和田彩花が目指した“アイドル”という意味の拡張。その2年間の苦闘が生んだデビュー作『私的礼讃』

2021.11.24

文=森 樹 編集=森田真規


2019年にアンジュルムを卒業し、ソロ“アイドル”として活動しつづけてきた和田彩花の1stアルバム『私的礼讃』が2021年11月23日にリリースされた。 

“アイドル”という意味を拡張するために闘ってきた彼女の2年間を『クイック・ジャパン』に連載していたエッセイ「未来を始める」で振り返りつつ、『私的礼讃』というオルタナティブ・ポップス集に辿り着いた軌跡に迫る──。

【関連】和田彩花×ミキティー本物、アイドルの“多様性”って何?

“アイドル”の解釈の幅を広げるために

名は体を表すと言われるが、その肩書が持つ大きな可能性を信じつつも、現状の堅苦しさ・息苦しさには明確に疑問を呈する──そんなアンビバレンツな感情と向き合いつづける愛と抵抗の日々を、そのまま活動の中心に据えてきた人物がいる。

和田彩花、アイドルだ。

2019年6月、アンジュルムを卒業すると同時に、15年間在籍していたハロー!プロジェクトからも離れることとなった和田は、同年8月から、ソロ“アイドル”として活動を再開した。活動再開を機に『クイック・ジャパン』vol.146から連載がスタートした、ソロとしての在り方と、日々の徒然を綴ったエッセイ「未来を始める」にはこう記されている。

「卒業後の夢としては、アイドルと女の在り方の接点を探り、アイドルの解釈の幅を広げて行けたらいいなと思っていました」(「未来を始める」第1回より)

アーティストではなく、アイドルとしての立場から発信を行う。そのことで、グループ時代に、嫌というほど感じた「清楚で、無垢でなければならない」という固定概念からの脱却と飛躍を目指す。それが、和田彩花の第一の行動原理となった。

和田彩花
和田彩花

事実、大学院まで専攻してきた絵画・美術史を通して得た文化的視点、また、「『個人的なことが政治的なこと』というフェミニズム運動で掲げられてきたこの言葉がどこか私をほっとさせてくれる」(「未来を始める」第6回より)との考えに代表される、ジェンダー/フェミニズム的視点から導き出されるその言動は、一般的なアイドルのカテゴリーを超越する気概にあふれ、オリジナリティを伴ったものとなっている。

現在は、『ABEMA Prime』や『スッキリ』(日本テレビ)などニュース番組のコメンテーターとして、教育バラエティ『キャラダチミュージアム~MoCA~』(フジテレビ)ではキュレーターとしてもその考えを忌憚なく世間に伝えているが、中でも大切にしている表現方法のひとつに、音楽がある。

アンジュルムのみならず、ハロー!プロジェクト全体のリーダーを務めてきた和田の経歴からすれば、それを選び取ることはなんら不可思議なことではない。だが、彼女は演技やダンスに比べ、歌への強い苦手意識があることを告白している。

【和田彩花】Quick Japan撮影【OFF SHOT】

その上で、「なぜ、好きだと思う演技やダンスであれば簡単に手段として手放すことができるのに、今は歌について考える時間がそれなりにあるのだろうか。最も簡単にできないことだから諦められないのだろうか」(「未来を始める」第7回より)、「不思議なんです。モデルも演技も好きなのに、自分がもっとも関心を寄せ続けていない音楽という場所での自己表現を望んでいることが。けれど、モデルや演技の仕事では、自分は登場人物のひとつにしかなれない感覚があります」(「未来を始める」第11回より)──と、どうして音楽に惹かれるのかを、自らに問いつづけている。

なぜ和田彩花は歌うのか?

この記事の画像(全2枚)


関連記事

この記事が掲載されているカテゴリ

関連記事

30代以降も“現役アイドル”をつづけるには?年齢問題から「女性アイドルの妊娠・出産」を考える

和田彩花、ミキティー本物

和田彩花×ミキティー本物、アイドルの“多様性”って何?
「自分のために生きていい」「ゲイだからって諦めなくていい」

和田彩花

和田彩花は、観る者の心を映し出す鏡。怒りも葛藤も無邪気さも表現した『延期の延期の延期』

ツートライブ×アイロンヘッド

ツートライブ×アイロンヘッド「全力でぶつかりたいと思われる先輩に」変わらないファイトスタイルと先輩としての覚悟【よしもと漫才劇場10周年企画】

例えば炎×金魚番長

なにかとオーバーしがちな例えば炎×金魚番長が語る、尊敬とナメてる部分【よしもと漫才劇場10周年企画】

ミキ

ミキが見つけた一生かけて挑める芸「漫才だったら千鳥やかまいたちにも勝てる」【よしもと漫才劇場10周年企画】

よしもと芸人総勢50組が万博記念公園に集結!4時間半の『マンゲキ夏祭り2025』をレポート【よしもと漫才劇場10周年企画】

九条ジョー舞台『SIZUKO!QUEEN OF BOOGIE』稽古場日記

九条ジョー舞台『SIZUKO!QUEEN OF BOOGIE』稽古場日記「猛暑日のウルトラライトダウン」【前編】

九条ジョー舞台『SIZUKO!QUEEN OF BOOGIE』稽古場日記

九条ジョー舞台『SIZUKO! QUEEN OF BOOGIE』稽古場日記「小さい傘の喩えがなくなるまで」【後編】

「“瞳の中のセンター”でありたい」SKE48西井美桜が明かす“私の切り札”【『SKE48の大富豪はおわらない!』特別企画】

「悔しい気持ちはガソリン」「特徴的すぎるからこそ、個性」SKE48熊崎晴香&坂本真凛が語る“私の切り札”【『SKE48の大富豪はおわらない!』特別企画】

「優しい姫」と「童顔だけど中身は大人」のふたり。SKE48野村実代&原 優寧の“私の切り札”【『SKE48の大富豪はおわらない!』特別企画】

話題沸騰のにじさんじ発バーチャル・バンド「2時だとか」表紙解禁!『Quick Japan』60ページ徹底特集

TBSアナウンサー・田村真子の1stフォトエッセイ発売決定!「20代までの私の人生の記録」