「歌謡ポップ・ミュージック」の完成形――「1987年の少年隊」
そして、ついに……。筒美京平さんと少年隊による「歌謡ポップ・ミュージック」の完成形、「1987年の少年隊」に至る。彼らが1987年にリリースした筒美京平作曲によるシングル3連打、つまり「stripe blue」「君だけに」「ABC」。この3曲に関してはタイトルの文字を打っているだけでも、涙が出てしまいそうになる。
京平さん以外のクレジットは少し入り組んでいるのだが、作詞・松本隆さんによる「完璧な夏曲」である「stripe blue」と「完璧な冬曲」の「ABC」。そして康珍化さん作詞による永遠の名バラード「君だけに」。「stripe blue」「君だけに」のアレンジは馬飼野康二さん、「ABC」のアレンジは船山基紀さん。
ともかく、こんないい曲たちがこの世にあるでしょうか!!!!ない!!!!と、突然、窓を開けて大きな声を出してしまいたくなる! そんな衝動に駆られるほど、自分にとってソングライター人生の道標となる楽曲群。個人的な感情を除いても歌唱、ダンス・パフォーマンスすべてを含む、日本のポップスの最高到達地点、極北だと僕は信じている。
もちろんそこには、ジャニー喜多川さんという偉大なプロデューサーの存在と審美眼があったからこそなのだが。彼の壮大な夢を実現するために、史上最高のスタッフが結集し、若き少年隊と共に築き上げた眩い神殿のような名曲たち。船山さんは、自身のアレンジで「ABC」が一番好きだと以前、僕に教えてくれたことがある。心から大好きな曲だと……。船山さんは、訃報を受けた僕が茫然としていると「郷ちゃん、京平先生の音楽は永遠に残るから大丈夫だよ」と、なぜか僕を慰めてくださった。ご自身のほうが深く濃密な歴史を共に刻まれてきたのにもかかわらず。
自分にしかできない、京平先生への恩返し
2020年10月12日。京平さんの訃報が届いた日の深夜。眠れずにいると武部聡志さんから「『卒業』や『夜明けのMEW』のレコーディングのときのエピソード今度ゆっくり話すよ、、」とメッセージが届いた。
僕は、中学生のころに買った『君だけに』のアナログ・シングルをターンテーブルに載せてみた。植草克秀さんが、「君だけに ただ 君だけに ah めぐり逢うために」と歌い出す。その瞬間、僕の心に、改めてこの曲の指し示す「君」がなんなのか、誰なのか、という疑問が浮かび上がってきた。
それと同時に聴き終わった瞬間、自分なりの解釈がスーッと身体を貫いた。作詞家の康珍化さんがその意図を持って書かれたかはわからない。しかし、この曲の言葉が指し示している究極の「君」とは、音楽、エンタテインメントそのものなんじゃないか。僕らを勇気づけたり、笑わせたり、驚かせたり、楽しませ、時には涙も流させる、音楽、パフォーマンスに対する愛、ジャニーさんや京平さんが追い求めた理想郷。そのギリギリの場所にまで手を伸ばしたところで待っている「神」のような存在、体験、に対する祈りのようなメッセージなんじゃないか、と……。
素晴らしい音楽を誰かと一緒に分かち合う、その瞬間にめぐり逢うために、寂しさと共に僕たちが生まれたんだとするならば……。京平さんほど、たくさんの日本人に悦びを与えた作曲家はいないし、世代を超えて津々浦々さまざまな場面を演出したメロディメイカーはいない。どれだけの子供が、孤独を抱いた若者が、恋する男女が、疲れた大人が、年老いた人が彼の生み出した音楽で果てしない日常を彩り心地よい気分になったことだろう。
「筒美京平論」など、千人が書けば千種類のストーリーが紡げるはず。僕も個人的なスタジオでのやりとりや助言について細かく書こうかとも思ったが、うまくまとめられなかった。今はそれよりも素晴らしいヒットソングの数々を改めて浴びながら、京平さんの音楽に出会えたからこそ音楽が好きになれたことそのものに感謝することしかできない。
プロデュースしていただいた、NONA REEVESの「LOVE TOGETHER」と、「DJ! DJ! ~とどかぬ想い~ / feat. YOU THE ROCK☆」、作詞家として唯一ご一緒できた近藤真彦さんの「情熱ナミダ」は一生の宝物。
僕の本質は、未だにシンガー・ソングライターでありバンドマン。「職業作曲家」という京平さんが担われてきた役割とはスタンスは違う。ただ、短い一時期にせよ直接薫陶を受ける幸運を得た自分にしかできないこともあるはず。恩返しはこの国の「ポップ・ミュージック」の歴史を自分の世代なりに語り継ぎ、歌い、作り、つないでゆくことしかないと思っています。
京平先生。本当にありがとうございました。
2020年10月18日
西寺郷太(NONA REEVES)
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