考察『正直不動産』6話 変わっていこうとする山下智久が永瀬財地を演じることが、ドラマに説得力を生む

2022.5.17
正直不動産 6

文=米光一成 イラスト=たけだあや 編集=アライユキコ


NHKドラマ『正直不動産』(火曜よる10時~全10回予定)。原作は『ビッグコミック』(小学館)連載中の同名コミック。ゲーム作家(『ぷよぷよ』『はぁって言うゲーム』『変顔マッチ』など)でライターの米光一成がレビューする(ネタバレを含みます)。

永瀬(山下智久)vs桐山(市原隼人)

不動産営業を描いたお仕事ドラマ、山下智久主演『正直不動産』、5月17日(火曜日)NHK総合午後10時から第7話が放送だ。

契約のためなら嘘もつく悪魔の不動産営業マンだったのが、祟りのせいで嘘がつけなくなってしまった主人公・永瀬財地(山下智久)。風が吹くと、正直に本音をしゃべってしまうために、今までの営業スタイルがズタボロになって悪戦苦闘していた。

6話「仕事をする理由」は、原作漫画1巻と2巻の「新・中間省略登記」と「建築条件付土地売買」をアレンジした展開。
永瀬と桐山(市原隼人)は、社長(草刈正雄)から直々に3億近い「建築条件付き土地」を任される。

永瀬はランチミーティングに誘うが桐山は「昼飯はひとりで食う主義なんで」と断る。
さらに書類を見て「はっきり言って営業するだけ時間の無駄です」と言い切る桐山。それに対して「現場を見てから判断する」と主張する永瀬。
いきなり対立してしまうのだった。

そもそも、永瀬は、桐山がミネルヴァ不動産のスパイではないかと疑っている。5話で、中島から不審なログイン書類を渡され、ミネルヴァ不動産の鵤(いかるが)社長(高橋克典)と密会しているのを目撃したからだ。
「建築条件付き土地」は、家を建てるときは特定の業者を指定するという条件付きの土地だ。今回の案件は竹鶴工務店の土地なので、指定はもちろん竹鶴工務店。

<1巻>大谷アキラ/夏原武 原案/水野光博 脚本/小学館
『正直不動産』<1巻>大谷アキラ/夏原武 原案/水野光博 脚本/小学館
『正直不動産』<2巻>大谷アキラ/夏原武 原案/水野光博 脚本/小学館
『正直不動産』<2巻>大谷アキラ/夏原武 原案/水野光博 脚本/小学館

さらに一歩踏み込んでいく永瀬

『正直不動産』のあなどれないところは、登場人物の対立が一元的じゃないところだ。シンプルな対立構造で考えると、正直営業の永瀬vs正直じゃない営業の桐山だ。
ところが、今回、下請け丸投げの欠陥住宅しか建てられなさそうにない案件。正直に振る舞うなら、桐山のように「これは売っちゃダメ」だ。
だが、永瀬はそうしない。売ろうとしてしまう。嘘がつける永瀬なら売れたかもしれないが、いまや祟りで正直にしか営業できない身。
正直風に吹かれた永瀬は「せいぜい掘っ立て小屋ぐらいしか建てられませんよ」と言って、客を怒らせてしまう。そもそも、永瀬はどうやって売ろうと思っていたのか。この期に及んで、「正直風吹かなければチャンスあるかも」とか思っていたのか。

だが、今回、正直営業しかできない身になった永瀬は、さらに一歩踏み込んでいく。下請けの秋川工務店にプランの見直しを依頼するのだ。正直に営業すれば売れない案件を、売れるように変えようとする。
だが、「俺らみたいな零細工務店が生き残るためには泥水だってすすんなきゃなんねえ!」と怒鳴られてしまう。永瀬は作業現場を手伝い始める。自分を信頼してもらうところから始めて、ようやくプランの見直しをしてもらうところまで辿り着くのだった。

もはや祟りのためにしぶしぶやっているのではなく、正直営業を新しいスタイルとして確立するために、営業の範囲からはみ出して(はみ出したからこそ下請け工務店の棟梁から最初は怒られたのだ)、業界の構造を変えていくために行動し始めた。
なにしろ、このくだり、まったく祟りの風は吹いていないのだ。

「もう嘘はつかない。営業スタイルを変えた。決めたんだ。顧客一人ひとりに正直営業するって」という永瀬の「正直営業宣言」を聞いて、桐山は「正直営業? あなたに一番遠い言葉ですね」とあきれる。

永瀬と桐山、屋上で対決

そんな一触即発状態のふたり。ついに屋上で対決である。「だいたいあんた今まで何してきた? え?」 メンチ切ったまま顔を近づけてくる桐山。

「さんざん客だまして独りよがりで仕事して急に正直営業だ? 笑わせんじゃねぇこの野郎」

ヤンキー映画の迫力である。
「人は簡単に変われない」という桐山の言葉を受けて、永瀬、一歩も引かず。

「そんなことない。少なくとも今俺は変わろうとしている」

正直営業をして考えが変わったと言うのだ。このドラマが、お仕事ドラマとしておもしろいのはもちろんとして、大きな人間ドラマとしても成立しているのは、「人は変われるのか」というテーマを貫いているからだろう。
人が変わるときには、まわりの環境を含めて変わっていく、変えていかなければいけないのだということを、今回のエピソードは表現していった。
そして、実際に、環境を大きく変えることを決断し変わっていこうとする姿勢を見せつづけている山下智久が演じることで、説得力のあるドラマになっているのだ。

竹鶴工務店の社長に、永瀬が言う。

「まともな資金も出さず、あり得ない工期を押しつけ上前をはね、その金で愛人を囲い自社の社員教育すらできないクソみたいな経営者もどきがビジネスを語る資格はありません!」

正直風に吹かれているので、ストレート過ぎる暴言だ。だが、今回、永瀬は「正直営業を見せてください」と言われて乗り込んでいる。つまり、正直風に吹かれることを期待している。
逆に正直風が吹かなかったら「え? おい、どうして!?」とうろたえたはずだ。いや、吹かれなくても(もう少し穏当な言葉遣いをするにしても)同じことを言ったはずだ。

人は変われるのか?

スパイ疑惑は晴れるが、桐山は登坂不動産を辞める。 去っていく桐山を呼び止めて、永瀬が言う。
「俺はお前と仕事がしたい。辞めるな、桐山」

正直風が吹いていないのにストレートに熱い想いを声にする永瀬だ! それに対して桐山は

「やっぱり俺の知ってる永瀬財地じゃない。でもみんながみんなあなたみたいに変われないんですよ」

と言って去っていく。だが、観るものは桐山も変われると予感している。竹鶴工務店の社長に正直営業している永瀬を真剣な眼差しで見ている桐山の顔、迷惑がかかるから辞めると言った桐山に社長が「そんなこと気にしなくていい。うちの社員は私が全力で守る」と言ったときの表情、そういった場面の巧妙な構成で、桐山は自分の言葉に反して変わろうとしているのだと伝わってくるからだ。

次回、第7話の予告、永瀬が「自分のやった過去は変えられない」と言っている。変わろうとしている永瀬に、「自分の過去」という新たな試練が立ち塞がるのだろうか。

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