会心のおじさんが描けた!プロ漫画家が「おじさんキャラを生み出す」苦悩と技をベストテンで公開
〈今までの生い立ちやら性格やら、家族構成やら、家族における立ち位置やらがたちのぼってくるおじさんが描けることがある。私はそれを「会心のおじさん」と呼んでいる〉。『東京トイボックス』『東京トイボクシーズ』などで知られる漫画家うめの作画演出担当の妹尾朝子に2021年に描いた「会心のおじさん」を教えてもらった。それぞれのおじさんをどうこだわって描いたのか。気づかないような細部に、プロの発想と技が宿っていた。
【関連】「ここに描くべきはヤンキーか野良犬か酔っ払いか?」プロ漫画家は作画をコストで考える──『東京トイボクシーズ』うめの場合
目次
- リアルな生きている人間として、おじさんを描く
- 第10位|長岡専務───前髪は最後に残ったおじさんの良心
- 第9位|生産部門責任者/営業部門担当者───おじさんの剃り込みは覚悟の表れ
- 第8位|ファミレスの店長───視野の広さや、物事を俯瞰して見る能力を表現
- 第7位|札幌支社支店長───仕立てのよさそうなスーツから滲み出せおじさん!
- 第6位|酔っ払い───名もなきおじさんの髪型、シャツ、スーツ、ネクタイの細部
- 第5位|『NW!』編集長 磯貝時夫───おじさんの偏った髪の分け方、派手なシャツ
- 第4位|神崎真代の父───坊っちゃん風だがすぐ激昂するおじさん
- 第3位|ウォルト・チャン───世界的大企業の創業者おじさんは武士!
- 第2位|白郷学園OB会会長───顎と首が一体化したようなおじさんのシルエット
- 第1位|スペース編集長───マスコット系おじさん
リアルな生きている人間として、おじさんを描く
「これがキュンか!恐るべし少女漫画脳」の回で、キュンが描けないことを吐露した私だが、おじさんを描くのは少々、自信がある。
いま連載している『東京トイボクシーズ』(月刊『コミックバンチ』)はeスポーツを題材にした青春群像劇であり、高校生主人公の学園モノにもかかわらず、たくさんのおじさんが登場している。
1話目だけでもこのとおり。
ちなみに1話に10代の子はふたりしか登場しない。青春もののはずなのに……。
描いていると、今までの生い立ちやら性格やら、家族構成やら、家族における立ち位置やらがたちのぼってくるおじさんが描けることがある。私はそれを「会心のおじさん」と呼んでいる。
若いころはおじさんに対する解像度が低く、どこかで見た(それこそ漫画やドラマなどの創作物)ステレオタイプのおじさんしか描けなかった。どういう人かわからないまま「こういうこと言う人はこういうおじさん」という別のコンテンツで見聞きした方程式を、そのまま当てはめただけ。だから印象に残らないし、説得力も生まれない。
そんなふうに書割のようにしか描けなかったおじさんが、リアルな生きている人間として描けるようになった(気がする)理由は、自分がおばさ……成長したからに他ならない。当たり前だが自分も歳をとり、気づけば周りにはおじさん、おばさんといわれる年齢の友人・知人が増えた。自分がそういう立場になってはじめて、彼らの本音と建前が理解できるようになった。
子供ができて親の視点を獲得したし、子供が学校に通いはじめれば、いままで生徒視点でしか見てなかった学校が、保護者や先生の視点で見ることができるようになった。逆に10代の少年少女のリアルは遠くになってしまったとも言えるが、かつて通った道であることも確か。次は老人の視点を手に入れられるのかと思うと……不安もあるが楽しみでもある。
では今年、妹尾が描いた2021年会心のおじさんランキングベスト10を紹介する。
第10位|長岡専務───前髪は最後に残ったおじさんの良心
仕事熱心で、コミュニケーション能力も高く、一見理想の上司だけれど実は……というキャラクター。主人公・樹下勇司の上司。主人公を利用したあげく地方支社に飛ばす。
本心を隠している設定なので、髭や眼鏡、ほくろといったアクセントはつけない。その手のアイテムは、私のキャラクターデザインとしては、内面の吐露なのだ。ワンポイントは一部垂れている前髪。これが最後に彼に残った良心を表している。
第9位|生産部門責任者/営業部門担当者───おじさんの剃り込みは覚悟の表れ
本社の意向に反し、独断で行動するふたり。本社の意向に強く反発したのは、長年製品を愛し作り続けてきた、生産部門のおじさん。額の剃り込みはその覚悟の表れ。開かない目はここぞというときに開く。おじさんに説得され、今後の展開に怯えを抱き保身が頭にある営業の若者の心情は、いわゆる麻呂眉(公家眉ともいう)で表現してみた。
第8位|ファミレスの店長───視野の広さや、物事を俯瞰して見る能力を表現
主人公のひとり、神崎真代がバイト先の店長。新人として入った真代の高い能力を即戦力として評価している。子供のころからけっして要領のいいタイプではなく、友人グループの中でも影が薄い。特に信念も情熱もなさそうだが、人はいい。そんなキャラを目指した。魚のような離れがちな目で、視野の広さや、物事を俯瞰して見る能力を表している。
第7位|札幌支社支店長───仕立てのよさそうなスーツから滲み出せおじさん!
のんびりした職場に突然放り込まれた火の玉のような主人公を、たったひとつの発言でいなす、主人公・樹下勇司が左遷された先の支店長。左遷されてもなお強い向上心を露わにする、ギラギラした主人公とは対照的に、地方でのんびりと最後のキャリアを楽しんでいる。そんな彼の特徴は下がり眉と綿飴のような白髪。すっかり世俗の出世競争からは遠のいているが、そもそも持ち合わせている高い能力は、仕立てのよさそうなスーツに滲み出ているとうれしい。
第6位|酔っ払い───名もなきおじさんの髪型、シャツ、スーツ、ネクタイの細部
「お父さんの下着と一緒に洗濯しないで!」「その話もう何千回も聞いた」など定番の文句を言われてる。そんなおじさんには、これ以上伸びたら収拾の付かなくなりそうな髪型と、第一ボタンを開けたシャツ、安そうなスーツとネクタイを誂えてみた。なおこのおじさんに関しては、以前「ここに描くべきはヤンキーか野良犬か酔っ払いか?」でも取り上げた。
第5位|『NW!』編集長 磯貝時夫───おじさんの偏った髪の分け方、派手なシャツ
PV数を稼ぐためなら手段を問わないWeb系記事の編集長。
主人公側に波風を立ててくれる曲者キャラ。妹尾がもっとも得意とするタイプ。常に半笑の口元は、口がうまくやり手なイメージ。思想に一貫性がなく、全く正反対の記事を書くこともあり、そのことを思い悩んだりもしないタフなメンタルの持ち主で、一筋縄では太刀打ちできない雰囲気は、伸ばしっぱなしのクセのある髪型、偏った髪の分け方、派手なシャツで表現。唯一オープンにした額には、決して明かさない心の奥の方に、自分なりの矜持を持ち合わせている可能性を残した。作者自身もこのキャラがどう転がるか今のところわかっていない。
第4位|神崎真代の父───坊っちゃん風だがすぐ激昂するおじさん
一見人畜無害そうに見える真代の父親。基本的には博識でタワマンの上層階に住む高所得者であり、名門校出身のおぼっちゃまタイプ。しかしその外見とは裏腹に、自分の思い通りにならないことが起きると豹変する。その二面性は、眼力の強さや表情を変えることで表現しており、キャラ造形によっては「同じ人間に見えない」というリスクがある。
そのため、どんなに豹変しても「同じ人間に見える」ために何か特徴的なアイテムを付与する必要があった。ヘルメットのような重ための坊っちゃん刈りと、特徴的な丸メガネは、彼は同じ人間であるという必須アイテムなのだ。
実はこのキャラクタ造形には苦労した。ネーム→下絵→ペンの過程で何度も原稿を見直すが、どうもキャラクタの造形がしっくりこない。ちなみに修正案はこんな感じ。
やり手そうな雰囲気を出し過ぎると、既存のキャラとかぶってしまう。専門家色を出しすぎると、妻である真代の母との関係性が見えてこない。あっちを立てればこちらが立たず、苦労した。結果、一見おとなしげな坊っちゃん風だが怒りの沸点が低くすぐ激昂する性格の持ち主……という闇の深そうなキャラができあがったと自負している。
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