『呪術廻戦』11巻 「渋谷事変」での封印は、虎杖のためのフリに過ぎない?「五条無双」急激な変調

呪術廻戦11サムネ

文=さわだ 編集=アライユキコ 


映画版の公開(今年冬の予定)を待ちながら『ジャンプ』大好きライター・さわだが『呪術廻戦』(集英社『週刊少年ジャンプ』連載)の既刊を1巻ずつ振り返っていく企画。今回は11巻、目まぐるしい戦況のなかで「五条無双」が急激に変調したのはなぜだ、解説します(以下考察は、11巻までのネタバレを含みます)。

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五条は一般人を殺す気だった?

渋谷事変の醍醐味のひとつは、目まぐるしく変わる戦況の変化だ。中でも五条悟(ごじょう・さとる)の封印は衝撃的で、これまでのストーリーのすべてがこの瞬間のフリだったとも言えるほど。ついに五条悟という聖域が侵されたのだ。

「人間のキショイ所1つ教えてやるよ いーっぱいいる所」

呪詛師(悪の呪術師)・呪霊軍団が戦いの場所を渋谷に選んだのは、人がいっぱいいるからだ。多少の犠牲を前提に戦う冷徹さを持った五条だが、さすがに自らの手で一般人を殺すわけにはいかない。大勢の人間に囲まれながら戦う五条は、力を発揮できなかった。

そんななか、戦場となった副都心線ホームに新たに1000体の改造人間が投入される。少年誌とは思えないほど大量の人間がバラバラに千切られていく。人質が減ると、天井の穴から人間を大量に補充され、また殺されていく。地下鉄を選んだのは、このためだった。

追い込まれた五条が選択したのは、領域展開「無量空処」。この技は、無制限の情報を一定範囲内の呪霊または人間すべてに送り込んで何もできなくさせてしまうというもの。当然、一般人がこんな技を浴びたら廃人待ったなしだ。そこで五条は、わずか0.2秒の超短時間の「無量空処」を展開したのだった。

0.2秒というのは、五条が勘で「これくらいなら普通の人も死なないだろう」と想定した時間。ミスだったとしても、渋谷中の人が死ぬよりミスして目の前の数百人が死んだほうがマシ、くらいに考えたのかもしれない。五条にとっても大きな賭けだ。

これがうまくハマり、人間は殺さず(といっても、食らった人間たちはその後2カ月社会復帰ができなかった)、動けなくなった改造人間1000体を殴り殺すことに成功する。呪霊たちが練りに練った作戦を感覚だけで圧倒。五条、もう強過ぎて手がつけられない。

五条無双から五条を救え!へ

そんな強過ぎる男を封印したのは、かつての盟友・夏油傑(げとう・すぐる)、いや、偽夏油だ。すでに発売されていた前日譚「0巻」に収録されているのだが、実は本編が始まった時点で夏油は、すでに五条に殺されていた。偽物であるとわかりながらも、五条は元盟友との青春の日々を思い返してしまう。その隙に偽夏油は特級呪物・獄門疆(ごくもんきょう)を使い五条を封印してしまう。

『呪術廻戦』<0巻>芥見下々/集英社
『呪術廻戦』<0巻>芥見下々/集英社

あれだけ強かった五条を、あっさりと封印。これまで“五条無双”だったストーリーが、この瞬間“五条を救え!”に変調する。さらに、夏油の中身が身体を乗っ取る能力の持ち主であることが発覚、さらにさらに「0巻」の主人公・乙骨憂太(おっこつ・ゆうた)の名前が登場。これらすべてがたったの1話に収録されており、展開は早いわ、情報量が多いわで、週刊連載時に混乱させられたのを覚えている。

五条封印を虎杖悠仁(いたどり・ゆうじ)に伝えたのは、前巻で死んだはずの究極メカ丸(アルティメットメカまる)だった。死ぬ前にメカ丸は、「五条が封印されたときのみ発動」という条件で、小型通信機として復活できる術をかけていたのだ。メカ丸のなんでもあり感は、もはや五条以上。あれだけ壮絶な死に様を見せつけておいて小型通信機になって再登場されたら、悲しいんだかうれしいんだかおもしろいんだかよくわからない。ただの感動で終わらせないのは、芥見下々の遊び心だろうか。あるいは素直に感動させることに気恥ずかしさを覚えるタイプなのかもしれない。

五条の封印は、主人公虎杖のためのフリ

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