会心のおじさんが描けた!プロ漫画家が「おじさんキャラを生み出す」苦悩と技をベストテンで公開

2021.12.2


第3位|ウォルト・チャン───世界的大企業の創業者おじさんは武士!

『ようこそ!わたしの葬儀へ!』より(『RE-END 死から問うテクノロジーと社会』ビー・エヌ・エヌ収録作)
『ようこそ!わたしの葬儀へ!』より(『RE-END 死から問うテクノロジーと社会』ビー・エヌ・エヌ収録作)

故人でありながら自分の葬儀をVR上で執り行うという主人公。

財力とテクノロジーと行動力を併せ持つ、属性持つ盛り盛りのキャラクター。企業名は明かされていないがGAFAをイメージしていただくとよいだろう。実はそういう人物を以前描いたことがあった。かのスティーブ・ジョブズである。

『スティーブズ』(コルク)より、スティーブ・ジョブズ

『スティーブズ』(コルク)より、スティーブ・ジョブズ

その関連で玉突き事故のように、今もご活躍の巨人ビル・ゲイツまで描いてしまった。

『スティーブズ』(コルク)より、ビル・ゲイツ
『スティーブズ』(コルク)より、ビル・ゲイツ

世界的に有名なあの二大巨頭を好き勝手描いたのだからもう怖いものなどない。

『スティーブズ』<1巻>うめ/コルク

ウォルト・チャンのキャラクターデザインも含め、かなり楽しんで描けた。多くのセレブがそうであるように、きっと食事や運動にも気を使ってるに違いない。体型は崩れておらず、しかしまだまだ世界を驚かせてやろうという野心を燃やしている精力家。しかしそれだけだと印象的にならない。なにかアクセントが欲しい。名前から中国系アメリカ人だろうと思われる。そこで中国の武将を眺めているうちに思いついたのがお団子ヘア。

というわけで世界的大企業の創業者のひとりは、どことなく武士を思わせる、野性味あふれるキャラクターとなった。

『RE-END 死から問うテクノロジーと社会』ビー・エヌ・エヌ
『RE-END 死から問うテクノロジーと社会』ビー・エヌ・エヌ

第2位|白郷学園OB会会長───顎と首が一体化したようなおじさんのシルエット

『東京トイボクシーズ』第26話より
『東京トイボクシーズ』第26話より

主人公が通う、名門学園のOBであり現同窓会会長。関係者が起こした不祥事に対応するため開かれた会議で、強権を発動しているシーン。

有名私立校を出て、有名大学、有名企業と絵に描いたようなエリートコースを歩んできた彼の特徴は、でっぷりと太った体躯と、顎と首が一体化したようなシルエット。ここにいろんな情報が圧縮されている。取引先との会食や異業種交流会、政治資金パーティーなど、毎晩のように行われるあらゆる会合を積み重ねてきた結果だろう。会社の健康診断で高い数値を叩き出したに違いない。しかし家族や医者の忠告に聞く耳を持つことはなく、それゆえ定年後、家庭に居場所はない。OB会が彼の自己顕示欲を満たす唯一の居場所であり、張り切って参加している……と推測できる。

このシルエットは非常にデッサンが取りにくく、何度も下絵をやり直した。私の絵は線が硬く、よくいえばパキッとしているが、柔らかいものや、ふわっとした空気感を描くのが苦手だ。だからいつもふくよかな女性的なシルエットがうまく描けないで悩んでいる。そんな女性的なシルエットが求められていたため、非常に苦労した。26話の作画中、外を歩くたび、似たようなシルエットのおじさんについ目が吸い寄せられたのは秘密だ。

第1位|スペース編集長───マスコット系おじさん

『#締切まで10時間』10話目より
『#締切まで10時間』10話目より

締切10時間を切ったというのにネームもできていなかった漫画家が、いろいろあって脱稿まで持ち込んだ直後突如現れたなぞのおじさん。いろんな意味で浮いている。

これは先日「Kindleインディーズマンガ」で行われたプロ漫画家たちによるリレーマンガ企画で描いたおじさん。締切10時間を切ったのに原稿用紙が真っ白な漫画家が、原稿を完成させるまでの紆余曲折を10人の漫画家がリレーして描く企画である。ウチはそのアンカー。彼も最終回にして初登場というキャラクターである

『締め切りまで10時間 #10』Kindleインディーズマンガ/うめ

地球の人気漫画を転載し、宇宙規模で発行・発信する媒体を扱う業務に就いている。人気の高そうな日本の少女漫画を担当するだけの手腕を持ちながら、人の警戒心を解く人柄、コミカルな立ち振る舞いでその場を和ませるマスコット系おじさん。そのため等身を下げ、ぬいぐるみのようなシルエットを目指した。原作担当の小沢からは「おじさん描きたいでしょ?置いといたから」と完全お任せだった彼。それならばと心の赴くまま好きに描いた。特徴は頭頂部にかすかに残った前髪。これは1986年に公開されたアニメーション映画『時空の旅人』の登場人物アギノ・ジロ(キャラクターデザインはかの有名な漫画家・萩尾望都)をイメージした。

『時空の旅人』眉村卓/角川書店
『時空の旅人』眉村卓/角川書店

原作担当の小沢からシナリオを受け取ったとき、彼は別に浮いたりはしていなかった。「どこからどうやって部屋に入ったんだろう?」という疑問を持ちながらネームにとりかかった瞬間インスピレーションが湧いた。おじさんを宙に浮かせたとたん、さっきの疑問は抱く必要すらなくなった。だって宙に浮いてるんだよ?

宙に浮いてるわ、猫がじゃれついてるわ、前髪がアギノ・ジロだわ、Tシャツの自己主張が激しいわで、このおじさんが今年一番のお気に入り。できれば小さくしてポケットに入れて持ち歩きたい。

いかがだっただろうか。我ながらいろんなジャンルのおじさんを描き分けたものだ。実はランクインから泣く泣く外したおじさんもいる。実在の人物の似顔絵キャラも外した。かっこいいおじさんだったのに残念。


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