『呪術廻戦』13巻の絶妙な配分。連続する超インフレバトルの一方で「強さではない何か」が残る


直毘人&七海&真希<陀艮<漏瑚<<<<指15本の宿儺

陀艮が死んだ直後、現れたのは大地の特級呪霊・漏瑚(じょうご)だ。漏瑚は早い段階で登場していたものの、唯一まともに戦った相手が五条だったため、イマイチ強さが伝わってこなかった。しかし、漏瑚を見た直毘人の直感は「陀艮よりも格段に強い」。傷ついた直毘人と七海と真希は、一瞬で燃やされてしまう(この時点では生死不明)。

そんななか、夏油を慕う双子の姉妹・菜々子(ななこ)と美々子(みみこ)が、失神している虎杖悠仁(いたどり・ゆうじ)に、宿儺の指を取り込ませる。気配を感じ取った漏瑚が駆けつけてふたりを追い払い、宿儺復活のために持っていた指を10本ほど口の中に押し込んだ。本来だったら正気を保てる虎杖だったが、それは1本ずつだとしたら。急激に取り込んだことで、一時的に宿儺が虎杖の身体を乗っ取ることに成功する。

自身の失った身体を探す『どろろ』(手塚治虫)や『ドラゴンボール』(鳥山明)のように、ひとつずつ集めるかと思われた宿儺の指。今回で虎杖は計15本ほど取り込んだことになり、強さ的にも、指の数的にも予想外な超インフレ展開。おいおいそんなことしちゃっていいのかよ、が初読の感想だ。

指15本分の宿儺は、直毘人&七海&真希を圧倒した陀艮より格段に強いとされる漏瑚、を圧倒する強さだ。「頭が高いな」のひと言で漏瑚を跪かせ、簡単に頭の先を切断する。漏瑚が虎杖から身体を奪う作戦を提案しても、「必要ない」と宿儺は唯我独尊ぶりを発揮し、おまけに「俺に一撃でも入れられたら、お前らの下についてやる」とムチャクチャな要求をして、漏瑚は宿儺と戦うハメに。両腕を切断されたり、顎を外されたりとさんざんな目に遭う。

本当は作中でもかなり上位の強さのハズの漏瑚だが、これまでに戦った相手は五条に指15本の宿儺、いつもやられてばかりだ。超インフレの最大の被害者なところが、悪役ながら読者に愛される理由となっている。

『呪術廻戦』<13巻>芥見下々/集英社(107〜115話)
『呪術廻戦』<13巻>芥見下々/集英社(107〜115話)

強さではない何か

一方、恵は暴走する甚爾と対峙。目の前の男が実の父親だなんて知る由もない。先の戦いで知った実力差を埋めるために恵は、家入硝子(いえいり・しょうこ)に回復してもらう前提で命懸けの一撃に賭ける。だが、腹部を刺されながら放った一撃もあえなく避けられてしまう。

恵の術式や格闘センスを見たからか、暴走する甚爾に生前の記憶が蘇る。それは、幼くも才能ある恵を禪院家に売るという約束だった。呪力を持たない甚爾は禪院家でよい扱いを受けていなかったが、術式の使える恵ならば、禪院家でもやっていけると判断したからだった。意識を取り戻した甚爾は、恵に問いかける。

甚爾「オマエ名前は?」
恵「伏黒……」
甚爾「禪院じゃねぇのか。よかったな」

禪院家に売ったはずの恵の苗字は、(おそらく母方の)伏黒だった。「よかったな」という言葉は、禪院家に縛られずに生きる恵を思ってのこと。もしかしたら、亡くなった妻に対して
言ったのかもしれない。この世に未練のなくなった甚爾は、こめかみに呪具を刺し、自害する。

甚爾の希望として生かされた恵は、どちらかという弱者に分類されるだろう。しかし、最強に近い立ち位置の宿儺にも気に入られているようで、「渋谷の人間を皆殺しにしてやろう。ひとり(おそらく恵)を除いてな」というセリフまで飛び出している。

まだ才能を開花できていない未完の大器の恵。その扱いは『NARUTO』(岸本斉史)でいうところのうずまきナルト、『HUNTER×HUNTER』(冨樫義博)のゴンのようで、普通の人間らしく苦悩する姿は、虎杖よりも主人公らしい。

どれだけ強さのインフレが起きても、それほど強くない恵がやられることはなかった。「強さ以外の何か」の絶妙な残し方が、『呪術廻戦』をおもしろくしている。

『劇場版 呪術廻戦 0』解禁映像

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