床に落ちたパイ
悲しいのは、ダンロップだ。
アンシリーズ3作目『アンの愛情』で、隣人ハリソンさんがアンの書く小説にアドバイスする。「それに悪党を書くなら、チャンスを与えてやる……人生をやり直すチャンスを与えてやるのさ」(『アンの愛情』L.M.モンゴメリ 著、松本侑子 訳/文藝春秋)
だが、アンは、それに納得がいかない。どうして悪人のキャラクターのほうが善人のキャラクターより人気があるのか理解ができなくてイライラするのだ。
『アンの愛情』に出てくるハリソンさんは、アヴォンリーに越してきた隣人だ。ハリソンさんが小説を「書き続けるんだよ」とアンにアドバイスしたように、ダンロップさんは小説を書くアンに万年筆をプレゼントしている。だが、ダンロップさんは、ハリソンさんのような隣人にはなれなかった。
悪党ダンロップには、チャンスが与えられなかった。
ダンロップは、アンの優しさや快活さに心惹かれ、アヴォンリーの村を好きになった。アヴォンリーの村に残って、生まれ変わろうと望んでいたのだ。
直感を研ぎ澄ましても、アンもマシューもマリラも、その心の変化を捉えることはできなかった。「あのふたりは悪党だ」という大きな判断に、繊細な気持ちの変化は(その小さなしるしもいくつもあったのに)気づくことはできなかった。
「帰りを待ってた。話を聞かせてくれ」と親しみをこめて言い「君のために作ったんだ」とパイを差し出すダンロップさんを、アンとマリラは拒絶する。バリー夫人が、アンとダイアナが話そうとするのを拒んだのと同じように。
ダンロップが作ったパイは、誰にも食べられることなく床に落ちた。
ダンロップの改心しようとする気持ちは成就せず、ネイトに銃を向けてしまうが反撃され、採掘の穴に落とされる。
結局、ダンロップだけが捕まってしまうのだ。
この後、ダンロップさんは登場しない。
ちょっと、罪をつぐなってアヴォンリーで暮らすダンロップさんも観てみたい気もする。
『アンという名の少女』
原題:Anne with an “E”
制作:2017年 カナダ
原作:L・M・モンゴメリ
製作総指揮:モイラ・ウォリー=ベケット
キャスト
アン・シャーリー(エイミーベス・マクナルティ)(上田真紗子)
マリラ・カスバート(ジェラルディン・ジェームズ)(一柳みる)
マシュー・カスバート(R・H・トムソン)(浦山迅)
ダイアナ・バリー(ダリラ・ベラ)(米倉希代子)
ギルバート・ブライス(ルーカス・ジェイド・ズマン)(金本涼輔)
レイチェル・リンド(コリーン・コスロ)(堀越真己)
ジェリー・ベイナード(エイメリック・ジェット・モンタズ)(霧生晃司)
Netflixシーズン1から3まで配信中
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