『ヒプマイ』がキャラソン業界に起こした革命とは?

2020.1.21

「Enter the Hypnosis Microphone」 初回限定LIVE盤

文=冨田明宏
トップ画像=『Enter the Hypnosis Microphone』初回限定LIVE盤


2018年から19年にかけて、アニメ業界とアニソンシーンにおいて話題の中心となった『ヒプノシスマイク』。アニメとヒップホップという、長年にわたり縁の遠かった両ジャンルはいかに融合し、業界に風穴を開けたのか。

音楽プロデューサー・評論家の冨田明宏が、「キャラクターソング」の視点から、『ヒプノシスマイク』の可能性を解説する。

※本記事は、2019年4月25日に発売された『クイック・ジャパン』vol.143掲載のコラムを転載したものです。

ヒップホップはアニソンシーンに根付かなかった

アニソンの歴史において、ヒップホップがシーンのトレンドになったことはこれまで一度もなかった。元来アニメオタクやそれに紐づくアニソンオタクというものは、ヒップホップをはじめとするストーリーカルチャーとは無縁の存在だった。しかし過去には幾度かアニメにヒップホップを取り入れようという動きがあった。その代表的な作品が2004年に放送されたTVアニメ『サムライチャンプルー』である。

『カウボーイビバップ』を手がけた渡辺信一郎監督による本作は、音楽をSHAKKAZOMBIEのTSUTCHIE、Fat Jon、Nujabes、Force Of Natureが手がけ、OPテーマはNujabes feat.Shing02「battlecry」、EDテーマはMINMI「四季ノ唄」というトガりにトガった布陣。Nujabesが亡くなってしまった今となってはまさに奇跡とも言うべきサウンドトラックであり、現在活躍している世界中のLo-fi HIP HOPのトラックメイカーたちに多大な影響を与えた作品でもある。

『samurai champloo music record impression』

しかしながら、本作は全世界で高い評価を獲得したものの、ヒップホップがアニメ業界やアニソンシーンに根付くことはなかった。『サムライチャンプルー』以外にも、ヒップホップやラップをアニメの劇伴(BGM)に積極的に起用してきたのが音楽家・岩崎琢である。2007年に放送されたTVアニメ『天元突破グレンラガン』の劇伴には「ラップは漢の魂だ!己を信じて天を指さす怒涛の男・カミナ様のテーマを耳の穴かっぽじってよ~く聴きやがれ!!」という曲があり、オールドスクール・テイストのヒップホップナンバーが堪能できる。岩崎は本作以外にも『ヨルムンガンド』をはじめさまざまなアニメ作品でヒップホップやラップを取り入れてきたが、声優の芝居に干渉しやすいラップを劇伴に使うことは本来タブーな手法だったりする。

キャラソンにおけるヒップホップの萌芽

ラップという観点で言えば、アニソンシーンから愛され続けるベテランラッパーのmotsuがいる。22歳で渡米した彼はヒップホップカルチャーとダンスを学び帰国、いくつかのユニットを経て1997年にJPOPユニットmoveを結成(2005年にm.o.v.eに改名)。2001年にはアニメ映画『頭文字D Third Stage』の主題歌「Gamble Rumble」で大ヒットを記録。さらにその後fripSideのsat(SAT)、黒崎真音(MAON)とともにALTIMAを結成。“三大アニソンフェス”と言われる『Animelo Summer Live』『ANIMAX MUSIX』『リスアニ!LIVE』に出演し熱狂を生み出していた。motsuは地道かつ着実に、アニソンシーンにラップという文化を根付かせていった最大の功労者だと思う。

しかしながら『ヒプノシスマイク』の場合、文脈的にはキャラクターソング、いわゆる“キャラソン”であり、キャラクター同士がディビジョンにわかれてラップバトルで陣取り合戦……などというアイデアは、未だかつてアニメ業界にもアニソンシーンにも存在しなかった。2018年に放送されたTVアニメ『ゾンビランドザガ』第2話「I♡HIP HOP SAGA」における秀逸なMCバトルも話題を呼んだが、これは“ヒプマイ以降”に位置する文脈で語られるべきだろう。

木村昴、武内駿輔、宮城一貴が演じたモブキャララッパーたちも秀逸で、木村は言わずもがなだが、武内も過去にキャラソンでラップを披露した経験があり、新人の宮城に至っては特技が“フリースタイル”である。『フリースタイルダンジョン』世代の声優たちの才能が、既にこの業界でも芽吹きはじめているようだ。


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