フレデリック・ワイズマンが手掛けた映画『ボストン市庁舎』で体感する「透明人間の視線」

2021.11.18
『ボストン市庁舎』

まるで、透明人間の視線を体験するかのようだ。

すなわち、そこに──たしかにいるのに演出家もカメラクルーの気配も感じさせないドキュメンタリーのスタイル。しかも無機的ではなく、ほんのりとした肌触りもじんわりと。

フレデリック・ワイズマン。現在91歳。この偉大な作家が製作・監督・編集・録音を手掛けた『ボストン市庁舎』。ランニングタイムが4時間半と聞けば、たじろいでも仕方ない。けれども果てしなく「透明人間の視線」を体験できるのだ!

そして観ながらあなたはきっと、世界と自分との関係性をしこたま考えることになる。

※この記事は『クイック・ジャパン』vol.157に掲載のコラムを転載したものです。


解釈は自由

いままでワイズマンは50年以上にわたり、刑務所、学校、警察、病院、裁判所、それから軍隊、競馬場、図書館、議会などアメリカの様々な施設や組織を撮りつづけてきた。説明的なナレーション、テロップ、音楽、インタビューなどを極力排除して。

今回はずばり、マサチューセッツ州のボストン市町舎。ワイズマンにとって地元であるが、6つの都市にこの映画の企画を提出し、唯一、ゴーサインを出したのがボストンだった。繰り返すが『救急救命24時』『警察密着24時』的なけたたましい演出とは対極にある。

また、『ドキュメント72時間』とも違う。手持ちカメラはよく動き、ひとときも目が離せない。市庁舎はフル回転で、たいてい地味な案件だ。

しかし当人にとってはどれも重要で死活問題。駐車違反のトラブルや退役軍人の家に巣食うネズミの駆除……。

これらがちょっといい話に転化し、だからと言って盛り上げもせず、市役所での同性カップルの結婚の儀もごくごく平温だ(マサチューセッツ州では20004年、アメリカで初めて同性婚が合法化された)。

ボストン・レッドソックスの祝勝パレード(撮影が行われた2018年、ワールドシリーズで優勝!)は、ハレの場だが、てことはまだトランプ政権下の日常で、その弊害、しわ寄せが市庁にも押し寄せており、静かに怒りを表明するのがマーティ・ウォルシュ市長だ。

『ボストン市庁舎』
(C) 2020 Puritan Films, LLC – All Rights Reserved

1967年生まれの彼のルーツはアイルランド移民で、労働者階級出身。現在はなんとバイデン政権の労働長官である、この男を隠れ主人公として観ていけばよい。

さて本作は、なにを描いた映画なのか? 答えはむろん自由。解釈は、強制されない。が、少なくとも心になにかが灯るのは確実。おそらく「透明人間の視線」が写し出すものとは、ここ日本でも渇望されているもの──だと思う。

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Written by

轟 夕起夫

(とどろき・ゆきお)1963年東京都生まれ。映画評論家。近著(編著・執筆協力)に、『好き勝手 夏木陽介 スタアの時代』(講談社)、『伝説の映画美術監督たち×種田陽平』(スペースシャワーブックス)、『寅さん語録』(ぴあ)、『冒険監督 塚本晋也』(ぱる出版)など。読む映画館 todorokiyukio...

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