すべての親子は、いつか別れなくてはならない
シーズン1で「父親」としての自覚に目覚めた「マンダロリアン」ことディン・ジャリンは、シーズン2を通してザ・チャイルドのために幾度も体を張る。絶対に人前ではヘルメットを脱がないというマンダロリアンとしての信念をザ・チャイルドのために曲げ、ついにはモフ・ギデオンの銃撃にさらされたザ・チャイルドの前に身を投げ出してまで守ろうとする。
ザ・チャイルドがフォースを操ることができることをアソーカ・タノに見せてはしゃぐディン・ジャリンの姿は、自分のことにだけ気を配っていればいい傭兵だったころと比べて、大きく前進したものだった。
もうひとつの主題であるザ・チャイルドの自己確立については、「ついに“グローグー”というザ・チャイルドの名前が判明する」というかたちで象徴的に描かれた。フォースを使える謎の赤ん坊ということしかわからず、名前も判然としなかった(「ベビー・ヨーダ」という呼び名は、あくまであれがヨーダと同種族だとわかっている我々視聴者にしか通用しない呼び名だ)ザ・チャイルドは、その名がわかると同時に少しずつジェダイとしての道を歩み始める。
その過程に大きく関わるのが、かつて『スター・ウォーズ』の物語を通して自己を確立した男であるルークであるというのが象徴的だ。すでに先輩格となったルークが後進であるグローグーのために姿を現し、そしてディン・ジャリンもグローグーもよりよい未来のために別れを選択する。
希望と物悲しさとが同居したシーズン2のラストシーンは、今でも鮮烈に記憶に残っている。すべての親子は、遅かれ早かれどこかで別れなくてはならない。『マンダロリアン』においても、それは同じだった。
何度も描かれた「関係構築」のプロセス
もうひとつ重要なのが、これらの自己確立の物語はディン・ジャリンとグローグーだけの力で成し遂げられたわけではないという点だ。シーズン2開始当初の「グローグーを同族の元に帰す」という目的を達成するため、ディン・ジャリンはタトゥイーンの人間たちとタスケン・レイダーを共闘させ、自らも最前線で戦う。
また、グローグーの出自を知るためにジェダイであるアソーカ・タノの助言も得たし、ディン・ジャリンは彼女と共に帝国軍と戦うことになった。種族が異なるアウトローたちの相互信頼と共闘が、このドラマでは繰り返し描かれる。
ディン・ジャリンとアウトローたちとの協力は、交換条件とセットである。ギブアンドテイクの関係をベースにしつつ、その過程で信頼を築くまでの描写が『マンダロリアン』は抜群にうまい。普通の人間ではコミュニケーションを取れないタスケン・レイダーが相手でもディン・ジャリンなら会話ができるし、彼が物怖じしない背景には自分の戦闘技術への信頼があることも匂わされている。
そして、それはディン・ジャリンだけの話ではなく、ブラスターを携帯したキャラクターならば全員条件は同じだ。お互いの暴力を背景にした信頼という、アウトローらしい関係構築のプロセスが『マンダロリアン』には何度も登場する。
「平等さ」と「エモさ」が両立するからこその「感動」
「誰もが戦えるがゆえに、誰もが交換条件によって信頼を構築することができる」という構造を持っている『マンダロリアン』は、その構造があるがゆえに男女や種族を問わない平等さを描き出すことができた。キャラ・デューンやフェネック、ボ=カターンといった女性キャラクターの描かれ方や、彼女らとディン・ジャリンが信頼関係を築く様子に違和感がないのも、すべてはキャラクターの属性や性別ではなく戦闘能力がストーリーテリングや関係構築のベースとなっているからである。
『マンダロリアン』において、戦うことができない弱いキャラクターと、それを守るキャラクターとして配置されているのはグローグーとディン・ジャリンだけであり、それ以外の登場人物は皆自立し、戦う覚悟がある(あのフロッグ・レディですら、守られているだけのキャラクターではなかった!)。暴力と陰謀が渦巻く銀河辺縁に生きるアウトローたちを主人公にしたからこそ、この平等さを描くことができたと言える。
そして本来はドライな彼らが、交換条件の枠をはみ出してディン・ジャリンとグローグーのために体を張るからこそ、そこには嫌味のない感動が発生する。平等さとエモさを同時に描き切ったテクニック、2020年代の作品らしい配慮と荒っぽいアウトローの物語とをこういったかたちで組み合わせた手腕には、改めて脱帽するしかない。
シーズン2をもって、ディン・ジャリンとグローグーは別れることを選択した。しかし、たとえ別れても親子は親子である以上、ディン・ジャリンとグローグーの物語はこれからもつづくはずである。ファンとしては、また彼らが帰ってきてくれる日を(そして『The Book of Boba Fett』も)心待ちにしたい。
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