芸人が売れていく過程を入れ歯によって体感するバカらしい経験
お笑い芸人のラジオが持つ大きな魅力のひとつは、彼らがスターダムにのし上がっていく過程を、リスナーとして追体験できるところにある。この『錦鯉の人生五十年』でもそんなラジオと同じような現象が起きている。
昨年の『M-1』から状況が一変。ふたりがテレビに出演する機会も増え、図らずも“中年コンビが売れていく様”をラジオを通じて側面から伝える状況になった。そもそもアラフィフになってから芸人が売れるという前例は皆無に等しい。ラジオ内では唯一の例として「綾小路きみまろ」の名前が挙がっていたが、そんな過程を追体験させる番組は前代未聞なのだ。
その姿をラジオで伝えるときのアイコンになっているのが、長谷川の入れ歯である。不摂生&貧乏生活で歯を次々と失い、ネタライブ中に歯が吹き飛ぶというアクシデントも発生。長谷川は奥歯を中心に8本も失う状態になっていた。
そんななか、少しずつ芸人として名が売れていくタイミングで、部分入れ歯を作ることになり、その状況報告がラジオでもされていく。「口の中を全部直したら、俺はパワーアップする」と公言していた長谷川だったが、とうとう一部ながら入れ歯が完成。ラジオではその入れ歯を装着する音まで披露した。
そして、『M-1』を経て仕事が増えたため、今度は入れ歯をじっくりと作る時間がないという状況になっていく。芸人が売れていく過程を入れ歯によって体感するなんてバカらしい経験は今後のどんなラジオ番組でも起こり得ないだろうが、とにかく錦鯉らしい話だ。
当然、芸人として人気が高まるのは喜ぶべきことなのだが、やはりこのふたりの話にはどこかほろ苦さがつきまとう。今の状況に至る過程で“逆境に負けなかった”という話が出たときには、渡辺が「逆境とかでこうなったわけじゃないじゃん、俺らは。ただダラダラやっていただけじゃん。ダラダラダラダラさ、がんばりもしねえで、この歳までお笑い楽しんでいただけでこうなっただけじゃん」と素直な思いを告白し、「絶対若いうちに売れたほうがいいんだから」と実感タップリに振り返っていた。
場末の居酒屋で安酒をたしなむ錦鯉のトークを盗み聞くという“最高の贅沢”
本人たちは意識してなかったというが、「人生五十年」という言葉を聞くと、戦国武将の織田信長が好んで歌い舞ったという「敦盛」の有名な一節を思い出す。ドラマの中で、よく炎に包まれた本能寺で信長が命を落とす直前に披露するあの舞いだ。
「人間五十年 下天のうちを比ぶれば 夢幻の如くなり 一度生を得て 滅せぬもののあるべきか」
人の世における50年なんて天界ならほんの一瞬で幻のようなものだ、という意味らしい。考えてみれば、人生におけるラジオを聴く時間なんて深い意味はなく、その場で笑って、あとはすぐに消えていく幻なのかもしれない。
でも、そんな時間が人生には必要だ。錦鯉による『人生五十年』は、まさに夢や幻の類。炎に包まれるなか、おバカな表情で踊り狂う長谷川と、その頭を引っぱたきながら低音の美声で歌う渡辺の姿を思わず想像してしまい、吹き出してしまった。
よく芸人のラジオを表現するのに「放課後の部室」という言葉が使われるが、このふたりの番組からは部室も、それこそラジオブースすらも思い浮かばない。頭をよぎるのは「場末の居酒屋」で、若者みたいに騒ぎ過ぎず、たまに愚痴や老いの不安をこぼしつつ、それでも楽しそうに安酒をたしなむ長谷川と渡辺の姿だ。そんなふたりのトークを盗み聞きしてニヤニヤするなんて、最高の贅沢にほかならない。
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