「わきまえやすい日本人」必見。映画『野球少女』(轟 夕起夫)

2021.3.8

今年になっていっそう可視化されているのが、世界的な潮流から外れ、逆行してゆく日本の現状。たとえば相も変わらぬ女性蔑視や性差別、すなわち「ジェンダーバイアス」の問題もそのひとつである。

そんな最中、このタイミングで公開されるのが韓国映画『野球少女』だ。タイムリーと言うべきか、プロ野球選手を目指して“壁”と闘う女子高生の物語で、主演を務めたのはイ・ジュヨン。本国では人気ドラマ『梨泰院クラス』で扮したトランスジェンダーの料理長役でブレイクし、今や国民的アクターの座に!

※この記事は『クイック・ジャパン』vol.154に掲載のコラムを転載したものです。

野球少女

“わきまえなさ”が理不尽を撃つ

さて。すべての野球シーンをスタントなしで彼女が体現した主人公のチュ・スインは、子供のころから“天才投手”と報じられてきた逸材なのであった。現在も最高球速134キロを誇り、高校卒業後はプロの道へ進むべく日々練習に励んでいる。のだが、“女性”というだけで正当な評価をされず、理不尽にもプロテストすら受けられそうにない。

しかしスインは、まったく「わきまえない」のだ。自分の希望に向かって、遮二無二身を投じる。

「いやあ、だって所詮、映画のなかでのお話でしょ」なんて冷笑的になるなかれ。​

1997​年に女性として初めて高校野球部に入り、韓国野球委員会主催の公式戦で先発登板を果たし、さらには1999​​年の大統領杯高校野球大会で(たったひとりだが)男の打者と対戦した実在の人物、アン・ヒャンミをモチーフとしているのだから。

完成した映画は、いくらでもスポ根物にできるところをそうはせず、しかもおちゃらけた描写も排除して、とっても真摯に作られている。おまけに、メッセージ色も出過ぎておらず、いい塩梅。

スインの高校へ新しく赴任してくるコーチ役、『神と共に』シリーズのイ・ジュニョクがいい。当初は厳しく「お前には実力がない」と言い放つも、やがてアドバイスする立場になる王道の助っ人キャラを好演。

もうひとり、スインと確執のドラマを展開する母親役のヨム・ヘランも見事だ。娘とは違って、家族のためにこれまで自分の夢や人生を諦めてきたことが、その疲れ切った容姿と一挙一動からにじみ出てくるのだ。

監督・脚本・編集は、本作で長編デビューしたチェ・ユンテ、男性。韓国は儒教に基づく男社会が根強いけれども『82年生まれ、キム・ジヨン』『はちどり』と、それを撃つような傑作が次々と発表されている(ヨム・ヘランは前者にも忘れがたい役で特別出演)。

取りも直さずこれら3作は、「わきまえやすい日本人」必見、だと思う。


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  • 野球少女

    映画『野球少女』

    © 2019 KOREAN FILM COUNCIL. ALL RIGHTS RESERVED

    3月5日(金)TOHOシネマズ 日比谷他全国ロードショー

    2019年/韓国/韓国語/105分/スコープ/カラー/5.1ch/英題:Baseball Girl /日本語字幕:根本理恵

    監督・脚本:チェ・ユンテ 
    出演:
    イ・ジュヨン  「梨泰院クラス」
    イ・ジュニョク  「秘密の森」
    ヨム・ヘラン  「椿の花咲く頃」
    ソン・ヨンギュ  「エクストリーム・ジョブ」

    配給:ロングライド

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  • QJ154 aiko

    『クイック・ジャパン』vol.154

    定価:1,300円(税別)
    サイズ:A5/192ページ
    発売日:2月26日(金)より順次

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轟 夕起夫

(とどろき・ゆきお)1963年東京都生まれ。映画評論家。近著(編著・執筆協力)に、『好き勝手 夏木陽介 スタアの時代』(講談社)、『伝説の映画美術監督たち×種田陽平』(スペースシャワーブックス)、『寅さん語録』(ぴあ)、『冒険監督 塚本晋也』(ぱる出版)など。読む映画館 todorokiyukio...

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