、演歌の代名詞ともされる「こぶし」、悲しみを歌った独特の詞世界、さらには着物の衣装など、複合的な要素によって判断され、なおかつ個人の主観によるところも大きい。そもそも演歌に明確な音楽的定義はないと言われるが、それを証明したのが本作だと思う。

きっと、どこが演歌なのかと感じる人もいるだろう。筆者自身、最初に聴いたときの素直な感想は「演歌だけど演歌じゃない」だった。そこを詳しく考察し始めるとキリがないのだが、テンポを揃えて原曲と歌を差し替えても、なんの違和感もなく聴けるはずだ。これはどんなアレンジでもメロディーの魅力が損なわれない名曲であることを改めて証明していると言えるし、演歌であるかどうかにアレンジは関係ないということでもある。

つまり、どんなアレンジであれ本作に収録された楽曲を演歌と呼んでいいのであれば、今まで聴いてきた演歌は発展途上だったと言わざるを得ない。昔はダメだったという意味ではなく、まだまだ演歌には違う表現の仕方があるのではないかということだ。

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