「ユーキャン新語・流行語大賞」が明日(12月1日)に決定する。決定にさきがけ、「新語・流行語大賞」の歴史を追ってきたライター・近藤正高が、11月4日に発表されたノミネート30語の背景を振り返り、今年のトップテンを勝手に予想する。
【関連】12月1日決定「新語・流行語大賞」ノミネート30語に物申す「なぜこの語が入らない?」
目次
大賞は「リアル二刀流」「ショータイム」か
2021年の「ユーキャン新語・流行語大賞」が明日、12月1日に発表される。ここでは、すでに発表されているノミネート30語からトップテン(大賞を含む)を予想してみたい。
大賞は、米メジャーリーグにおいて投打でめざましい成績を残した大谷翔平(ロサンゼルス・エンゼルス)を指す「リアル二刀流」「ショータイム」以外に考えられない。11月19日にアメリカン・リーグのMVPに満票で選出されたことも追い風になるはずだ。
新語・流行語大賞ではこれまでにも野球関連の言葉がいくつも受賞してきた。なかには「トリプルスリー」(2015年・年間大賞)や「神ってる」(2016年・同)のように、本当に流行ったのかどうか世間から疑問符のついたものもあったが、今回は文句のつけようがないだろう。
大谷に関して流行語大賞ではこれ以前にも、日本でプロデビューした2013年に「二刀流」がノミネートされたが、このときは受賞には至らなかった。今年改めて候補になった「リアル二刀流」は、同じ試合に投打両方で出場することを指す。大谷はメジャー移籍後4年目の今年、初めて公式戦に投打同時出場し、7月のオールスターゲームではメジャー史上初めて投打両方での先発出場も実現した。
言葉としても大谷の活躍により「二刀流」の語は、「アイドルとOLの二刀流」「ピアニストと医学生の二刀流」などといった具合にさまざまな場面で使われている。かつてなら「二足の草鞋を履く」という慣用句が使われるところだろうが、すっかりお株を奪った感がある。まあ、草履よりは刀のほうが攻めてるイメージがあり、印象がいいとはいえる。
大賞に選ばれた場合、授賞者は十中八九、大谷本人になるのだろうが、大穴で彼の通訳を務める水原一平さんの可能性も予想しておきたい。エンゼルスも公式ツイッターで水原氏を「最優秀通訳」として讃えている。

略してしまったことが、本質をわかりにくくしている「SDGs」
つづいてトップテン入りは固いと思われるのが、現在、メディアで何かにつけてPRされている「SDGs」である。
これはSustainable Development Goals(日本語では「持続可能な開発目標」と訳される)の略で、「誰一人取り残さない」をスローガンに、2030年に達成すべき17の国際目標を定めたものだ。目標のなかには、今回流行語大賞にノミネートされた「ジェンダー平等」も含まれるほか、「貧困の根絶」「再生可能なエネルギーの利用」「経済成長と働きがいのある雇用の確保」「気候変動への対策」など多岐にわたって変革が求められている。
目標の一つひとつには文句のつけようがなく、同意するしかない。ただ、天邪鬼の私には、今年になってにわかに大々的なキャンペーンが行われるようになったのが、どうも引っかかる。何しろ、SDGsが国連で世界193カ国によって採択されたのは2015年で、翌年に発効してからすでに5年が経つのだ。そこへ来ての現在の盛り上がりには、金儲けしたい人たちの思惑が働いているものと勘繰らずにはいられない。実際、企業のなかには、実態がないにもかかわらず、企業価値の向上などのためSDGsに取り組んでいるように見せかける「SDGsウォッシュ」と呼ばれる事例も指摘されている。このまま、企業がおいしいところだけ利用して、私たち一般の人間も関連商品を消費するだけで、きちんとした議論が行われないなら、単なる一過性の流行に終わってしまうような気がする。
そもそもSDGsとアルファベットで略してしまったことが、本質をわかりにくくしているように思う。マルクーゼというアメリカの哲学者は、いまから約60年前、現代に氾濫する略号について「望ましくない疑問を抑えつけるのに役立っていることがある」と指摘した。たとえば、NATOは北大西洋条約機構の略だが、略してしまうことで、「北大西洋と言うならば、どうしてギリシアやトルコがその一員となっているのかという疑問」が抑えつけられてしまうというのだ(『一次元的人間』河出書房新社)。これと同様のことがSDGsにも言えるのではないか。本来なら「持続可能」という言葉からして、いかに解釈するかで目標に向けての行動も変わってくるはずだが、それもアルファベット4文字に略すことであいまいになってしまう。
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