大谷翔平、佐々木朗希の球速記録を言い当てた!?水島新司マンガの驚くべき予言力

2022.6.5
水島新司

『ドカベン』『あぶさん』『野球狂の詩』など、数々の名作を世に送り出した“野球マンガの第一人者”水島新司。彼が作中で描いた設定やプレーは、時を経て日本野球で実現されることが多く、野球ファンの間では「野球の予言書」と称されている。

今回は「水島新司評論」を得意とするスポーツライターのオグマナオト氏が、水島新司マンガと野球界の軌跡について著した書籍『日本野球はいつも水島新司マンガが予言していた!描いたことが次々と実現していく驚愕の歴史』(ごま書房新社/2022年5月発売)の一部を抜粋して転載。水島新司が的中させた驚くべき予言をご紹介する。

大谷翔平、佐々木朗希……日本野球は「160キロ時代」に突入

『日本野球はいつも水島新司マンガが予言していた!描いたことが次々と実現していく驚愕の歴史』(オグマナオト/ごま書房新社)
『日本野球はいつも水島新司マンガが予言していた!描いたことが次々と実現していく驚愕の歴史』(オグマナオト/ごま書房新社)

かつては「夢の数字」と言われた球速160キロ。だが、2010年代に入ると、一気に現実のものとなっていく。まずは2010年8月26日、ヤクルトの由規が日本人投手では初めて球速160キロ代を計測(161キロ)。日本人160キロ時代の扉を開けた。

2012年には 、花巻東高校の大谷翔平が岩手大会準決勝で、高校生初&アマチュア球界初の160キロを計測すると、プロ入り後はさらに球速アップ。北海道日本ハムファイターズに入団し、2年目の2014年に日本人ふたり目、パ・リーグ初の160キロを計測すると、2016年には公式戦最速の164キロをマーク。さらに同年のクライマックスシリーズでは、自己記録を更新する165キロを出している。

この大谷を超える逸材として注目を集めたのが、千葉ロッテマリーンズに所属する佐々木朗希だ。岩手・大船渡高校3年時の2019年、高校日本代表の合宿中に大谷翔平の高校時代を超える球速163キロを計測。2022年3月27日には164キロで自己最速を更新。「令和の怪物」として大きな期待を集めている。

整理すると、2022年4月7日時点での最速記録は……。

プロ野球最速:大谷翔平(日本ハム)  :165キロ(2016年)
高校野球最速: 佐々木朗希(大船渡高):163キロ(2019年)

となる。

ひとケタ台まで的中!最速記録を言い当てた水島マンガ

さて、驚くのはここから。

水島新司がこれまで50年間描き続けた野球マンガ(※ただし、『ドカベン ドリームトーナメント編』はまさに「夢」要素が強くなってしまうため、今回の計測ではあえて含めない)で描かれた「プロ野球最速」と「高校野球最速」を見ていくと、リアル世界と同じ数字が並ぶのだ。

水島マンガでのプロ野球最速:藤村甲子園(阪神):165キロ(1983年)
水島マンガでの高校野球最速:中西球道(青田高):163キロ(1986年)

ひとケタ台までまったく同じ!これぞまさに、背筋が寒くなる水島予言だ。

『日本野球はいつも水島新司マンガが予言していた!』P208より

なお、藤村甲子園の165キロは、実際にその投球シーンは描かれていない。『大甲子園』の序盤、甲子園球場に貼られたポスターにある「男・藤村甲子園 壮絶に散った天才投手165」の文字。そして、そのポスターを見た記者の「一年目32勝 二年目33勝 そして三年目の開幕の第一球で散っていったんやな 165キロを記録したその初球 藤村は太く短く そして雄々しい野球人生を終えた……」というセリフからのみ推察できる。「剛球一直線」のキャッチフレーズに偽りなしだ(※連載モノでは藤村甲子園が最速だが、短編では『平成野球草子』において藤村大五郎というキャラクターも同じ165キロを計測している)。

一方、高校球界最速は「球けがれなく道けわし」の中西球道。球速140キロ台でも「快速投手」と呼ばれた時代に「163キロ」を投げたのだから、いかに球道のストレートが頭抜けているかがわかるというものだ。

水島マンガの「うるさ過ぎる擬音」が生まれたワケ

それでも、球道ならば160キロは投げそうだ、という納得感があるのは、野球大河ドラマ『球道くん』において、幼少期からの成長ぶりを丹念に描いたから。そして、投げた相手が高校球界最強バッター・明訓の山田太郎だった、というのも大きなポイントだ。

最速記録が生まれた舞台は、『大甲子園』における夏の甲子園準決勝、引き分け再試合の7イニング目。前日にたったひとりで延長18回を投げ抜き、4点を取られたものの明訓打線を相手に30奪三振。それでも球道は連戦の疲れを見せず、山田に対してだけは160キロを連発したうえでの163キロ。ところが、山田はこの高校野球最速の球をジャストミートし、弾丸ライナーで突き刺さる決勝ホームラン。最良の好敵手同士だからこそ、互いが最高のパフォーマンスを見せた、という好例だろう。

藤村甲子園と中西球道。このふたりに共通するのは、投げるシーンにおいて「うおおぉぉぉ」という、うるさ過ぎる擬音とともに描かれる点だ。この擬音があるからこそ球が速く感じる効果があり、ハエが止まる岩田鉄五郎の超遅球での擬音「にょほほほほ」とはあまりにも対照的。手塚治虫は静寂の擬音「シーン」を生み出したといわれるが、水島新司はその真逆のうるさい擬音を生み出した、と言っていいだろう。

著者のオグマナオト

水島ワールドに、現実世界が追い付こうとしている!?

最後に、藤村と中西以外でも異次元のスピードボール=160キロ以上を投げた水島マンガの投手名を記しておく(※ここでは参考として『ドリームトーナメント編』での記録も含める)。

167キロ 中西球道 『ドカベン ドリームトーナメント編』
165キロ 新田小次郎 『 ドカベン ドリームトーナメント編』
165キロ 藤村甲子園 『大甲子園』
165キロ 藤村大五郎 『平成野球草子』
163キロ 景浦景虎 『あぶさん』
163キロ 岩鬼正美 『ドカベン ドリームトーナメント編』
162キロ 不知火守 『ドカベン スーパースターズ編』
160キロ 真田一球 『ドカベン スーパースターズ編』
160キロ 七夕竹之丞 『虹を呼ぶ男』
160キロ 大友剣 『ドカベン スーパースターズ編』
160キロ 峠雪太郎 『ストッパー』
160キロ 岩田武司 『新・野球狂の詩』  

水島ワールド・夢の最速王は、中西球道の167キロ。そして今、この数字に迫ろうとしているのがロッテの佐々木朗希だ。本書の野球記録は、水島新司が逝去した2022年1月時点を基本にまとめているが、その1ヶ月後の春季キャンプでの練習試合、調整段階にもかかわらず、佐々木朗希がシーズン初実戦で投じた球は最速163キロ、3月27日には164キロ。大谷が記録した日本最速165キロに追いつき、抜き去るのも時間の問題と見られている。水島新司が逝去した年に、彼が思い描いた「夢の167キロ」が計測されることがあれば、それもまた美しい予言の結実とも思えるのだが、果たして……。

『日本野球はいつも水島新司マンガが予言していた!描いたことが次々と実現していく驚愕の歴史』(オグマナオト/ごま書房新社) より

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