“えげつないモンスター“を量産する『魔改造の夜』。残酷ゆえに美しい、一流エンジニアたちのドラマとは?

2022.9.28

NHK BSプレミアムにて不定期に放送されている技術開発エンタメ番組『魔改造の夜』が、視聴者の静かなる熱狂を呼んでいる。

企業や団体の垣根を越えて一堂に会した超一流のエンジニアたちが、それぞれの発想力と技術を駆使し、子供のおもちゃや日用家電などを“魔改造”していくこの番組。10月6日(木)の『特別版』放送を前に、本稿では『魔改造の夜』に魅せられたライター・てれびのスキマが同番組のドラマやその独自の魅力について綴る。


“魔改造”とは? えげつないモンスターを生み出すこと

「ネコちゃん落下25m走」より

「何事もないっていうのがどれだけスゴいか!」

「ネコちゃんのおもちゃを魔改造し6メートル落下させ計25メートル走らせる」というお題のもと「Sニー」が作ったネコちゃん人形が、傘をグライダーのようにして6メートルの高さから落下した上で25メートルの距離を完璧に走り切る姿を見て、興奮した伊集院光はそう叫んだ。そして「当たり前に動くことがこんなに感動的なんだっていうのを身にしみてわかりました。これからすべての電化製品を見る目が変わりそうです」とつづけるのだ。

それは『魔改造の夜』の1シーン。元の用途を逸脱し、通常ではあり得ない改造をすることを「魔改造」という。

2020年から始まり、2022年8月20日、27日までに第5弾が放送されているこの番組では、「魔改造」を「身のまわりにあるおもちゃや家電製品のリミッターを外し、えげつないモンスターに改造する行為」と定義し、トースターでいかに高くパンを跳ね上がらせるかを競う「トースター高跳び」や、歩く犬のおもちゃをいかに速く走らせるかを競う「ワンちゃん25m走」、25m先の10本のピンを狙ってプレーヤーからディスクを飛ばす「DVDプレーヤーボウリング」、ペンギン人形5体を1分間でいかに数多く跳ばせるかを競う「ペンギンちゃん大縄跳び」、電気ケトルの湯沸かし機能から動力を生み、綱引きで対戦する「電気ケトル綱引き」など「実益と生産性を一切無視」したバカバカしくてくだらない競技を行っている。(ちなみにEテレでは『魔改造の夜 技術者養成学校』というスピンオフ番組が制作された)

一流エンジニアたちの知性と技術、そして狂気

「トースター高跳び」より

挑戦するのは、日本のトップ大学「T大学工学部」、下町工場の「H野製作所」、自動車メーカー最大手の「T社」、3Dプリンティングのパイオニア「Sライズ」、町工場の雄「Nット―」、コピー機の世界的メーカー「Rコー」、世界有数の自動車部品メーカー「Dンソー」、日本三大重工業のひとつで航空機のエンジンなどを作る「Aエイチアイ」、世界の「Sニー」など。NHKらしく会社名は頭文字で伏せている(というと、番組を観ていない人は「まだNHKはそんな心の狭いことをやっているのか!」と思ってしまうかもしれないが、実際には会社のロゴなどをアップで映しているように丸わかり。NHKっぽさを遊ぶ自己パロディだろう)が、日本を代表する企業や組織の一流エンジニアたちだ。

「ネコちゃん落下25m走」より

彼らが「ブルーニャンパルス」「投星(とおすたあ)」「瞬速!くるりんぱ3号」「ブーブー旋風鬼」「りとるグリーンもんすたー」「スピーディー・ワンダー」「ハルク・ボーガン」などと悪ふざけ全開の名前を付けて魔改造した機体を披露すると、ほかのチームのエンジニアたちが「そうきたか」などと、制作過程で何度となく試行錯誤してきたからこそひと目でその製品の特長や短所を言い当てるのが、毎回痺れる。

フリーアナウンサー・矢野武による格闘技中継のような実況も番組を盛り上げ、「魔」をイメージした音楽や薄暗い倉庫内のような怪しげな舞台は、秘密の夜会的な背徳感がある。ワンちゃんの頭を4つ付け、ケルベロススタイルに改造して独特の愛情を示す「T社」に代表されるように、悪魔的なマッドサイエンティストっぷりも可笑しい。

一方でエンジニアたちの「ロボコン」的な熱さもある。やっていること自体はバカバカしいが、それ以外はみんなが本気なのだ。エンジニアたちの最高峰の知性と技術、そして狂気があふれている。

「赤ちゃん人形綱登り」より

「失敗」こそ最大の魅力

そしてこの番組最大の魅力のひとつは「失敗」の残酷さだろう。競技のルールに、「改造費は5万円以内」などといったことのほか「失敗しても構わない」ということがわざわざ明記されているとおり、失敗を恐れず、ギリギリまでリスクを負って挑戦するというのがこの番組のコンセプト。だから、失敗はつきものだ。

そんななかで最も印象的な「失敗」といえば、やはり第3弾の「N産」だろう。第1弾と第2弾で、日本が誇る産業である自動車や輸送機メーカーの「T社」や「H技研」が強かったため、日本三大自動車メーカーのひとつである「N産」も大本命視されていた。矢野アナも「やっちゃえ、N産(えぬっさん)!」と言いたくなる語感のフレーズを連呼して盛り上げる。しかし、最初の競技である、50mを扇風機の風力を使って速く走ったチームが優勝という「扇風機50m走」では2回とも「失格」という屈辱を味わい、背水の陣となった2種目。8mの綱を速く登ったチームが勝ちという「赤ちゃん人形綱登り」でそれは起こった。

「ジュディ・オング方式」で長い足をマジックハンドのように伸縮させ登る「夢に出てきそう」な異様な形態の「Sライズ」や、芋虫のような風貌の「Nットー」に対し、「N産」が用意した機体は「このまま商品として欲しい人がいそう」と伊集院が評するように人形のかわいらしさをそのまま維持した「メカレディZ」。頭にはリボン風の安全停止ボタンまで取り付けており、手足を扇状に開閉し登る仕組み。

「赤ちゃん人形綱登り」より

最初の試技では、他のチームを圧倒するスピードで登っていった「メカレディZ」だがゴール直前でまさかの急停止。なぜ止まったのかよくわからない。スローVTRを観ると、揺れた綱がわずかに安全停止ボタンに当たっていた。愛情を込めた装置が仇になるあまりにも皮肉な結果に、ほかのチームも「悪魔が取り憑いてる……」と呟くほど。何度か繰り返しテストしても起こらなかった事態が本番で起こってしまうのが『魔改造の夜』なのだ。

2試技目には、安全停止ボタンをズラして挑んだN産。けっしてボタンを取らなかったN産に「ドラマを感じる」と伊集院。しかし、今度はスタート直後に止まってしまう。膝から崩れ落ちてうなだれる社員。なんと、スタートボタンを押す際、指が引っかかり配線が外れてしまったという悲劇。『魔改造の夜 技術者養成学校』によるとただの極限の緊張によるミスではなく、安全停止ボタンをズラした際、本来なら引っかからないように隠す配線を時間がなく隠していなかったことも原因だったという。

「何がダメなんですか……」

うなだれ涙を落とすエンジニアの姿はあまりに残酷でそれゆえ、美しい。

番組に挑戦するエンジニアたちは、会社に泊まり込んで作業をしたりして死力を尽くして魔改造を仕上げてくる。しかし、本番で想定どおりの動きができたチームはほんのひと握り。冒頭の伊集院の言葉どおり「何事もない」というのは、実は“奇跡”に近いことなのだ。

番組では最後に勝敗には関係なく印象的だった機体に「スプツニ子!賞」(第5弾では「最優秀悪夢(ナイトメア)賞」)が贈られる。「悪夢ですよ。だけど悪夢を見ていい場所にみんな集まったじゃないですか。本業の仕事のときは悪夢を見ちゃいけない。でも今日見た悪夢のおかげで、おそらくいろんなことを学んだんだと思うんです」と伊集院は最優秀悪夢(ナイトメア)賞を贈る際に言葉をかけた。「もう二度と同じミスをしないと思うんです。なぜなら、悪夢を見ていい場所でたっぷり悪夢を見たからです。そういった意味でナイトメア賞、おめでとうございます」

『魔改造の夜』でできたものは、ほかでは一切役に立たないものばかりだ。けれど、そんな遊びやムダ、そして失敗の中から新しいものが生まれてくるのだ。

「クマちゃん瓦割り」より
「ワンちゃん25m走」より

『魔改造の夜 特別版』放送スケジュール

10月6日(木)午後7:57~8:42 NHK総合にて放送

超一流のエンジニアたちが極限のアイデアとテクニックを競う技術開発エンタメ番組『魔改造の夜』。「子供のおもちゃ」や「日常使用の家電」がえげつないモンスターへと姿を変える。 世界中でここにしかない、興奮と感動の夜会へようこそ!


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  • 『魔改造の夜』

    NHK総合、NHK BSプレミアムにて不定期放送
    超一流のエンジニアたちが極限のアイデアとテクニックを競う技術開発エンタメ番組『魔改造の夜』。「子供のおもちゃ」や「日常使用の家電」がえげつないモンスターへと姿を変える。 世界中でここにしかない、興奮と感動の夜会へようこそ!

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てれびのスキマ

1978年生まれ。ライター。テレビっ子。著書に『タモリ学』(イースト・プレス)、『1989年のテレビっ子』(双葉社)、『笑福亭鶴瓶論』(新潮社)、『全部やれ。日本テレビ えげつない勝ち方』(文藝春秋)など。

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