「ヒプマイはヒップホップか否か」問題を音楽面から徹底分析

2020.1.26

「戦っているメンツ」が作る音楽

もう1点、重要なのはヒプマイをバックアップしているのが、「ヒップホップにおいて最前線のメンツ」ということだろう。最初期リリースの各ディビジョンEPの段階で、『フリースタイルダンジョン』(テレビ朝日)でもお馴染みのサイプレス上野、プロデューサーとしてRHYMESTERなどを手がけるALI-KICK、HOMEMADE家族のKURO、数々の日本語ラップ作品に携わるCHIVA from BUZZER BEATS for D.O.C、そしてベテランとしてUZIがヨコハマ・デジビジョンのEPに、シンジュク・ディビジョンにはMCバトル「KING OF KINGS」2連覇を果たしたGADOROと、ヒップホップバンド:AFRO PARKERが参加していた。

その後の3枚のEPで構成されたバトル・シリーズでも、前述のKEN THE 390や、トラックメイカーのist、梅田サイファー/高槻POSSEで活動するpeko、「WAR WAR WAR」には映画『TOKYO TRIBE』(この世界観がヒプマイの世界観作りに与えた影響は非常に大きいだろう)でもラップ指導を行ったEGOをはじめ、ラッパーのTENZAN、そしてトラックメイカーとしてYuto.comとKiwyが参加。ベテラン勢からはラッパ我リヤやDJ BAKUが参加していた。

ほかにも、DOTAMAなどにトラック提供しているRhymeTubeや、ヒップホップとも親和性の高い三浦康嗣(□□□)の参加など、いわゆる「ラップも制作できる裏方」ではなく、音楽/ヒップホップ/ラップ・シーンのなかで現役で戦っているメンツが顔を揃えていたことも、このプロジェクトの大きな特徴であり、その部分も、作品のリアリティを担保する材料になっていただろう。

麻天狼『The Champion』
麻天狼『The Champion』

その極めつけが、Zeebraが作詞、理貴が作曲を手がけた、麻天狼『The Champion』のリリース。説明不要の日本語ラップのレジェンドと、現在の最先端のビートを生み出している俊英とは、ヒップホップ・シーンにとっても垂涎の組み合わせ。

そのタッグを1stシーズンの決着に持ってくるのは、制作という部分においても、大団円と言えるだろう。この後にリリースされるアルバムにおいても、餓鬼レンジャーのポチョムキンや、SANABAGUN.の登板がアナウンスされている。

声優人気/キャラ人気だけで考えるならば、ここまで豪華な人選は必要ないだろうし、より声優やアニメカルチャー寄りのシフトを敷くほうがセオリーであるだろう。しかし、そこをあえて「ごりごりのヒップホップ/ラップ勢」を起用することで、ヒップホップ/ラップとしての強度を高め、刺激物であることを押し出すことで、逆にヒップホップに対してそこまで理解度の高くなかったリスナーたちを取り込むことに成功したと同時に、作品としての構築性をより高めたヒプノシスマイク。

声優やキャラクター・カルチャーと、日本語ラップという、どちらも「ガラパゴス」でしか成し得なかった独自性の幸せな接続は、この後どのような広がりを見せていくのか、非常に楽しみでならない。

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