作品全体をひとつ上級なものにするために捧げられた表現
関係性とはグラデーションにほかならない。単一的な関係などない。それぞれが、それぞれとして生きてきた果てに、関係性は派生するのだから、人と人との営みは、複雑でもあり、立体的でもある。とりわけ、元康が主人公を見つめる眼差しは、私たちにこの真理を教えてくれる。
その視線は、ただ単に、物わかりがよく、大らかなものではない。また、シンプルに、少年を護ろうとするものでもない。そうではなく、微かな憧れと、己の心を差し出す、奥ゆかしく謙虚な姿勢が感じられる。柔らかくも、優しくもあるが、年少者を上から見下すことが一切ない点が重要だ。
前述したとおり、元康は慎重なタイプ。慎重な男が、少年をどこかしら敬いながら、理解していこうとする、その眼の表情こそオリジナリティにあふれている。
単純明快な活劇ではある。登場人物の多い、青春群像劇でもある。だが、松平元康の、ふくらみのある人間像が、本作をドラマとして豊かなものにしている。
三浦春馬の表現は、自身の役どころを印象づけるためではなく、主人公の決断や成り行きの背景に説得力を持たせ、作品全体をひとつ上級なものにするために捧げられている。
これまでも三浦は、誇示とは一線を画する、映画の下支えとしての芝居を見せてきた。『ブレイブ -群青戦記-』における松平元康のテクスチャは、それがよりクリアに可視化されたものではないだろうか。
私は、三浦春馬の演技から、和菓子を想起する。それも、上生菓子。クリームではなく、餡子の風味が、しっとりと心地好く、安心感をもたらす。
どうか、セリフや物語展開だけに気を取られることなく、松平元康という人物の肌ざわりをしっかり見つめてほしい。上生菓子のような戦国武将なんて、想像しづらいかもしれないが、百聞は一見にしかず。
目にうつる全てのことはメッセージ。
なのだから。
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映画『ブレイブ -群青戦記-』
2021年3月12日(金)全国東宝系にてロードショー
監督:本広克行
原作:笠原真樹『群青戦記 グンジョーセンキ』(集英社ヤングジャンプ コミックス刊)
脚本:山浦雅大、山本透
音楽:菅野祐悟
出演:新田真剣佑、山崎紘菜、鈴木伸之、渡邊圭祐、濱田龍臣、鈴木仁、飯島寛騎、福山翔大、水谷果穂、宮下かな子、市川知宏、高橋光臣、三浦春馬、松山ケンイチ
(c)2021「ブレイブ -群青戦記-」製作委員会 (c)笠原真樹/集英社関連リンク
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