ショボいポップス?DIY歌謡曲?これを読めばすべてが分かる“tiny pop”入門

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2020.1.27

CD『tiny pop - here’s that tiny days』

文=天野龍太郎 編集=森田真規
トップ画像=V.A.『tiny pop – here’s that tiny days』


2020年1月8日にリリースされたコンピレーションCD『tiny pop – here’s that tiny days』。“tiny pop”という新しい潮流を紹介したこのCDが、耳の早い音楽ファンの間で密かに話題になっている。
“ネット世代のDIY歌謡曲”と称され、ラジオ番組で特集が組まれたり、音楽サイトで紹介記事が出ていたりするものの、なかなかその全貌がつかめない“tiny pop”。ここではその呼称の提案者である音楽ライターの天野龍太郎氏に、「“tiny pop”を知るための3曲」と共にそのシーンを解説してもらった。

新しいポップスのかたち“tiny pop”を知るための3曲

“tiny pop”とは何か。わかりやすくまとめてしまうなら、「インターネット上で発表され続けているささやかな宅録ポップス」のことだとひとまず言っていい。

提唱者にして、このたびリリースされたコンピレーション『tiny pop – here’s that tiny days』の監修者であるアルトサックス奏者/トラックメイカー/作曲家のhikaru yamadaは、これを「ショボいポップス」と呼んでいた(その後、2018年に私が“tiny pop”という呼称を提案)。「ショボさ」とは宅録であることに起因するローファイさや拙さ、未完成感、非商業性のことであり、「ポップス」とは、そうであるにも関わらず、商業主義的で工業的なポップソングの形式に収まってしまっている、ということ。これがtiny popの抱える矛盾であり、魅力である。

という前提を共有したうえで、次の「新しいポップスのかたち“tiny pop”を知るための3曲」を聴いていただければと思う。


mukuchi「ユー・ドント」(2016年)

まず、mukuchiが2016年末に発表した「ユー・ドント」。mukuchiは漁村在住の宅録作家、西海マリによるソロ/プロジェクトで、yamadaとfeather shuttles foreverとしても活動している。

この曲は、yamada曰く「ショボポップ界のベストソング」で、私も初めて聴いたときに大変な衝撃を受けた。語り口調そのままに近いイントネーションと譜割りの歌唱が、曲の聴感をぐいぐいとアクセラレイト(加速)する。「お前たちには見えないが」「お前たちには分からないよ」といった否定を無感情に連ねる歌詞の面でも、mukuchi最良の1曲だと言いたい。

yamadaはtiny popの特徴のひとつを「離人症」と呼ぶ。これはつまり、作家本人と歌や曲そのものが切り離されているという意味で、自己表現、もっと言えば自己実現から遠く隔たった音楽、ということ。それゆえ、他の者が別様にアレンジして歌ったとしても楽曲の作品性はそのまま残る、という予想が成り立つ(また、これは「記名性」や「シグネチャー」とも異なるだろう)。tiny popが「ポップス」である理由はこういったところにある。その意味で、「ユー・ドント」は個人が立ち現れてきそうでしっかりとした像が結ばれない、という絶妙な塩梅の表現として成り立っている。


ゆめであいましょう「見えるわ」(2019年)

おだやかにひそやかに」という名曲を生んだ、宮嶋隆輔を中心とする5人組のバンド、ゆめであいましょう。去る2019年12月に配信リリースされた『tiny pop – the tiny side of life』およびCD『tiny pop – here’s that tiny days』に、mukuchiと共に参加している。

彼らの音楽を聴いて思い浮かべるのは、サイケデリックフォーク、ニューミュージック、70年代や80年代のアイドル歌謡など。宮嶋は“ポプコン”ことヤマハポピュラーソングコンテストに出演するのが目標だと語っているそうで(「TINY POPというあらたな可能性」hikaru yamada)、現在性と現代性から完全に切り離されている(が、ヴェイパーウェイヴからの影響もあるということで、必ずしもそうとは言い切れない)。それがゆえに、「タイムレス」と形容したい美しさが彼らの音楽にはあるのだろう。

yamadaによるtiny popの特徴づけにもうひとつ、「構造の把握」というのがある。これは、ポップソングの楽曲構造を自覚的に作品に取り込んでいる、ということ(yamadaはさらに、シティポップリバイバルによって形骸化されたポップスを取り戻す、という意味づけも行っている)。ゆめであいましょうはポップスの構造の把握という点において、とりわけ優れているバンドだろう。

『tiny pop – here’s that tiny days』に収録されている「誰もが誰かに」には、この「見えるわ」を超える力強さがある。ぜひCDを手に入れてほしい。