Pairsで入るべきコミュニティは「星野源」。『普通の人でいいのに!』作者らが語るマッチングアプリのリアル

2020.11.5


本当は「普通の人でいい」わけじゃない

(左から)ポス子、冬野梅子、キクイマホ。「ほのぼの日常系のつもりで描いた」と冬野

冬野「私としては、特別なことを描いたつもりはないんですよね。『コボちゃん』とか『ちびまる子ちゃん』みたいなほのぼの日常系のつもりで描いたんで、こんなにいろんな人が反応してくれるとは思ってなかったです」

さすがに「ほのぼの」は無理があるが、特に事件が起こるわけではない生活の機微を描いたという意味では確かに日常系ではある。フィクションとは思えない表現から、主人公と冬野さんを同一視してしまう人もいる。

冬野「『この女は頭がおかしい』みたいな感じで怒ってる人も多くて。この主人公は自分の嫌な部分を凝縮したんです。読んでいる人を置き去りにしない主人公にしたかった。性格がよくなく、実力もなく、見栄ばかりあって、でも勇気はないっていう」

これを聞いて「私じゃん……」と呟きビールを一気に煽っていたキクイさんは、作中で放送作家などの業界人と仲よくすることで、自分も何者かであろうとする描写に心の出血が止まらなくなったそうだ。

マンガを読んで「心の出血が止まらなかった」と語るキクイ

冬野「でも、そういう汚い優越感とかずるい気持ちをないものとして生きていくことのほうがつらくなってきたんですよね。『私は最悪なんで』って言っちゃったほうが楽かなと」

こういった痛々しい場面は、キャラクターに感情移入することなく俯瞰しながら描いているそうで、主人公が自身のサードプレイスとして大切にしているバーで放送作家に告白してしまうシーンは、描きながら「ああ、こういう人ってこういうときに急に告っちゃうよなあ」と思ったという。

冬野「あのシーンは『いい子でいることの無駄さ』みたいなものが描きたかったんです。コミュニティを荒らさないように優等生でいると、誰からも嫌われないけど、いないのと一緒になっちゃうんですよね。まわりから求められてる気がして優等生みたく振る舞うんですけど、本来はそうじゃないから無理になってしまう。

本当は『石油王と結婚したい』って言いたいじゃないですか(笑)。チェック項目が100個くらいあって、それに全部当てはまる相手じゃないと付き合いたくない。でも、そんなこと言ったらまわりから叩かれるんで、『普通の人でいいんです』って言っちゃうんですよね。まわりから言わされてるというか。そしたら本当に普通の人としか出会えないから、そりゃうまくいくわけないですよね(笑)。『普通の人だった』っていう感想しかないんで」

作中、主人公は元同僚の「普通の」男性と付き合うことになり、「でもこれが幸せなんだよね?」と納得しようとするが、違和感が消えることはなかった。

「会ったら生々しくて無理」「マッチングだけで満足」アプリのリアルな話

『マッチングアプリで会った人だろ!』はこうした「普通の出会い」に未練を残しつつ、穿った態度を取りながらも冬野さんがマッチングアプリを使って男性と実際に出会う様子が克明に描かれている。

冬野「必死で出会いを求めてアプリを使って、誰とも出会えなかったらつら過ぎるんで、半笑いで使ってました。自分のプライドが許してくれないっていうか、せめて涼しい顔をさせてほしい(笑)。でもそういう人多いですよね。プロフィールに『使い方よくわかりません』って書いてる人多いですけど、そんなわけないだろ!って(笑)」

ひとり目に会った男性を「生理的に無理」と思ってしまう描写がある。

冬野「写真で見てたときはキモいなんてまったく思いませんでした。実際に会ってみたら生身の人間で、その生々しさが無理で。うまく言い表せないんですけど、思ってたのと違うというか。ふにゃふにゃしゃべってるし」

「思ってたのと違うというか。ふにゃふにゃしゃべってるし」マンガでも出てきたエピソードを語る冬野

マッチングアプリで知り得る相手の情報は、静止画像とプロフィールのデータのみ。それだけで相手を完全に理解することはもちろん不可能なので、あれこれ補完して人物像を想像せざるを得ない。結果として現実とはかけ離れた相手ができ上がってしまい、目の当たりにしたときにそのギャップに戸惑ってしまう。大好きなマンガがアニメ化したときにキャラクターの声になじめないのと同じだ。

逆に、出会わずに完結してしまうこともある。

私が冬野さんとマッチングしたのに、なんのメッセージも送らなかったのは、マッチングした時点で関係性が達成されたような気がして満足してしまったからだった。恥ずかしいので小難しい言葉を使ったが、要は「付き合ったような気になれたんで、もうじゅうぶんです」というものすごくこじんまりとした理由。自分でもどうかと思う。

冬野「あ、でもそれはちょっとわかりますよ。マッチングした相手にとって、自分はまったくナシではなかったんだなと確認できると安心しますよね」

ポス子「Tinder(ティンダー)は若い俳優とかモデルが人脈作りために登録してたりするので、そういう顔のよい相手とマッチングすると自己肯定感爆上がりするんでオススメですよ。でも、なりすましとか、ヤリモクの人も多いんで、逆にマッチングするだけにしといたほうが健全かも。私、なりすましの人をまじで説教しまくってTinder出禁になってますからね(笑)」

「Tinderは顔のよい相手とマッチングすると自己肯定感爆上がりするんでオススメ」とポス子

「好きな音楽何?」に「くるり」で様子見しなくていいのは便利だけど……


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