『宮下草薙の15分』に漂う異質な空気感。親密さと緊張感が同居する“15分の魔法”



ただただふたりの関係性がむき出しに

だが、宮下草薙は単純に“仲がいい”だけでは終わらない。仲がよすぎるゆえに、距離が近過ぎて、何かあるたびに衝突してしまい、ラジオでもケンカが勃発するのだ。たとえるなら、「ボクシングごっこで遊んでいたら、アゴにパンチが入ってしまった」「プロレスごっこをしていたら関節を極めてしまった」「ドッジボールで遊んでいたら、顔面にボールを当ててしまった」……そんな感じ。誰もが子供のころに味わった“遊んでいたはずが急に状況が一変して険悪になる”あの雰囲気に近い。

感情のアクセルを踏んでから最高速度になる時間が異様に短い草薙と、あくまで冷静で客観的な立場を取ろうとするあまり、よけいに苛立ちがにじみ出てしまう宮下は、ケンカが避けられない組み合わせ。逆の意味でも相性がよすぎるのだ。

印象的な回は今年1月の第54回。普段通り仲よしトークでスタートし、宮下が新年に出演した朗読劇『芸人交換日記』を振り返ることになった。その中で、久々に人前に立ち、緊張した宮下が「漫談口調」になってしまったと語ったところでまさかの展開に。草薙が「漫談口調」を再現するよう執拗に求めるも、宮下は徹底的に拒否。わずか1分前まで笑い合っていたのに、瞬時に揉め始めてしまった。ここでも「15分の魔法」が機能し、翌週に改めて漫談口調が披露されるのだが、この番組ではこのように時々不穏な空気が立ちこめる。

突然、トークテーマを打ち切った草薙がシビアにコンビの人気を考察し始め、2週にわたる激論に発展した回もあった(第28回&第29回)。草薙はネガティブな発言を連発した末に、最終的に「(ラジオを)録り直させてもらおう」「全部切ってもらおう」と言い出し、強引にオープニングから番組を始めようとしたものの収録は止まらず、宮下が「『宮下草薙の15分』は今日で終わりです」と言ってエンディングを迎えた。ケンカまでいかなくても、この番組にはアクシデント感が常に漂う。

だから、ホッコリするような内容でも、わずかながら「急に雰囲気が変わるのでは?」という緊張感をリスナーは抱かずにはいられない。越崎ディレクターやふたりの証言からもわかるとおり、編集でうまくフォローしているからこそ成立している部分もあるのだろうが、この“ガチ感”も番組の魅力と言っていいかもしれない。ふたりのケンカは正直言って、どっちもどっちのことが多く、どちらにも肩入れせずに聴いていられるので、案外リスナーもあとを引かないのだ。

この番組には、芸人ラジオ特有の流暢なかけ合いや定番のトークパターンなどはほとんどない。百戦錬磨のベテランコンビたちによるラジオが“人気シェフが作った豪華フルコース”ならば、宮下草薙はさながら“塩こしょうを振っただけ”のシンプルな味つけで、“素材の鮮度だけで勝負するトガったジビエ料理店”のようなものである。プライベートをさらすわけでも、刺激的な発言をするわけでもなく、ただただふたりの関係性をむき出しにしてラジオに臨んでいるお笑いコンビはほかにいないかもしれない。

ついに番組に初ゲストが登場

だが、放送開始から1年半が過ぎ、少しずつだが、着実に変化してきているところがある。それは「15分が埋まらない」からスタートしたはずが、明らかに「15分じゃ足りない」という回が増えつつあるのだ。特に宮下のフリートークは「もっと聴きたい」と感じるときが多い。そして、番組初ゲストとして6月18日からトム・ブラウンが4週連続で出演することも決定した。

5年、10年と宮下草薙がラジオをつづけていった先に、いったい何があるのか。緊張感と仲のよさが同時に漂う15分を毎週聴きつづけていると、どうしてもゲストとのトークに臨むふたりやネタコーナーで爆笑するふたり、30分を超すフリートークを聴かせるふたり、なんてことを妄想してしまう。宮下草薙による深夜の生放送を毎週聴ける状況を欲している自分がいる。

まあ、当の本人たちにはそんな考えが一切なく、10年後も「やっぱりこれがいい」と15分のラジオをつづけ、相も変わらず仲よしぶりを見せつけつつ、時々ケンカをしてリスナーをハラハラさせているかもしれないけれど。それはそれで聴いてみたい。

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村上謙三久

(むらかみ・けんさく)編集者、ライター。1978年生まれ。プロレス、ラジオ関連を中心に活動。『声優ラジオの時間』『お笑いラジオの時間』(綜合図書)の編集長を務め、著書に『深夜のラジオっ子』(筑摩書房)、『声優ラジオ“愛”史 声優とラジオの50年』(辰巳出版)がある。

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