まるでリアル『浅草キッド』!劇団ひとりの後輩が見た、芸人の名言「お前、本当に抜いてたろ?」|神宮寺しし丸の“生き方説明書” #8



「モノマネ芸人を軽く見るべからず」

爆笑をさらったあとの「お疲れさん」神奈月

芸人の中で、モノマネ芸人さんを軽く見る傾向があります。芸人を目指す時にモノマネ芸人に憧れて入って来る人は少なく、実際僕もダウンタウンさんに憧れてお笑いを始めました。一般の方でも、ネタやトークで売れる芸人よりも、モノマネで売れる芸人を軽く見ている人は多くいるのではないでしょうか。

僕がまだ新人の頃、営業で神奈月さんと一緒になりました。
場所はホテルの宴会場。企業の忘年会でネタをやるお仕事。既にお酒も進み宴会場は大盛り上がりです。そこに、僕は前座として飛び出していきます。

「どーも!皆さん!失礼しまーす!太田プロのピン芸人、神宮寺しし丸でーす!」。

マイクで大声を張り上げても、誰も僕に見向きもしません。

「皆さーん!神宮寺しし丸を見るチャンスですよー!こんなチャンス滅多にないですよー!なんせテレビに一切出てないので!」と、渾身の自虐ネタをかましても、会場はガヤガヤと各々雑談を楽しんでいます。

「今から面白いネタやりまーす!!!」。会場ガン無視。

「ダ、ダ、ダ、ダニ!どーも!ダニ男です!」。僕の十八番ネタ『ダニ男』が宴会の喧騒にかき消されていきます。

ネタ途中で心が折れてどんどん声が小さくなっていきます。持ち時間の10分間が1時間くらいに感じます。

「どうも、ありがとうございました。」冷や汗でドロドロになった頭を下げて、逃げるように舞台を降ります。

袖で待機していた神奈月さんとすれ違います。

「お疲れさん」。僕の肩をポンッと叩いてそう一言残し、舞台へ向かう神奈月さん。

「Make-up Shadow」が流れる中、井上陽水のモノマネで舞台に出て行きます。

すると……会場は割れんばかりの大歓声です。僕は目の前の光景が信じらませんでした。「ちゃんとネタ聞こえてたんだ……」と思いました。

その後も、吉川晃司、新庄剛志、石原良純…と30分間のステージは余すところなく大爆笑。最後は武藤敬司で締めて会場からの拍手喝采の中、舞台を降りる神奈月さん。

袖で呆然と立ち尽くす僕とすれ違います。

「お疲れさん」とまた一言。僕の中にあったモノマネ芸人への軽視を粉々に砕いて神奈月さんは楽屋へと帰って行きました。

~神奈月のカッコいい言葉~

「la la la・・・言葉にできない~♪」

神奈月さんが単独ライブ時、モノマネメドレーで大爆笑を獲った後に歌う小田和正の「言葉にできない」。さっきまで爆笑していたお客さんが泣いてしまうほどの歌唱力。


猟奇的なネタ帳と、期待を裏切る衝撃のライブ|松村邦洋

松村さんというと、ビートたけしさんのモノマネをやる人というイメージか、「電波少年の松ちゃん」のイメージが強い人も多いかと思います。
いつもスタッフにむちゃをさせられている太ったいじめられっ子の松ちゃん。しかし、それだけではないことを僕は知ったのです。

数年前のある日、松村さんとご飯を食べる機会がありました。食事の後、その流れで松村さんの家へお邪魔することに。

松村さんの家は綺麗なマンションなのですが、部屋はDVDやらが散乱していてお世辞にも綺麗とは言えないお部屋。

そこでなぜか映画「冷たい熱帯魚」(実際に起こった猟奇的連続殺人事件をベースにした作品)を観ようということに。犯人役のでんでんさんの怪演ぶりに観入っていると、ふと松村さんの部屋の片隅に乱雑に積まれたノートの山を発見。ネタ帳でした。

僕の視線に気付いた松村さんはその一冊を取り出し、「今度久々に太田プロライブでネタやるから、新ネタ作ってんのよ」と。

その開いたネタ帳には、引くほどぎっしりと文字が書き込まれていました。
その猟奇的とも言えるネタ帳に思わず「これ全部覚えるんですか?」と訊くと、「うん。ここのくだりとかどうかな?」と、いきなりネタをやり始めたのです。

面白い面白くない以前に「冷たい熱帯魚」の世界と「松村邦洋」が重なって、松村さんがでんでんさんに見えて来て恐ろしかったのを覚えています。

太田プロライブ当日。ゲストは松村邦洋。
僕は松村さんのネタを見たことがなかったです。見たのはあの部屋でのネタ見せのみ。あの記憶を思い出す限り失礼ながら不安しかなかったです。お客さんもまだ電波少年の松ちゃんのイメージが強い松村さんのネタに期待感はそれほど無かったと思います。

松村さんの出番が来ました。

ネタはNHKのドキュメンタリー番組「プロジェクトX」風に自身のモノマネ人生を振り返るというもの。これが……めちゃくちゃウケるんです!

あの猟奇的なネタ帳の一言一句を全て笑いに変えていきます。舞台に立つ松村さんは、モノマネと話芸の完全体となり、お客さんを笑いの渦に引きずり込んでいきます。舞台袖で観ていた僕は、笑うというより衝撃に近いものを感じました。

ネタ終わり。想像を遥かに超えた松村さんのネタの余韻が残る客席。それを尻目に、袖に引き上げて来る松村さん。

「あぁ~、緊張したぁ~」と、汗ダクの身体を揺らしながら楽屋へと帰って行きます。あれだけの笑いを獲っても、どや顔ひとつ見せず。その姿は既に「電波少年の松ちゃん」に戻っていました。

~松村邦洋カッコいい言葉~

「寿司かしゃぶしゃぶ、どっちがいい?」

松村さんが後輩をご飯に誘う時に必ず言う二択。とにかく後輩にうまい物を食わせてやろうという気持ちが溢れ出ているお言葉。

連載神宮寺しし丸の“生き方説明書”は、毎月1回の更新予定です。


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