“余聞”から小説家の思考をトレースできる稀有なラジオ番組『高橋みなみと朝井リョウ ヨブンのこと』

2020.12.27

取るに足らない些細な出来事を自分の問題として受け止め、ラジオという場で言葉にする

特に惹かれたのが「私から出た加虐心」。このテーマもリスナーのメールが起点となり、「人を傷つけてしまいたくなる自分が顔を出してしまう日が誰しもある」という話になって生まれたテーマだ。

『ヨブンのこと』では、「そんな気持ちを持ってはダメだ」「そんな出来事を笑い飛ばしてしまおう」というありがちな展開にならなかった。誰の中にもそれに近しい感情があり、私たちの日常とつながっているというのが朝井のスタンス。

募集を呼びかけた翌日から、たくさんのメールが届いたという。「高校で美人の先輩と仲よくなったが、校内ですれ違ったとき、その先輩の絶対的な自信をへし折りたいという願望に打ち勝てず、無視してしまった」「小学生のころ、男の子にからかわれてよく泣いている友人の崩れた顔が見たくて、いつも近くにいた」といった投稿が紹介された。

こういうときは、朝井も作家脳をフル回転させて思いを巡らせ、それを高橋がじっくりと聞くというかたちになる。朝井は「男に生まれた時点で肉体としての加虐性を持っている」という持論を展開し、店員と客、親と子、さらには煽り運転にも加虐心が関わっていると話を進めていく。最終的にはその気持ちとどう付き合い、どう折り合いをつけていけばいいのか、というところまで掘り下げていた。

遠い世界に感じる大きな事件も、取るに足らない些細な出来事も、自分の問題として受け止め、言語化しづらい感覚をラジオという場で言葉にする。小説家だということを差し引いても、朝井リョウはそんな稀有で素晴らしいパーソナリティだと思う。ちなみに、現在は「『私はこのとき宇宙を感じました』という一文が入ったエピソード」という変わったメールテーマが募集されている。

お笑い芸人がバラエティ番組の裏側を話す。アーティストがライブツアーのこぼれ話を明かす。それはラジオの魅力のひとつだが、小説家が創作活動につながる思考を語るというのも、それに含まれるのではないだろうか。このラジオを聴くようになってから、朝井リョウの書く小説をさらに楽しめるようになった。

そして、これもしっかりと語っておきたいが、番組の雰囲気を保っているのは高橋みなみという存在である。明るく、大らかで、どんなことにも素直な反応をし、どこか抜けていて、でもたいていのことには動じず、絶妙な距離感を保つ。そんな彼女の姿勢が番組の軸になっている。

自分でジングルを弾き語りしてしまうような朝井の暴れっぷりが番組の聴きどころではあるが、リスナーをつづけていくうちに、高橋みなみという人間も好きになる。ある意味、彼女の魅力が最も発揮されている番組と言えるかもしれない。

このコロナ禍の最中で、朝井は「何をしてても何かに影響を与えているし、逆に言うと自分も何かから影響を受けている。常に何かと何かに挟まれた状態で自分は生きている」という話をしていた。もしかすると、ラジオとリスナー、パーソナリティとリスナーもそういう関係にあるのかもしれない。

何度も繰り返すが、あくまでも普段の番組はそんな内容ではなく、「チーズケーキはどこも同じ味説」なんてことをおもしろおかしく語り合うようなユルいものだ。ほとんどは楽しい「ヨブン」の話なのだけれど、その隙間から時折顔を出す魅力にも気づいてしまったら、高橋みなみと朝井リョウが織り成すトークから耳が離せなくなるはずだ。

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