ゆりやんレトリィバァ悲願の優勝『R-1グランプリ2021』採点徹底分析。審査員たちの声が聞こえなかった謎を解く

2021.3.8

おいでやす小田「わしいらんやないかい!」

今回の『R-1グランプリ』はとにかく慌ただしかった。審査員にコメントを聞く時間がないことがわかるくらい、見ていてハラハラする進行だった。

これは審査ルールが大幅に変わったことが大きい。昨年は同時間帯の生放送で12人のファイナリストがおり、4人ずつ3つのブロックに分けて審査を行っていた。審査員ひとりが3票を4人に分ける相対評価であり、12人に対して審査は3回で済んだ。

今年はファイナリストが10人に減ったが、審査形式が変わったため審査は10回に増えた。さらにツイッターを使っての視聴者投票を受け付けるため、ひとりに対し1分間の待ち時間が発生する。ツイッターの結果がなかなか出ないトラブルもあった。

これが積もり積もって、どんどん進行がせわしなくなっていく。出場者のキャラクターを知る時間、審査員と共にネタを振り返る時間、敗れた者にフォーカスする時間……次々と余白や余韻がなくなっていった。

ただ、司会の霜降り明星や広瀬アリスは、放送中にこうしたことを一切話さなかった。ネタ終わりから審査までの1分間をファイナリストたちとのトークでつなぎ、時間が押してることも、スタッフがバタバタしていることにも触れない。

『R-1グランプリ2021』
『R-1グランプリ2021』ファイナリスト。マツモトクラブは復活ステージから勝ち上がった。イラスト/まつもとりえこ

そして、こんなに時間がないなかで、最も時間をかけて笑いを完成させたのは、暫定ボックスにいたおいでやす小田だった。

番組冒頭、暫定ボックスのレポーターとして紹介されたおいでやす小田。その後、敗者コメントを取る時間がなくなり、再登場したのは全組のネタが終わったあと。1時間以上カメラに映らない、というじゅうぶん過ぎるフリの時間を過ごしてからの「わしいらんやないかい!」という咆哮は、胸がすく思いがした。

放送時間があと1時間、いや30分あったら、もっと全員に話を聞けたし、もっと小田さんをイジれたのに……と思う一方で、これまで当たり前のように見ていた賞レースの生放送は、さまざまな経験とスキルの上に1カ月後成り立っていたと改めて知る。新生『R-1』はその一歩目を踏み出したに過ぎず、これから成長していくに違いない。

突然の芸歴制限。だがエントリー数は「増えた」

今年の『R-1グランプリ』を語るには、「芸歴制限」にも触れなければならない。これまで芸歴不問だった出場資格が「芸歴10年以下」と制限されたのだ。

この制限が発表されたのは2020年11月25日、『R-1』開催決定を伝える記者会見の場でのことだった。突然の発表だったため、予選に向けて1年間腕を磨いてきたベテラン芸人たちは、いきなり目標を失ってしまった。決勝常連のルシファー吉岡はイスから半日動けなくなったといい、会見ではおいでやす小田が「どうしてくれんねん!」と絶叫した(その1カ月後に小田が『M-1グランプリ2020』で準優勝するとは誰も予想できなかった)。

その後、出場資格を失った芸人たちのために、クラウドファンディングによって『Be-1グランプリ』が立ち上がる。『霜降りバラエティ』(テレビ朝日)や『オードリーのオールナイトニッポン』(ニッポン放送)などで、ベテランピン芸人が吠える動きもつづいた。ついには、『R-1グランプリ』本選の前日3月6日、芸歴制限をした張本人の『R-1』運営が、自らイベント『R-1ぐらんぷりクラシック~集え!歴戦の勇士たち~』(U-NEXT)を開催するにまで至っている。

『R-1ぐらんぷりクラシック~集え!歴戦の勇士たち~』優勝はヒューマン中村。イラスト/まつもとりえこ
『R-1ぐらんぷりクラシック~集え!歴戦の勇士たち~』優勝はヒューマン中村。イラスト/まつもとりえこ

ただ、ベテランたちが参加できないからといって、今年の『R-1』が楽な戦いになったわけではない。

『R-1ぐらんぷりクラシック~集え!歴戦の勇士たち~』出場者たち
『R-1ぐらんぷりクラシック~集え!歴戦の勇士たち~』出場者たち。イラスト/まつもとりえこ

『R-1グランプリ2021』のエントリー数は、昨年の2532名から2746人へ増えているのだ。いったんは廃止されたアマチュアの出場が、再び認められたことも大きいだろう。今回の出来事を思えば再び芸歴制限が変わるかもしれず、若手にとってはこのチャンスを逃すわけにはいかない。また、突然「ラストイヤー」になってしまった芸人たちも、並々ならぬ思いで出場せざるを得ない。

ゆりやん、本物の涙から

優勝が決まった瞬間、ゆりやんはその場で顔を覆った。泣いていると見せかけておもしろい顔……という、いつものくだりではなく、本物の涙を流していた。過去に3度も最終決戦に残りながらも敗れ、今回が5回目の決勝進出。激戦を制する過酷さは、誰よりもわかっている。

悲願の優勝トロフィーを前に、ようやく顔を上げたゆりやんは……やっぱりおもしろい顔をしていたのだった。

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