『宮下草薙の15分』に漂う異質な空気感。親密さと緊張感が同居する“15分の魔法”

文=村上謙三久 編集=森田真規


お笑い第七世代を担うコンビとして人気の宮下草薙。ふたりがパーソナリティを務め、文化放送で放送されているラジオが『宮下草薙の15分』だ。

その名のとおり15分間、構成作家の笑い声も入らない、宮下兼史鷹と草薙航基のふたりきりの“場”が立ち現れる。芸人ラジオ特有の流暢なかけ合いや定番のトークパターンなどはほとんどない、ただただふたりの関係性を剥き出しにした『宮下草薙の15分』の魅力に迫る。


宮下草薙の変わった関係性

お笑いコンビのラジオを聴く楽しさの肝はどこにあるのだろう。ふとそんなことを考えた。

バラエティ番組の裏側が知れるから? おもしろいネタコーナーがあるから? プライベートが垣間見えるフリートークがあるから? さまざまな答えが思い浮かぶが、一番大きいのは「コンビの関係性を体感できるから」ではないだろうか。自分の中ではこの答えがしっくりくる。

芸人の皆さんからすると、もしかしたらそんな聴き方をするマニアに嫌悪感すら覚えるかもしれない。だが、ふたりの間に漂う空気感、そして放送をつづけていく間に起こる変化を私は最も楽しみにしている。

お笑いコンビの関係性は本当に千差万別だ。ハライチのような幼なじみ同士もいれば、錦鯉のように30歳を超えてコンビを結成した例もある。昔と変わらぬ友達に近い関係がつづく場合もあれば、「ふたりきりでしっかり話すのはラジオだけ」というコンビもいる。もちろん関係が悪化して、解散することだってある。

中でも、宮下兼史鷹と草薙航基のコンビ・宮下草薙は、とても変わった関係性にある。さまざまなメディアから仲のよさが伝わってくる一方、険悪な状況になってケンカをし始める場面が多々あり、“ケンカし過ぎ問題”がテレビで取り上げられたこともある。インターネットを検索してみれば「仲がいい」「仲が悪い」「ビジネスで仲よくしている」「わざと仲が悪いふりをしている」など、さまざまな意見が錯綜している。実際のところはどうなのか。それを知るにはラジオを聴くのが一番だ。

“15分”の魔法

2020年1月から文化放送で放送されている『宮下草薙の15分』は、とにかく変わった番組だ。ふたりにとっては初のレギュラーラジオとなる。お笑い芸人のラジオといえば、深夜の2時間生放送をイメージされる方も多いだろうが、この番組は真逆を行く15分の収録番組。本来ならば「目指せ深夜の生放送」と目標を掲げてもいいはずが、本人たちはそんなこと一切考えておらず、「ずっと15分がいい」とこの形にこだわりすら持っている。

番組の内容は放送時間が短いだけに至ってシンプル。宮下、草薙、そしてリスナーが提示したトークテーマを3枚のカードにし、それをシャッフルして引いたものについて語るというスタイルだ。

そもそも開始当初は15分(CMの時間を除くと12分半~13分半)すら持て余していて、「長いなあ、15分。中身が何もないけど、大丈夫なの?」(草薙)、「15分で後半の失速ってあるんだ」(宮下)ともらしていた。60分の特番が決まった際に、草薙は「こんなこと言うのはなんだけど、やりたくない」とこぼしたほど。

“じゃない方芸人”として取り上げられることの多い宮下は、ラジオでその個性を発揮する一方、草薙は少々及び腰。自分で提示したテーマなのにもかかわらず、宮下に話を振って時間を引き延ばすなど迷走を見せ、第10回にして「もうないよ、話すことなんか、俺は。10回もやったから。絞り出したから、俺のトークテーマは」と白旗を揚げていた。

特に放送初期には草薙の失敗談が事欠かない。ベテラン芸人ならば1時間は使うであろう正月の地元帰省トークも、数分で終わってしまう。宮下の話す内容を事前に知っていると、初めて聴いたように対応できない。うまく話ができず、逆ギレ気味に「次は俺がとっておきの話を持ってくる」と予告したが、結局尻つぼみに終わる。そんなことがよくあった。

しかし、“15分”で終わることで、毎回この番組はリセットされるのだ。リスナーは時に宮下視点で一緒に呆れ、時に母親的存在である中原(綾子)マネージャー視点で応援しつつ、いつしか番組に引き込まれていく。ある意味、これは「15分の魔法」ではないだろうか。

そんな自由気ままな『宮下草薙の15分』だからこそ、ふたりの関係性がしっかりと伝わってくる。ラジオから感じるふたりはとにかく“圧倒的”に仲がいい。お笑いコンビのラジオはよく「学生時代の部室トーク」なんてたとえがされるが、宮下草薙の場合はもっと距離が近い気がする。養成所時代からの知り合いとは思えないほどだ。

番組中に越崎(恭平)ディレクターと中原マネージャーの名前こそよく出るが、構成作家の笑いも入らず、良くも悪くもリスナーのメールを読む回数は多いと言えず、本当に何も邪魔者がいない“ふたりきり”の場になっている。どうでもいい話をして、同時に笑い合う感じはとにかく心地いい。先ほども書いたように、「ふたりで面と向かってトークするのはラジオだけ」というコンビも多いなか、宮下草薙は日常的に常に会話を交わしており、ラジオはその延長線上という雰囲気だ。

そもそも昨年まで隣の部屋に住んでいたことはテレビなどでもよく語られてきたが、「誕生日プレゼントを一緒に買いに行った」「宮下が草薙の部屋のロフトを直した」「草薙が宮下、さらにその彼女やマネージャーにも『どうぶつの森』をプレゼントした」「この前、電話でケンカした」など仲のよさを窺わせるエピソードにラジオでも事欠かない。

ふたりで「最強のカレーを作ろう」と思い立ち、スーパーを回ってレトルトカレーを買い漁り、松屋のカレーまで加えて混ぜ合わせたものをおいしく食べたという第9回は特に印象的だ。このとき、動画を撮ろうとした宮下に対し、草薙が「メディア向けにやってないんだから」と言って止めたという逸話は、ふたりの距離感を表す象徴的なエピソードだろう。

ただただふたりの関係性がむき出しに


この記事の画像(全1枚)


関連記事

この記事が掲載されているカテゴリ

村上謙三久_プロフィール

Written by

村上謙三久

(むらかみ・けんさく)編集者、ライター。1978年生まれ。プロレス、ラジオ関連を中心に活動。『声優ラジオの時間』『お笑いラジオの時間』(綜合図書)の編集長を務め、著書に『深夜のラジオっ子』(筑摩書房)、『声優ラジオ“愛”史 声優とラジオの50年』(辰巳出版)がある。

QJWeb今月の執筆陣

酔いどれ燻し銀コラムが話題

お笑い芸人

薄幸(納言)

「金借り」哲学を説くピン芸人

お笑い芸人

岡野陽一

“ラジオ変態”の女子高生

タレント・女優

奥森皐月

ドイツ公共テレビプロデューサー

翻訳・通訳・よろず物書き業

マライ・メントライン

毎日更新「きのうのテレビ」

テレビっ子ライター

てれびのスキマ

7ORDER/FLATLAND

アーティスト・モデル

森⽥美勇⼈

ケモノバカ一代

ライター・書評家

豊崎由美

VTuber記事を連載中

道民ライター

たまごまご

ホフディランのボーカルであり、カレーマニア

ミュージシャン

小宮山雄飛

俳優の魅力に迫る「告白的男優論」

ライター、ノベライザー、映画批評家

相田冬二

お笑い・音楽・ドラマの「感想」連載

ブロガー

かんそう

若手コント職人

お笑い芸人

加賀 翔(かが屋)

『キングオブコント2021』ファイナリスト

お笑い芸人

林田洋平(ザ・マミィ)

2023年に解散予定

"楽器を持たないパンクバンド"

セントチヒロ・チッチ(BiSH)

ドラマやバラエティでも活躍する“げんじぶ”メンバー

ボーカルダンスグループ

長野凌大(原因は自分にある。)

「お笑いクイズランド」連載中

お笑い芸人

仲嶺 巧(三日月マンハッタン)

“永遠に中学生”エビ中メンバー

アイドル

中山莉子(私立恵比寿中学)
ふっとう茶☆そそぐ子ちゃん(ランジャタイ国崎和也)
竹中夏海
でか美ちゃん
藤津亮太