“余聞”から小説家の思考をトレースできる稀有なラジオ番組『高橋みなみと朝井リョウ ヨブンのこと』

2020.12.27

文=村上謙三久 編集=森田真規


2020年11月で放送200回を迎えたラジオ番組『高橋みなみと朝井リョウ ヨブンのこと』。“元AKB48総監督”と“直木賞作家”というほかにはない豪華で異質な組み合わせの番組だが、ここで毎週話されているのは「ヨブン」=「余聞」な他愛のないことばかりなのだ。

しかしそこでは、「遠い世界に感じる大きな事件も、取るに足らない些細な出来事も、自分の問題として受け止め、言語化しづらい感覚をラジオという場で言葉にする」ことができる、朝井リョウという「稀有で素晴らしいパーソナリティ」の才能が存分に発揮されている。

ユルくて楽しい「ヨブン」の話から、突然急カーブしてシビアな問題をリスナーに突きつける。その高低差を一度体験したら、ふたりのトークから耳が離せなくなるはずだ。


「自由奔放で勝手気ままに振る舞う朝井リョウを高橋みなみと共に愛でる」番組

ラジオ好きの芸能人・著名人を取材したり、プライベートでラジオリスナーと会ったりしたときは、決まって「最近、どの番組がおもしろいですか?」なんて話題になる。その際に、定期的に名前が挙がるのが『高橋みなみと朝井リョウ ヨブンのこと』(ニッポン放送)だ。頻度はそれほど多くないが、確実に「この番組が一番おもしろい」という熱を持っている人はいて、そのたびに私はニヤニヤしてしまう。

あまり自覚症状はなかったが、私自身もこの手の話になると「『ヨブンのこと』がおもしろいんですよ」と何度も口にしてきた気がする。それどころか、ラジオとなじみのない知人と会話するときに「ラジオで作家の朝井リョウさんがこんなふうに言っていたんだけど……」なんて訳知り顔で語っていることもけっこうある。極私的“誰かに話したくなる番組1位”であることは間違いない。

“元AKB48総監督”と“直木賞作家”という座組は、ラジオ界全体を見ても異質な組み合わせだ。パーソナリティがふたりの番組といえば、お笑いコンビやアイドルグループのメンバー同士というかたちが思い浮かぶ。役割がしっかりと分かれたパーソナリティとアシスタントという組み合わせもあるだろう。しかし、『ヨブンのこと』は違う。職種は違うし、プライベートの交流もない。雑誌で一度対談しただけという男女ふたりが、脈絡なく急に番組を始めて、それが今年の11月に放送200回を迎えたのだ。

番組の中身は基本フリートーク。番組ホームページによると、タイトルにある「ヨブン」=「余聞」であり、「本筋とは離れた話」「聞き漏らしていた話」「こぼれ話」「余話」を意味するという。まさにふたりの日常から生まれた“ヨブン”が毎回30分間語られる。未だに収録現場以外での交流がないというふたりの定番トークは朝井の「痔瘻(じろう)」と「ゆるいお腹」の事情。食べ物やスイーツの話も多い。

番組を知らない方は、「作家がパーソナリティの片方なら、堅苦しい内容なのでは?」と思われるかもしれないが、聴いている感覚としては、深夜ラジオや芸人ラジオに近い。番組の内容は「自由奔放で勝手気ままに振る舞う朝井を高橋と共に愛でる」という言い方が、一番ニュアンスが合っている気がする。

最近のメールテーマは「友達をなくした理由」「僕の私の(職場から)飛んだ話」


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村上謙三久

(むらかみ・けんさく)編集者、ライター。1978年生まれ。プロレス、ラジオ関連を中心に活動。『声優ラジオの時間』『お笑いラジオの時間』(綜合図書)の編集長を務め、著書に『深夜のラジオっ子』(筑摩書房)、『声優ラジオ“愛”史 声優とラジオの50年』(辰巳出版)がある。

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