“地下芸人”は“地下ライブ”で奇跡を起こす(ランジャタイ国崎)


☆はじめての地下ライブ☆

はじめにエントリーしたライブは、「キングオブフリー」というライブで、優勝者は、なんと賞金10万円がもらえるという内容だった。

「優勝したら10万円がもらえるの?!」

相方がもってきたエントリー用紙に名前を記入して、「がはは」と笑った。

お金がない芸人にとって、こんなオイシイ話はない。お天道様はよく見てくれていた。

絶対に10万円もらって、笑って過ごしたい。

そして、当日。

会場入り口で、エントリー料として5000円かかることが判明した。

「ごっ、ごせっ?!」

ギョッとしてよく見ると、エントリー用紙に〔エントリー料5000円〕と書いてあるではないか。

『はい、5000円だよ』

受付のおばちゃんが、はやくよこせと言わんばかりに、手を前に出してくる。

泣く泣く財布から、くしゃくしゃのお札を二枚、500円玉を一枚取り出し、おばちゃんに支払う。

ランジャタイ(コンビ名)

−5000円。

お笑いライブに出るのに、お金を払わないといけないことを、その時はじめて知った。

会場に入って、5000円のことをボーっと考えているあいだに、自分たちの出番がきて、あわてて舞台に飛び出した。

客席には、5〜6人。

初舞台だったが、

そんなことより5000円がすぐパーになったことで頭が一杯になった。

さらにはネタもスベった。

やんなっちゃう!と思った。

「ありがとうございました〜」

5000円払って、列に並んで、舞台でスベり、戻ってきた。

インチキテーマパークのアトラクションみたいだった。

舞台から降りると、次の出番のピン芸人とすれ違った。

その人はまさに、インチキテーマパークの風貌をしていた。

色白で、手には謎の「水槽」を抱きかかえている。

よく見ると、その水槽の中に、プカプカ浸かっている「脳みそ」が浮いている、、。

なんだこいつ、、??!

舞台に出ると、彼は

「こんばんは!『脳みそ夫』でーす!!」

と言った。

すると、水槽の中にある「脳みそ」が

『コンバンハ〜!!』

と、喋った。

衝撃だった。

とんでもない奴らがエントリーしてきた。

色白の男と、水槽に入っている脳みそ。

そんな奴らが、

10万円欲しさにエントリーしてきたのだ。

「いやー脳さんねー」

『なんだよテメェ』

「落ち着いてよ、脳さん」

『うるせぇなああ!!』

そのまま彼は水槽の脳みそと、言い合いになって、ケンカをしていた。

結果、、、。

彼らは、そのまま勝ち抜き、優勝した。

優勝したのだ。

脳みそとケンカして、10万円もらっていた。

ライブのエンディング、

水槽の脳みそが、『ヤッター!』と言っていた。

なんだこのライブと、笑ってしまった。

ライブが終わると脳みそ夫は、

楽屋の奥にあるキッチンの流台に

脳みそが入っている水槽の中の水を、無表情で捨てていた。

「ジャーーー」

さっきまで10万円をもらって、

喜んでいた男とは思えない顔をしていた。

「ジャーーー」

なぜだかずっとそれに、目が釘付けになった。

「ジャーー、ジャーー、」

まったくの無表情で、

「ジャー、ジャーーー、」

「脳みそ」が入っている水槽の水を、捨てていく。

「ジャー、、」

なんて顔だろう。。

これがさっき優勝した男の顔か、、、!?

「ジャー、、、、チャッ、チャッ!」

無の表情で、残りの水槽の水を、チャッ、チャッ、と切っていく。

「チャッ!、、チャッ!!チャッ!!」

彼は、先ほど優勝して、歓喜していたのだ。

脳みそも、『ヤッター!』と言っていたのだ。

「ピチョン、、ピチョン、、」

水がなくなって、水槽の中の脳みそが剥き出しになる。

当たり前だけど、さっきまであんなにハキハキ喋っていた「脳みそ」が、あんなに無言になっている。

なんだこれ。

それが何やらおっかしくて、

変な感覚、胡散臭い香りがしてきた。

それが、はじめての地下ライブ、

そして脳みそ夫さんとの出会いだった。

☆幻の地下ライブ「あじわいライブ」☆

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