世界は美しさであふれている
淀川を眺めつつ、ビールを飲んでボーッとくつろぐ。たまにはこんな場所でダラッと過ごすのもいいな。高いところに来ると建物がひしめいて人がその間をひっきりなしに往来している騒がしい町がいきなり愛おしく見えてくるからおもしろい。さっきまでそこにいたことをすっかり忘れてしまう。
もう1枚あったビール券を使って、今度は「PERONI」というイタリアのビールを。さっきとは別の方角を向いた窓辺に座ってみると、西日が差してポカポカ暖かかった。
グラスの中のビールを通った日光が、テーブルに描く色彩をじっと見る。雲海から日の出が現れたみたいに見えるような気がして「美しい……」と感動してしまった。たぶん、すでに酔っていたからなのだろうけど。
ほろ酔い気分で地上に降りて歩いていたらもう一軒ハシゴしたくなった。居酒屋ではなく、空のハシゴだ。梅田周辺のあちこちから見えてやたら目立つ観覧車、「HEP FIVE」という商業施設の真っ赤な観覧車に乗ってみよう。
ビルの中に食い込むようにして観覧車が設置されている。この町を歩く人は見慣れているだろうけど、改めて考えるととんでもない建築だ。
ビルの7階まで上がると観覧車の下の部分が見え、ドアの向こうがすぐ乗り場になっている。
大人600円で1周が約15分間とのこと。ちょっといい居酒屋で生ビールを1杯飲んだと思えば高く感じない。
正面にJR大阪駅がドーンとあり、ここからも風の広場の裏側が見えた。
15分という時間は思ったよりも全然長くて、一日の中にこんなにぼんやりした時間があるということが悪くないなと思えた。しかも今日はそんな時間ばっかり過ごしている。悪くない一日だ。
「それにしてもデカいビルばっかりだな」とか「自分の住んでいる場所はあっちか」とか思って景色を見ていたら徐々に視界が低くなり、やがて乗り場が近づいてきた。
高いところから元の低い場所に戻ってきたときのフワフワした気分がおもしろい。魔法が解けたような感じでもあり、でもどこかいつもより足取りが軽く思えるような。
「これからもたまには天空やら空中やらに深呼吸をしに行こう」と思いながら、さっきは上空から見下ろしていた町を、点になって歩いていく。
■スズキナオ「遅く起きた日曜日に」は毎月第1日曜日に更新予定です。
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スズキナオ『関西酒場のろのろ日記』
本体1800円(税別)/232頁/四六判
ISBN 978-4-909483-72-0 C0095
発売日:2020年9月30日/発行:Pヴァイン
『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』の大ヒットで注目を集めるライターのスズキナオ。東京で生まれ育ち、数年前に大阪に転居。それまで馴染みのなかった関西の地と、酒場や酒を通じて出会ってゆく様子を滋味とペーソスあふれる文章で綴ります。
登場する酒場:中津「いこい」「はなび」、天満「但馬屋」、西九条「玉や」「金生」、「風の広場」「大阪城公園」、淀屋橋「江戸幸」ほか多数関連リンク
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スズキナオ『酒ともやしと横になる私』
本体1300円(税別)/208頁/三五判変型
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「チミドロくん、元い、スズキナオさんはもしかして偉人の類いなんじゃないかと思って来てる今日この頃です」……キセル 辻村豪文(音楽家)
「心底どうでもいい話を読まされてるなと思ってたら、それが宇宙の真理に直結していたりする。ナオさんの頭の中って、本当どうなってんだろ」……パリッコ(酒場ライター)
「自分をダメだなって思ってるみんな! ここにも仲間がいたぞ! でも何か違うんだ。やっぱナオさんは面白いわ!」……ビロくん(友達)関連リンク
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