本当の幸福とは?
先に述べた3つの言葉はほんの一例に過ぎないが、このような言葉に私たちは常に踊らされている。これらの言葉(=情報)が世間で踊り始めた当初、方々で日用品の買い占めが起きて大きな問題となり、私たちも踊ったわけだ。それは誰かを笑顔にしたり、消費者自身が楽しくなるような踊りではなかったはず。しかし、踊ってしまったのである。
そこで得たモノによって、安息をも得られた方はいるだろうか。いたとしても、その“安息”は一時的なものでしかなく、「幸福」とはほど遠いものであったことは多くの方が身を持って知っていることだろう。このような情報が錯綜する世界に私たちは生きているのだ。
これは何も、現在のコロナ禍において生まれた現象でないことはいうまでもなく、コロナ禍によって浮き彫りになったに過ぎない。
パウルもトニーもまた、情報に翻弄されている人間だと観客の眼には映るだろう。彼らが選び取っていくモノはそれぞれ異なるが、それはまるで、彼らが社会においてどのような存在であるのかを示すもののようだ。彼らが手にする“モノ”は、それぞれの環境下から得た情報が、“実体化”した結果のように思えるのである。たとえばそれは、調理器具や花瓶であったり、あるいは育毛剤なんかであったりするのだ。
◯パウルが7日目までにピックアップしたモノ
Day 1 → コート
Day 2 → パンツ
Day 3 → 歯ブラシ
Day 4 → ニット帽
Day 5 → 靴
Day 6 → スマホ
Day 7 → セーター
◯トニーが8日目までにピックアップしたモノ
Day 1 → 寝袋
Day 2 → 靴
Day 3 → パンツ
Day 4 → シャツ
Day 5 → ブリーフ
Day 6 → マットレス
Day 7 → 歯磨き粉
Day 8 → 育毛剤
問題なのは“モノ”ではなく、情報化社会が生み出す歪なリズムに合わせて踊ってしまう個々人なのだと思う。人はそれぞれの生活様式に合った、情報の取捨選択が必要だ。一人ひとりの生活環境は異なるのだから、そこでの最適解もまた人それぞれだ。生活を送る上で大切なものが、必ずしも“モノ”だとは限らない。“物質的な豊かさ”を求める方を否定するつもりはないが、本作の主題もコレなのだと思う。
筆者自身はどちらかといえば、“物質的な豊かさ”を求めてしまうきらいがある。本来であればマスクよりも、オシャレなアクセサリーのほうが欲しい。また、自宅での時間を快適に過ごすためのアイテムはすぐに欲しくなる。しかしそれが、幸せへの道につながっているのかと聞かれれば、「ううむ」と首をかしげざるを得ない。
「幸せになりたい!」とは、いつの時代においても誰もが願うもの。いろいろな困難に見舞われた2020年だけれども、そこでの幸せとは誰が決めるのだろう。社会の情報が示す物差しではなく、自分自身の生活に適した物差しで、一度測ってみる。それが重要なのではないだろうか。
「日常」のよけいなものを削ぎ落とし、「生活」をシンプルにすること。そうすることで見えてくる、自分に合った「幸福」というものがあるのかもしれない──『100日間のシンプルライフ』を観て、そうひしひしと感じた。
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映画『100日間のシンプルライフ』
2020年12月4日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷・有楽町、シネマート新宿ほか全国順次公開(PG-12)
原題:100 DINGE
監督・脚本:フロリアン・ダーヴィト・フィッツ
出演:フロリアン・ダーヴィト・フィッツ、マティアス・シュヴァイクホファー、ミリアム・シュタイン
配給:トランスフォーマー、フラッグ
(c)2018 Pantaleon Films GmbH / Erfttal Film & Fernsehproduktion GmbH & Co. KG / WS Filmproduktion / Warner Bros. Entertainment GmbH
(c)Anne Wilk 2018 / Pantaleon Films GmbH / Erfttal Film & Fernsehproduktion GmbH & Co. KG / WS Filmproduktion / Warner Bros. Entertainment GmbH関連リンク
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