4月9日、2回めの『キングオブコントの会』(TBS)が放送された。夜7時から3時間のスペシャル放送を、お笑い大好きライター(『ケータイ大喜利』レジェンドでもある)井上マサキがじっくり振り返る。『伝説の一日』でのダウンタウンの「伝説の」漫才の興奮さめやらぬ今、「伝説の」コントがこの番組で披露される日を願ってしまう。
チャンピオンたちの「怪獣大戦争」
1回の特番で終わらず、つづいてくれたことが本当に嬉しい。昨年6月、松本人志が新作コントを書き下ろして話題となった『キングオブコントの会』(TBS)。その第2弾となる『キングオブコントの会2022』が4月9日に放送された。3時間の放送時間は、今回もコントがぎっしりと詰まっていた。
『キングオブコントの会2022』の参加メンバーは、キングオブコントの歴代優勝者12組(東京03、ロバート、バイきんぐ、かもめんたる、シソンヌ、コロコロチキチキペッパーズ、ライス、かまいたち、ハナコ、どぶろっく、ジャルジャル、空気階段)。歴代王者たちと松本人志がそれぞれ新作コントを1本書き下ろし、さまぁ〜ずとバナナマンを含めた番組出演者から共演者をキャスティングするのだ。
実力者だらけのユニットコントが13本。その贅沢さは、松本人志が発した「怪獣大戦争」という例えがぴったりだった。
ファミレスで揉める東京03に加勢する、甲高い声でまくし立てる学生(シソンヌ・じろう)と怪しげな歌を広める教祖(ロバート・秋山竜次)。ジャルジャルのコントに不穏な空気を加えるエグゼクティブプロデューサー(かもめんたる・岩崎う大)。芸者姿のハナコと死闘を繰り広げるバナナマン・日村勇紀。怪獣が作ったコントに別の怪獣たちが襲いかかり、また新たな魅力が生まれていく。
と言っても、強キャラ同士の対決だけが「怪獣大戦争」ではない。東京03・豊本明長やライス・関町知弘など、脇役として何本ものコントに出る芸人もいる。どの世界観にも入り込める力だって、ある意味「怪獣」の仕事だ。そんな彼らの大戦争が3時間もつづくのだから、「贅沢」以外の何物でもないだろう。
「せっかくだから」でお金も時間もかけられる贅沢
『キングオブコントの会2022』は、前回にも増して「テレビコントでしかできないもの」を追求していたように思う。
シソンヌ作『喫茶店』は、「ドラマみたいに撮ってほしい」とオーダーした結果、カメラ9台による大掛かりな撮影になったという。回想シーンでは、エキストラを多数配置して盛況だったころの店内を作り、コロナ後の閑散とした様子を際立たせた。照明の柔らかさやハートフルなストーリーも相まって、スタジオからは「日曜劇場みたい」という感想も生まれるほど。
バイきんぐ作『宅飲み』に登場するゴミ屋敷もすごい。部屋いっぱいに腰の高さまで空のペットボトルが積み重ねられた状況で繰り広げられる、住人(空気階段・鈴木もぐら)とその友人(バイきんぐ・小峠英二)のやりとり。「スマホを落として見失う」「ペットボトルの山から人が突然登場する」など、このシチュエーションだからこそ可能な要素を絡めつつコントは進む。
このゴミ屋敷を作るために用意されたペットボトルは約8000本(!)。TBS社内に無料のペットボトル配布所を設置し、約2カ月かけて飲み終わったペットボトルを回収・洗浄して用意したそう。
ほかにも、かもめんたる作『セクシー大根』やロバート作『ママ友』などもよく作り込まれていたし、そしてなにより各コントの豪華なセットたるや。たった10分弱のコントに、多くのお金と手間暇がかけられている。
どぶろっくの誰ともかぶらない笑い
一方、お金や手間暇とまた違う方向で「テレビコントでしかできないもの」を実現したのがどぶろっくだった。どぶろっく作『誇り高き者たちへ』は、バイきんぐ西村らが登場する「どぶろっくの歌のプロモーションビデオ」になっていたのだ。
もともと歌ネタを得意とするどぶろっくは、歌ネタをミュージカルにすることで「コント」に仕立てあげ、キングオブコント優勝をかっさらった。そして今度は、歌ネタをプロモーションビデオにすることで「テレビコント」に仕立てあげ、ほかの誰ともかぶらない笑いを生み出していた。
コント師たちのスタジオトークでは、何度か「せっかくの機会だから」という声があがった。これまでのネタ作りで、「おもしろいけど実際にやるのは難しい」と封じたアイデアもたくさんあっただろう。『キングオブコントの会』が、ひいてはテレビコントができる環境が、こうしたアイデアに光を当てつづける場であってほしい。
みんな1回ずつ「松ちゃんとコントできる権」を持っている
『キングオブコントの会』は、今回も松本人志の新作コントで締めくくられた。
『落ちる』と題されたコントは、5人組のバンド(松本人志、さまぁ〜ず・大竹一樹、シソンヌ・長谷川忍、東京03・豊本、かもめんたる・う大)が自室でチェッカーズの『俺たちのロカビリーナイト』をカバーするところから始まる。ワンコーラスを歌いきり、ベースの大竹がシャウトすると、その足もとに穴が開き、大竹は奈落の底に落ちてしまう……が、すぐに玄関から帰ってくる(毎回律儀に呼び鈴を鳴らして入ってくるのがおかしい)。
大竹はなぜ「落ちる」のか、どうすれば落ちずに演奏を終えられるのか。試行錯誤するもうまくいかず、言い争いが始まり、バンドの行く先には暗雲が立ちこめ、ロカビリーナイトは迷走する……。
前回披露された『おめでとう』と『管理人』は、松本人志が中枢を担うコントだった。『おめでとう』では意味不明の祝福を繰り返す女性を、『管理人』では頑なにお土産を受け取らない住人を演じ、松本はアドリブを交えながら話を運んでいった。
一方、今回の『落ちる』は、松本の着想をベースに、5人それぞれが自らのキャラクターを持って動いている。撮影中は5人でミーティングも重ねたそう。どれくらい即興の部分があるか分からないものの、前回よりも「みんなで作り上げた」という印象が強い。裏を返せば、それだけ松本がほかのメンバーを信頼している証とも言えるだろう。
また、これは偶然かもしれないが、『おめでとう』『管理人』『落ちる』の3本は、参加メンバーが重複していない。みんな1回ずつ松ちゃんとコントできる権利を持っている……と考えると、前回コロナ感染で欠席し悔し涙を飲んだかまいたちにも、いずれ出番が回ってくると信じたい。
さらに贅沢を言うなら……今回も姿を見せなかった浜田雅功にも参加してほしい。先日の吉本興業創業110周年特別公演『伝説の一日』で「伝説の」漫才を観てしまったから、今度は「伝説の」コントが観たくてしかたがないのだ。その日が来るまで、『キングオブコントの会』はつづけてもらわないと困ります。
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