『呪術廻戦』6巻 黒閃の設定秀逸!シュール過ぎる七海建人インタビューが芥見下々らしくてイイ(ゆっくり休養してください)



黒閃は「サイヤ人は死の淵から這い上がるたびに強くなる」みたい

黒閃の設定は、作中でも秀逸だと思う。黒閃とは、打撃と呪力が対象に衝突する時間の誤差が0.000001秒以内のときに、空間が歪んで呪力が黒く光る現象のこと。つまり、呪力というエネルギーをものすごくスムーズにパンチやキックに乗っけることができれば、会心の一撃、クリティカルヒットになるという解釈でいい(と思う)。会心の一撃なので、当然狙って確実に出せる呪術師はいない。最強である五条悟でも同じだ。

「黒閃を経て呪力という食材の“味”を理解した今、呪術師として3秒前の自分とは別次元に立っている」

黒閃に成功すると、呪力への理解度が深まる。さらに使用後は、アスリートでいうところのゾーンに入るらしい。1発決めれば2発目も比較的成功しやくなるため、修行だけでなく、バフ(その場限りの能力強化)にもなるのだ。なので主人公を成長させるための設定としては、作者にとって非常に都合のよいモノといえるだろう。長い修行編を描かなくても、バトル中に格段にパワーアップしてしまうのだから。「サイヤ人は死の淵から這い上がるたびに強くなる」みたいだ。

しかし、ご都合主義とも言い切れない。スポーツでもゲームでも仕事でも、ゾーンとまで言わなくても、「なんだか今日は調子いいぞ」という感覚は誰もが経験したことがあるのではないだろうか。そしてその成功体験からくる自信と慣れが次に生かされる。現実世界にも通じる成長の理屈が黒閃には詰まっているのだ。

「人の成長曲線は階段型だ」みたいな言葉はよく聞くが、黒閃は一段がでっかい階段なのだ。だから現実世界にない呪力がテーマなのに、こんなにもしっくりくる。めちゃくちゃ都合がいいけど、めちゃくちゃ理にかなっている

ちなみに黒閃に成功して呪術師として格を上げた虎杖は、東堂の中でも「マイフレンド」から「超ブラザー」に格上げされている。

『呪術廻戦』<6巻>芥見下々/集英社(44〜52話)
『呪術廻戦』<6巻>芥見下々/集英社(44〜52話)

よく考えたら意味がわからない七海建人のインタビューシーン

作者も気に入ってるのか、黒閃の演出には力が入っているように感じる。絵のカッコよさはもちろん、虎杖が集中し過ぎてヨダレを垂らすなど、目に止まりやすい描写が多い。その中でも、七海建人(ななみ・けんと)へのインタビューはかなり芥見下々のよさが出ている。

黒閃を決めた虎杖と、自分や相手など呪力を持つ対象物の位置を入れ替える能力「不義遊戯(ブギウギ)」を使う東堂は、格上である花御を撹乱し攻勢に出る。そんな中、突如差し込まれるのが、七海建人のインタビューシーンだ。

バトル中のインタビューというと、『バキ』の花山薫vsスペックのタクシー運転手が思い浮かぶ。タクシーの運転手が花山の戦いぶりを警察の事情聴取という名目で振り返ることで、その化け物っぷりが際立った名シーンだ。しかし、「黒閃連続発生記録保持者」と仰々しい肩書きで語る七海のインタビューは、名目も目的もよくわからない。

そもそも呪霊とのバトルに審判や観客なんていないし、黒閃連続発生記録なんてものはあくまで自己申告の参考記録でしかないはずだ。なのに黒閃連続発生記録保持者の名の下に七海は、コーヒー片手に脚を組み、『情熱大陸』のようなドヤ顔を見せる。しかも、インタビューをしているのは、ただの後輩である猪野琢真(いの・たくま)だ。よくよく考えると全部意味がわからない。ただの誰かの空想で、インタビューなんて存在しなかったのかもしれない。

理屈っぽさとハッタリ演出のバランス

このチグハグ感、芥見下々からしたらあえてなのだろう。存在意義のわからない形ばかりのインタビューが、唐突過ぎて逆にオシャレに見えてしまう不思議。「私の記録ですか? 4回 運が良かっただけですよ」とドヤ感絶頂の締めゼリフが、その後の虎杖の4連続黒閃の偉業っぷりを際立てる。ものすごい強い主人公・虎杖ではなく、ノリに乗ってる虎杖だと明確に伝わる。

整合性や理屈を度外視したインパクト重視の演出。ちなみに、黒閃の威力は「2.5乗」。『ドラゴンボール』の界王拳○○倍や、『幽遊白書』の戸愚呂弟の○○%などは想像しやすいが、乗の場合は元の数値がわからないので、「何やらすごそうだ」というだけでピンとこない。なのに、ストレートに2乗ではなく、0.5乗を足している部分が妙なリアリティを生んでいたりする。

この理屈っぽさとハッタリの融合こそが『呪術廻戦』の魅力だ。「よくわかんねーけど、作者もわかってないみたいだしスルーしちゃえ」という気軽さを与えてくれる。実にマンガらしい。


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