西島大介が発見した“資産”とは?漫画家の可能性を広げる『電子と暮らし』(大森望)

2021.1.25

文=大森 望 編集=森田真規


ベトナム戦争を描いた長編『ディエンビエンフー』や、2020年11月から完全版の刊行がスタートしたファンタジーシリーズ『世界の終わりの魔法使い』などで知られる漫画家・西島大介。

彼は2020年、令和元年度の文化庁メディア芸術クリエイター育成支援のサポートを受け、個人電子出版レーベル「島島」を設立していた。そして、その顛末を記した書籍『電子と暮らし』が昨年12月に双子のライオン堂出版部より刊行された。

本書を読んだ書評家・翻訳家の大森望は、「『西島大介・資産家への道』というサブタイトルをつけたくなる、大変ユニークな『ビジネス書』」と評した。


「自称・漫画家」から「自称・資産家」へ

漫画家・西島大介はいったい今、何をやっているのか?

その答えが、本書『電子と暮らし』にある。

「自称・漫画家」だった西島大介は、なんと、「自称・資産家」になっていた! いやむしろ、自分が「資産家」であることを発見し、その資産を活用した「実業家」への道に乗り出した、と言うべきか。その一部始終を記録した、めちゃくちゃおもしろくて示唆に富む、目ウロコ発言連発のノンフィクションが『電子と暮らし』である。

『電子と暮らし』西島大介/双子のライオン堂 出版部

会社をつくって苦労する赤裸々な起業ノンフィクションといえば、西島大介とも浅からぬ縁のある東浩紀の『ゲンロン戦記』(聞き手:石戸諭/中公新書ラクレ)が本書とほぼ同じころに出て大いに話題になっているが、『電子と暮らし』は、それをさらに小さく、さらにパーソナルにした感じ。

人を雇う余裕はないので、家族はいても社員は自分ひとり。人間関係のストレスはほとんどなく、もっぱらメールのやりとりだけで電子書籍配信事業を立ち上げ、それから1年。個人電子出版レーベル「島島」は、『ディエンビエンフー 完全版』全13巻をはじめ、2020年末の時点で27冊のバックリストを抱え、定期的に(漫画誌連載の原稿料並みの)利益を稼ぎ出す事業に成長したという。

マンガの電子書籍ビジネスというと、電子の売り上げが紙を抜いたとか、巣ごもり需要で売り上げがさらに急成長とか、景気のいい話ばかりが目につくけれど、大ヒット作があるわけではない漫画家でも、旧作という「資産」を電子書籍として活用することで新たな道が開けるというのが本書の教え。

雑誌に連載して、その原稿料をもらいながら新作のストックを増やしていくのではなく、旧作の活用によって、安定したマンガの制作環境を手に入れたわけである。

……とは言っても、そうそう簡単な道のりではない。自作の電子出版権を出版社から自分に取り戻し、電子書籍のもとになる写植(吹き出し文字)入りの原稿データをそろえるだけでも大変だ。西島大介は、意外な(失礼)忍耐強さを発揮して、このめんどくさい手続きを一個一個、着実に進めていく。

漫画家ビジネスの先行きを考えた、ユニークな「ビジネス書」


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大森 望

(おおもり・のぞみ)書評家、翻訳家、アンソロジスト。責任編集の『NOVA』全10巻と、『年刊日本SF傑作選』全12巻(日下三蔵と共編)で、第34回及び第40回の日本SF大賞特別賞を受賞(前者は第45回星雲賞自由部門を同時受賞)。『サンリオSF文庫総解説』(牧眞司と共編)で第46回星雲賞ノンフィクショ..