『呪術廻戦』4巻 序盤最大の悲しみ、順平「グニィ」の衝撃を考える


ページをめくったらいきなり「グニィ」

「グニィ」の何が衝撃的なのか。ひとつは描写の省略だ。

マンガで人が死ぬには、助走が必要である。刀を使用した場合なら、「構える(振りかぶる)→切る→首が飛ぶ」といった具合だ。画やストーリーに緩急をつけるためにこれらのひとつをあえて省略するみたいな方法があるが、「グニィ」の場合は省略の量がすごい。

まず、真人の「無為転変」はただ対象に触れれば発動できるため、「構える(振りかぶる)」と「切る」がない。順平を諭すために肩を組んでいるだけだと思ったのに、ページをめくったらいきなり「グニィ」だ。読者に構える隙を与えない。

『呪術廻戦』<4巻>芥見下々/集英社(26〜34話)
『呪術廻戦』<4巻>芥見下々/集英社(26〜34話)

容赦ない芥見下々

スライムのように「グニィ」っと伸びる頭と、もはや人ではない順平の表情にはインパクトがある。しかし、これは一般的な死の描写ではないし、首が飛んだり胴体が真っぷたつになったりするほどわかりやすく死んでいない。そもそも厳密にはこの瞬間に順平は死んだわけではないのだが、このたったひとつの画には、順平の終わりをハッキリと告げる力があった。

それは、真人が添えた「だから 死ぬんだよ」」という言葉の説得力と、作者、芥見下々の作風だ。

真人は作中でも指折りのエンジョイクレイジー野郎で、人の死をなんとも思っていない。過去にも真人によって作られた改造人間は登場しているが、彼らはもれなく死んでいた。つまり、真人が死を宣告したのだから、それは本当に死を意味するということだ。

「あと10分もすればこいつは死んでしまうぜ? さてどうする?」みたいな、人質にしてギリギリのスリルを楽しむバトル展開は期待できないのだ。

そして芥見下々の容赦のない作風は、都合のよい呪術で順平が生き返る展開なんか作ってくれそうもない。順平を「グニィ」ってしたのが真人と芥見下々だから、順平は死ぬと嫌でも飲み込んでしまうのだ。

あっさりとした死だからこその悲しみ

ストーリーの文脈としても「グニィ」は突然だった。じっくりと育てた順平というキャラクターを、芥見下々はバトルの前半部分で簡単に使い切った。最後の最後に殺せば盛り上がりそうなのに、感情移入度の高い順平をあっさりと死なせた。順平本人も気づかぬ間に殺されているため、読者を泣かせる死ぬ間際の追憶シーンなんかもない。

あっさりしているのに、いや、あっさりしているがために、死の悲しみが伝わる。「この世界では死なんてそんなものだよ」そう言われている気分になる。

そもそも順平は、虎杖に説得されていたとはいえ、真人を裏切ったわけではなかった。真人にとって順平は、まだまだ利用価値があったように思う。それこそ人質のように扱えば虎杖の動きを食い止めることはできはずだし、あの場ですぐに殺す必要なんてなかった。だが、真人は順平を殺すことを選んだ。

「熟慮は時に短慮以上の愚行を招くものさ」

真人は、順平と肩を組みながら師匠が弟子に何かを教えるように語りかけた。

「順平って君が馬鹿にしている人間の その次位には馬鹿だから」
「だから 死ぬんだよ」

最後に自分が敵であることを告げて、順平の命を絶っている。おそらく真人が見たかったのは、虎杖の絶望だろう。人間を人間と思わないエンジョイクレイジー野郎の真人にとっては、当たり前の行動だったのかもしれない。しかし、真人にとっての当たり前の判断が、読者が構えるタイミングと違い過ぎた。

タイミングも、殺し方も、画も、殺す意図も、すべてが少しずつ読者の持つ常識とズレていた。だから順平の「グニィ」はこんなにも悲しいのだと思う。

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