伊集院光、オードリー、山里亮太は何を話していたのか?【芸人ラジオの初回放送を振り返る①】

2022.4.28

『オードリーのANN』ラジオに前のめりだった12年前の春日

コンビ芸人のラジオだと、関係性の変化も見えてくる。初回を聴き直して、今との違いを強く感じたのは2009年10月スタートの『オードリーのオールナイトニッポン』だ。とにかく春日俊彰がラジオに対して貪欲で、グイグイと前に出てくるのである。若林正恭も「このレギュラーが始まることに珍しく興奮が表に出ていましたよ」「春日さん、すごいガンガンしゃべりますね」と驚きをあらわにしていた。『アメトーーク!』(テレビ朝日)の「○○じゃない方芸人」に若林が出演したのはこの年の4月。春日の知名度が先行していた状況も影響しているかもしれない。

初回の春日のトークからはラジオ愛があふれ出している。「ANNを聴いて育ってきた」と胸を張り、ナインティナインや大江千里、YUKIなどのANNを聴いていた思い出を告白。「『Oh!デカナイト』に電話をかけていた」「牧瀬里穂のテレホンカードが欲しくて、ハガキを書いていた」と、番組に積極的に参加していた経験も明かしている。

土曜日のANNを長年、松任谷由実が担当していたことを受けて、番組序盤からユーミンをもじり、自らを「カスミン」と呼んでいる。打ち合わせでも隠していたというとっておきの発言で、春日は「どーだ!」と胸を張ったものの、スタッフからの反応は芳しくなく、若林も「二度と言わないでもらっていいですか」でツッコんでいた。しかし、これ以降、「カスミン」は定着して現在に至る。

春日はどこまでも前向きで「この番組も本を出すぐらいまでやっていく」と力強く言い切ると、何度も「(番組は)20年いく」と連呼。番組本発売は早くも翌年に実現し、2022年現在で5冊制作されている。放送期間は現時点で12年半。20年もあながち無茶な話ではない段階に来ており、さまざまな紆余曲折があったとはいえ、春日の“有言実行”ぶりは目を引く。

ラジオに前のめりになっている春日はリスナーと電話をつなぐ企画もノリノリで、「家庭の固定電話にかける」ことにこだわったり、女性リスナーに突っ込んだ質問をしたりと、ラジオっ子ぶりを発揮していた。最近、オードリーのANNを聴き出したリスナーには、リスナーと電話をつなぐ企画があったこと自体、信じられないかもしれない。

『ビートたけしのANN』では、ニッポン放送で出待ちをしていたリスナーが弟子入りを志願した伝説を残しているが、当然、春日も弟子を取るのに乗り気。ピンクベストを着て志願してくるように呼びかけていた。このときに弟子の芸名例として出したのが「ステルスボーイ田中」。この伏線もいつか回収されるかもしれない。

興味深いのは、初回からいくつも今につづく定番トークが語られている点。春日が長年住んでいたむつみ荘についてはもちろん、若林による「春日が『スクール革命!』であんまりしゃべってない」という話も今につながってくるし、「長崎に行った修学旅行の夜、宴会場のカラオケで隠れて春日がシャ乱Qの『空を見なよ』を歌っていたら、先生にビンタされた」という有名なエピソードも初回から語られている。

初回終了の時間が迫ると、春日は「イヤです。来週のこの時間までやりつづけます。ちょっと“早し”だったね。(話したいことが)あったあった。どうすんのよ、この持ってきたヤツをさ。処理し切れないよ」とやり足りない様子。「オープニングトークを準備してこない」と若林からなじられる現在の春日とはかなりスタンスが違う。

初回放送の採点を聞かれると、「(若林は)春日の足を引っ張らなかったということで40点。もっとバチバチにやり合わないと、春日と。腰引けてんもん。ラジオはもっとバチバチやり合わないと。春日は98点。100あげちゃうと、満足しちゃうから」と返答していた。

この発言からもわかるように、初期はテレビの世界における“春日”というキャラクターが前に出ているようにも感じる。放送200回のタイミングで筆者が取材した『お笑いラジオの時間』のインタビューにおいて、若林が語っていた「最初のころは舞台に立っているときのような感じで話してるなと思いましたね。トークライブに臨むような感覚で」という発言がまさに当てはまる。それが長い時間を経て、素の人間性が浮き彫りになり、今の関係性につながっているのであろう。この「バチバチにやり合う」という言葉も現実になった。

今や「高校生なんて誰も聞いてない」と自嘲しているが、初期のフォーマットは完全にANN伝統の学生向け。コーナーも多彩で、今と趣は違うが、一部のジングルやエンディングテーマは同じなので、聴き直すと時空がねじれたような感覚に襲われる。

『山里亮太の不毛な議論』妬み・そねみ・ひがみ満載のスタート

コンビの関係性が変化していく様を見守るのも「線」で楽しむラジオの醍醐味。『オードリーのANN』から半年遅れてTBSラジオで始まった『山里亮太の不毛な議論』にも、それは当てはまる。

初回でいきなり山里はとある女子アナに対して悪口を重ね、魔法の言葉として「いい人ですけどね」をつければ帳消しになると言い張り、妬み・そねみ・ひがみ満載の番組を始動させた。その一方で南海キャンディーズの相方である山崎静代についてはまったく触れていない。

当時は互いに個人での活動中心で、コンビ間にも距離があった。しかし、その関係性が再び動き出し、2015年には南海キャンディーズ第2章スタートをラジオでも宣言。改めて漫才に取り組み、『M-1グランプリ』にも再挑戦した。その過程をラジオは濃厚に伝えていたが、最終的に相方がつないだ縁で、蒼井優との結婚に至り、発表会見直後にラジオで思いを語ることになるのだから、初回で女子アナの悪口を聴いたリスナーとしてはたまらない展開だった。

個人の立ち位置の変化も、コンビの関係性の変化も、何十回、何百回と聴いてきたリスナーでなければ感じられないおもしろさだ。もちろん「点」の放送もそれだけでじゅうぶん過ぎるぐらいに魅力的なのだが、“ラジオ変態”からすると、実は「線」で楽しむことのほうがラジオの醍醐味ではないかと思えて仕方ない。
 
次回は、初回に大きなインパクトを与えた芸人ラジオについて振り返ってみたい(4月29日公開予定)。

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