「意味のあることを言わない」ことが正解であってたまるか
帝都大百周年記念イベントのゲストスピーカー浜田剛志(岡部たかし)がネットで炎上。韓国アイドルが、たまたま浜田の著作『見下される日本』のポスターの前で撮った写真が原因だ。「国の税金を使ってるわけでしょ」というトンチンカンな苦情が殺到。「炎上ぐらいでゲストを排除しては言論の自由が守れない」と正論を叫ぶ室田教授(高橋和也)と「正論ダメ絶対!」が信条の石田課長(渡辺いっけい)が大議論。一方、三芳総長(松重豊)は「難しいことですから、みなさんで決めていただければ」と丸投げし、事なかれ主義の理事の須田(國村隼)たちは「中止でしょ」「ですよねぇ」と議論も検討もなしで即決。
ところが、浜田剛志が外国特派員協会の記者会見で大学を批判。帝都大の立場を説明するために三芳総長(松重豊)も会見に呼ばれることになってしまう。
使命感に燃えた神崎真は、熱意たっぷりに想定問答集を作成するが、何を聞かれても「大学の責務は学生の安全を確保すること」しか答えない、まったく中身がないものだった。
これでは「世界中にバカだと思われる」と指摘される。確かに中身がない、バカだと思われるだろうと、神崎真は認め、「それこそが大きな狙いだ」と言う。
中身がないということは記事として大きく取り上げようがなく、大して騒がれずしれーっと終われる。
「意味のあることを言わない」それが最大のリスクマネージメントだと、自分の意見を言ってこなかった神崎真は初めて自分の主張を熱弁するのだった。
めちゃくちゃだ。インチキだ。だが、これが通ってしまう。理事から絶賛されてしまう。
外国特派員協会の記者会見で、三芳総長は、何を聞かれても「大学の責務は学生の安全を確保すること」を繰り返し、呆れられるが、最後の質問で予想外の逆転劇が起きる。
権力と忖度のシステムに踊らされる愚かな人々を戯画化して描いたブラックなコメディ、さすが!
めちゃくちゃおもしろい!とドラマを観た興奮冷めやらぬ翌々日に、日本国の首相が「国民の命と健康を守っていく」だけを繰り返し読み上げるという珍事が起こって「おもしろい?」とゾッとするのだった。しかも、現実世界では逆転劇は起こらず、首相は「善人の沈黙」を貫いてしまう。
松坂桃李、岩井勇気ら完璧キャスティング
第1話、第2話は、スター教授の論文不正の内部告発をいかに隠蔽するかのてんやわんやを描いた。ここでも、権力、保身、隠蔽、忖度が描かれる。強引な言葉の拡大解釈で事実を捻じ曲げるエピソードも、つい最近あったアレだ!と、各話、いろんなところが現実と符号してしまう。
何よりすごいのは、勧善懲悪ではなく登場人物全員が愚かであること。権力と戦う側とて善たり得ない。誰もが愚かでありながら、愛おしくも思えてくる。善意に頼ったシステムに翻弄されて我々愚者たちが大騒ぎする。
キャスティングも見事で、主人公を演じる松坂桃李はもちろん、「落合陽一み」がバッチリ決まっている三木谷准教授をハライチの岩井勇気、内部告発した非正規の研究員木嶋みのりを鈴木杏、変人教授澤田を池田成志(沢田研二の「TOKIO」を熱唱)、さらに理事会のメンバーが、國村隼、岩松了、古舘寛治、温水洋一、斉木しげる、坂西良太、松重豊という完璧な布陣(この理事会パートを舞台でやってほしい)。脚本は『ワンダーウォール』『カーネーション』(共にNHK)の渡辺あや。
第2話放送後、大学の偉い人がこのドラマを観て「世の中には茶化していいものとわるいものがある。天下のNHKが大学の権力を茶化すことは許さん」などと怒りまくって「そういった考え方こそが風刺されてるのでは?」と周囲をあきれさせたという都市伝説も流れてきた。
5月22日夜9時、第4話。いよいよ後半戦である。ここから観ても大丈夫だろうし、「まだ間にあう!第1〜3回ダイジェスト」がNHKプラスで視聴可能。大学の偉い人や政治家だけじゃなく、なんらかの立場にある人は、必ず観ること。ぜがひでも観てほしい。観るべきだ。観て、みんなで愕然としよう。
「ほんと権力持ってる人って、見下してる人間に対して想像力がないよね」。
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『今ここにある危機とぼくの好感度について』
出演:松坂桃李、鈴木杏、渡辺いっけい、高橋和也、池田成志 ほか
語り:伊武雅刀
脚本:渡辺あや
音楽:清水靖晃
制作統括:勝田夏子、訓覇圭
演出:柴田岳志、堀切園健太郎
写真提供/NHK関連リンク
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