『イカゲーム』がNetflix史上最大ヒットとなった要因は?韓国のムード、デス・ゲーム類似作からの影響などから解説

2021.10.5


韓国独自のムードを残した“ゲーム”

一方、話は前後するが、第2話から主要な登場人物たちの人間性やプロフィールをきちんと掘り下げるのだが、21世紀に入って世界中で広がった“格差”をバックグラウンドにしているので、やたらとリアルに見えてくる。それは第92回アカデミー賞で、非英語作品として史上初めて作品賞に輝いたポン・ジュノ監督の映画『パラサイト 半地下の家族』とも共通するポイント。

パキスタンからの外国人労働者など、多様なバックグラウンドを持った人々がゲームに参加/Netflixシリーズ『イカゲーム』独占配信中

また、ゲームの参加者に女性が多いことからも、韓国エンタメが“世界基準”を取り込んでいると再認識。そんな中で鮮烈な印象を残す、脱北者の若い女性セビョク(本作を観ているとそうは思えないのだが実は身長が176cmもあるモデル出身のチョン・ホヨンが演じている)を通じ、朝鮮統一問題まで考えさせられる。

セビョク役に扮したチョン・ホヨンは本作で女優デビュー/Netflixシリーズ『イカゲーム』独占配信中

それらと同時にユニークなのは、“かつての韓国の子供たちの遊び(ゲーム)”を大きくフィーチャーしている点だ。SNS上では、あるエピソードで取り上げられる“型抜き”ってなんだ?と盛り上がっているが、日本でも大きめの縁日に行けばまだ見られるもの。しかし、日本のそれとは素材が異なるような韓国の“型抜き”をあえて取り上げることで、“バズり”を狙ったとしたのなら、それもまた秀逸。本作は海外のエンタメから多数の影響を受けながら、韓国独自のムードを積極的に残そうとしている(後述する)。

“型抜き”ゲームが描かれた第3話「傘をさした男」/Netflixシリーズ『イカゲーム』独占配信中

さて、あるエピソードでは『賭博破戒録カイジ』にあった“鉄骨渡り”を連想させるゲームも登場するが、参加者同士の熾烈な駆け引きを組み合わせた手つきは絶妙。これはあくまでも個人的な解釈だが、麻雀漫画の第一人者、福本伸行先生は、バブル経済が瓦解していった時代に『カイジ』シリーズで“ギャンブラー”の心理を究めようとしてそれに成功したのに対し、この『イカゲーム』は、もっと経済格差が広がった21世紀ならではの“究極のサバイバル”を描いたのではないか。

時代を超えた“デス・ゲーム”の名作に

このドラマシリーズで全話の監督・脚本を担当したのは、日本の映画ファンにもその名が知られるファン・ドンヒョク。とはいえ、ガチな社会派映画『トガニ 幼き瞳の告発』を手がけたと思えば、『サニー 永遠の仲間たち』のシム・ウンギョンを主演にロマンティックファンタジー『怪しい彼女』を放ち、やや方向性がわからない職人だった。しかし第1作『マイ・ファーザー』のあと、貧しくなって漫画喫茶で寝泊まりしたという。

そこで読んだ日本の各漫画に着想を得たとしても、恐らくは海外では少々奇異に見える。しかしルールが単純な韓国の子供たちの遊びを題材にすることで、世界的大ヒットを狙えると確信したのではないか。ちなみに『イカゲーム』、音楽を担当したのは映画『パラサイト 半地下の家族』のチョン・ジェイルで、不穏なムードのサウンドも効果が大きい。

謎の“デス・ゲーム”の裏にあるものとは/Netflixシリーズ『イカゲーム』独占配信中

1967年生まれの筆者が正直にいうとこの『イカゲーム』、これまでの世界の“デス・ゲーム”ものからいろいろと影響を受けたと感じる一方、それぞれを知らない若いドラマ好きはそれを気にせず、楽しんでほしいと願う。主人公は過去の成功体験に固執したから地獄を見るはめになるが、ここには時代を超えた、人が生きることの重みと希望の両方がある。


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Written by

池田 敏

(いけだ・さとし)海外ドラマ評論家・映画ライター。映画誌『月刊スクリーン』(近代映画社)などに寄稿し、WOWOWのアカデミー賞授賞式中継などテレビ番組の監修も。著書は、海外ドラマの初心者からマニアまで楽しめる『「今」こそ見るべき海外ドラマ』(星海社新書)など。

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