パートナーとの関係持続に悩むのは、同性カップルだけ?「恋人」から先のステップへ進むための“技術”とは

2022.9.30

文=TAN 編集=菅原史稀


“長い付き合いを応援する”新宿のゲイバー「タックスノット」の店主・大塚隆史氏が、同性愛者に限らずパートナーとの関係に悩むすべての人に向け、よりよいパートナーシップの築き方について著した書籍『二人で生きる技術─幸せになるためのパートナーシップ』(ポット出版)。

本稿では、同書との出会いが「人との関係を考えるきっかけになった」と語る筆者・TAN(LGBTQ+に関するコンテンツを作るチーム「やる気あり美」の一員。セクシュアリティはゲイ)が、自身の体験談を交えながら“二人の人間の永続的な信頼関係をどう築くか”について考える。


「恋人」をつづける関係性に抱いた不安

自分に初めて恋人ができたとき、うれしくて楽しい気持ちでいっぱいだったことを覚えています。しかし関係が長くなるにつれて、次第に「これをいつまでつづけられるだろう……」という不安も大きくなっていきました。ゲイである自分たちの関係には、「恋人」の次のステップが用意されていないことに気がついたからです。

僕らは多くのストレートカップルが想像するような、結婚をして「夫婦」になり、子供が生まれたら「親」になるような変化がなく、「恋人」をつづける必要がありました。当時の僕には、婚姻制度や子供の存在ではなく、お互いの気持ちだけが頼りになりがちな「恋人」という関係をパートナーと長くつづける自信がなかったのです。

長くつづくパートナーシップを目指す一冊との出会い

そんなときに『二人で生きる技術─幸せになるためのパートナーシップ』という本に出会いました。

この本は大塚隆史さんというゲイの方が、長くつづくパートナーシップを目指し、出会った男性と関係を育んでいくプロセスが詳細に書かれている自伝です。自分のトラウマと向き合ったり、オープン・リレーションシップ(結婚に準じるような人間関係において、一緒に生活することを求めながら、相手がほかの人物との、恋愛関係なり、性的関係を持つことを、あらかじめ合意すること)を試したり、ふたりでビジネスを始めたり、大塚さんがさまざまなことに挑戦する様子と共に、その中で見つけた役立つ技術が綴られています。

『二人で生きる技術─幸せになるためのパートナーシップ』大塚隆史/ポット出版

この本に書かれていることで特に印象的だったのが、「信頼」についてです。筆者の大塚さんは、相手からの信頼を得るには相手のことを覚えておくこと、話を聞くことが大事だと説明しています。たとえば相手が職場で困ったことを話したとき、常日頃から相手の話をよく聞いていて職場の状況や人間関係を覚えておけば、的確にアドバイスができます。そんなとき、相手は「自分の大事にしていることに関心を払ってくれている」と感じて、その感覚が信頼感を育てることにつながると。人との関係は、性格や相性など、自分がコントロールできない部分で支えられていると思っていた僕は、自分でもできる小さなことで関係をよくできると知り、心強く感じました。


自分たちだけの関係性を見つけよう

また、この本を手に取ったばかりのころは自分でもまねができそうな技術にばかりに目が行っていたけれど、今この本を読み返してみると大塚さんが実践しつづけた「一緒に生きる方法を考え抜くこと」こそが一番大事であるように思えてきました。友達でもなければ恋人でも夫婦でもない、まだこの世の中では言葉になっていない、自分たちだけの関係性を見つけようとすることです。

大塚さんは、自身の関係作りを

僕が求めてきた関係は、社会に望まれもせず、守ってくれるものもない状態で、二人の人間の永続的な信頼関係をどう築くか、と思考錯誤しながら育んできた特別の関係です

『二人で生きる技術─幸せになるためのパートナーシップ』P255より

と表現していて、本の最後ではその関係を“トゥマン“と名づけ、こんなふうに定義をしています。

トゥマンは二人の気持ちのつながりが最も大事な要素になります。平等で、お互いが理解し合い、受け入れ合っている信頼関係です。性別や年齢などに関係なく、「その人がどんな人か」が尊重されることが前提です。ですから、二人が満足し、受け入れ合ってることが最重要で、他人からどう見えるかは大きな意味を持ちません。

『二人で生きる技術─幸せになるためのパートナーシップ』P257より

子供を持つことは、本当に“当然”?

僕は以前、恋人に「同性婚ができるようになって子供を持つチャンスがあったら、挑戦したいよね」と、軽い気持ちで告げたことがありました。そのとき相手から「自分はそうは思わないな」とはっきりと言われて、その返答に驚いたことを覚えています。

当時の僕は、自分も彼も子供が好きなので、付き合いが長くなり制度さえ整えば子供を持つことが当然だと思っていて、傲慢にも彼も同じ気持ちでいるだろうと感じていました。

しかし、彼は子供を持つことが逆に自分たちの関係にとってはプラスにならないと考えていました。子供を育てるとき、どんな人でも子供に最善を与えたいがあまり、自分のエゴが強く出てきてしまいます。彼と僕は育った環境が大きく異なり、ふたりの関係ではその違いを楽しむことができるけれど、子供ができた瞬間にその違いによって苦しむことが多くなるのではないか、というのが彼の意見でした。

その話を聞いて、なんとなく子供を持つことがいいと考えていた自分よりも、それは本当にふたりの関係にとっていいことなのか?と真剣に考えている彼のほうが、よっぽど自分たちの関係を大切に考えているように感じました。

彼の言うとおり、僕と彼の間では子供を育てるのではなく、ふたりの時間を大切にしたほうが関係がうまく進むこともある。同棲することにこだわっていたけれど、生活リズムが違い過ぎるので週末だけ一緒に過ごすスタイルのほうが合っていたかも。減っていくときめきばかりが目についていたけど、増えていた信頼にも気がつけばよかったかな、と感じたのです。

誰しも「自分たちだけの関係を作る」ことが認められるべき

きっと「自分たちだけの関係を作る」というのは数ある選択肢の中から固定観念に捉われずに自分たちの望むものを選び、試していくことなのかもしれません。そしてこれはゲイカップルだけではなく、他者とよい関係を築きたいと願うすべての人にとって大切なことのように思います。

「血縁関係だけではなく友情や地域のコミュニティに支えられ、困ったときには誰かが寄り添ってくれる、そんな優しくて強い関係性を描くドラマ『フルハウス』。最近はそんな関係性に憧れています(筆者談)」

冒頭に書いたように、昔はパートナーシップを外から支えてくれる婚姻制度や子供を持つことができるストレートの人たちをうらやましく思っていました。しかし今、世間から期待される夫婦や親の理想像に逆に苦しめられている人たちが、セクシャリティを問わず多くいることも知りました。本当は彼らも「どんな夫婦でありたいのか」「どんな親でありたいのか」と自分たちだけの関係を見つけたいと思っているのに、今の社会にはそれを許してくれない空気があることを悲しく思います。

もしもこれを読んでいる人の中にそんなふうに悩んでいる方がいたら『二人で生きる技術─幸せになるためのパートナーシップ』をおすすめしたいです。筆者である大塚さんの関係作りにがんばる人たちへ向けたエールがどの文章からも聞こえてきて、背中を押されること間違いありません。


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  • 『二人で生きる技術─幸せになるためのパートナーシップ』

    著者:大塚隆史
    発売日:2009年10月31日
    定価:2,420円(税込)

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(たん)1991年生まれの会社員。セクシュアリティはゲイ、LGBTQ+に関するコンテンツを作るチーム「やる気あり美」の一員。キンパが好き。

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