『呪術廻戦』映画を待ちながら1巻から読み直す「第1話から傑作」感がないのが逆にすごい


2話のほうが1話っぽい

『呪術廻戦』<1巻>芥見下々/集英社
『呪術廻戦』<1巻>芥見下々/集英社(1〜7話)

打って変わって2話からが1話っぽい。両面宿儺(呪いの王)に肉体を乗っ取られた虎杖は、作中最強キャラ五条悟に「秘匿死刑」を言い渡される。しかし、宿儺を取り込む耐性を持つことがわかって、いったん生かされることが決定。ここで初めて、呪術と呪いの関係をキッチリと説明される。虎杖の呪いとの向き合い方も整理され、超人的な身体能力を持つ理由もほのめかされたかたちだ。当たり前だが、1話を読んだからおもしろい2話だ。

そして3話の頭で、「東京都立呪術高等専門学校」に転入する。ここらへんだろうか、展開にスピードが出て、新キャラの説明がわかりやすくなり、「このマンガおもしろいんじゃね?」感が出てきたのは。ヒロイン(かどうかは不明)の釘崎野薔薇も登場し、どんなストーリーなのかが明確になってくる。

みんな大好き釘崎野薔薇登場

「東京と地方じゃ呪いのレベルが違う」

五条悟のこのセリフが好きだ。人の心から生まれる呪いは、人口が密集する都会のほうが強くなるということらしい。言ってしまえば、人口が多い県のほうが甲子園とかも強くなりがちっていうのと同じ理屈だ。これが上京したばかりの田舎コンプレックス(と言い切っていいほど簡単な話ではないが)を持つ野薔薇にバシっとハマる。

野薔薇は、自分で「紅一点」と言い切ってしまうほどルックスと呪術に自信を持っている。モデルとしてスカウトされると思い込んでいるため、スカウトマンに自分から話しかけてしまうほどの自由人でもある。だが、「スカウトされない」という意味では、東京の壁の高さに阻まれてしまっているといえるだろう。もっとも、野薔薇自身は自覚していないが。

地方で呪術師としての経験のある野薔薇が、呪いを祓う試験に挑む。楽勝の雰囲気プンプンで、実際、野薔薇の実力が呪いを凌ぐ。
しかし、ここで差し込まれるのが五条の「東京と地方じゃ呪いのレベルが違う」だ。

一度は追い詰めるも、都会ならではの狡猾さを持つ呪いは、子供を人質に取る。見過ごすことができない野薔薇は、死を覚悟する。結果的に虎杖に救われるのだが、またしても憧れの東京(の呪い)に阻まれたかたちになった。悔しいことに、嫌悪する地元から、まだ抜け出せるレベルではないのだ。

呪術高専に来た理由を「田舎が嫌で東京に住みたかったから!」とバカみたいに断言する野薔薇の明確な課題と、乗り越えるべき過去が明らかになる。五条には「イカれてる」と表現されながら、しっかりと人間性も描かれる。

試験の直後、虎杖、伏黒、野薔薇の3人は初めての任務に挑む。たったの2話で、規格外の「特級呪霊」と対峙する。一瞬、何かを見逃してしまったんじゃないか?と不安になるほどの展開の速さだ、グイグイ物語が進む。

こうして読み返すと、物語を一気に加速させる攻めた部分と、落ち着いて丁寧に読ませる展開の描き分けを強く感じる。「飽きさせない」と「理解させる」のバランスが絶妙なのだ。芥見下々の自分のマンガを客観視する力を感じる1巻だった。

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